この記事は2022年2月17日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米国株式、2022年末に長期金利2.4%までなら耐えられる?」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 要旨
  2. 1 ―― 米長期金利の上昇を嫌気して急落
  3. 2 ―― 急落してもまだ高い米国株式
  4. 3 ―― 長期金利2.4%くらいまでなら株価横ばいか
  5. 4 ―― 最後に

要旨

米国株式
(画像=PIXTA)
  • 米国株式は2022年に入って米長期金利の上昇などが嫌気され急落したが、引き続き割安感に乏しい水準にある。

  • 今後も米長期金利の上昇が見込まれるが2022年末までに2.4%までに収まる程度の上昇であれば、株価は足元の業績見通しを元に考えると横ばいを維持できる可能性が高いだろう。

1 ―― 米長期金利の上昇を嫌気して急落

米国株式は、2022年に入ってから金融引き締めの前倒し観測とそれに伴い米長期金利(10年国債利回り:黄線)が1.8%をつけるなど上昇したことが嫌気され急落した【図表 - 1】。S&P500種株価指数(青線)は年初4,800ポイント目前であったが、1月27日には昨年10月以来の4,300ポイント割れ目前まで下落した。

その後、S&P500種株価指数は米主要企業の好決算を好感して反発し、2月頭には4,600ポイント目前まで回復した。しかし、1月の米雇用統計が予想外に良好で、1月の米消費者物価指数も市場予想を上回る上昇であったため、長期金利が一時2%をつけるなど再び上昇したことから株価の上昇が止まった。さらにはウクライナ情勢の緊迫化も加わり、S&P500種株価指数は再び4,500ポイント前後の水準で推移している。

米国株式
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2 ―― 急落してもまだ高い米国株式

このように米国株式は急落したものの、実は割安感に乏しい水準にある。S&P500種株価指数の予想PER(青線)は足元20倍前後で推移しており、22倍に迫っていた年初と比べると低下したが、いまだに高水準にある【図表 - 2】。今後は、長期金利の上昇とともに予想PERがさらに低下することが見込まれる。予想PER(縦軸)と長期金利(横軸)の分布をみても、長期金利が低いほど高PERが許容されており、予想PERは概ね以下の式が成り立っていたことが分かる(*1)【図表 - 3】:

米国株式
(画像=ニッセイ基礎研究所)
米国株式
(画像=ニッセイ基礎研究所)
米国株式
(画像=ニッセイ基礎研究所)

(*1) 詳しくは「米国株式、金利上昇への耐久力は?」参照。<めsmall>


3 ―― 長期金利2.4%くらいまでなら株価横ばいか

ただ、その一方で米国経済や企業業績は現時点では堅調で、予想EPS(赤線)が切りあがっていくことも見込まれている【図表 - 2】。そのため、2022年末までに長期金利が上昇しても2.4%以下に収まるなら、米国株式は現在の水準を維持できる可能性が高いと思われる。

実際に長期金利2.4%を前章の式に当てはめると、予想PERは14.5倍から18.5倍が許容される範囲となる。そこにS&P500種株価指数の足元の来期2023年予想EPS:243ポイントを掛けると、だいたい3,500ポイントから4,500ポイント(面グラフ)となる【図表 - 4】。つまり、長期金利の上昇が緩やかで年末に2.4%くらいであれば、足元の株価の水準を維持できる可能性が高い。

さらにS&P500種株価指数が年末に向けて年初の株価水準4,800ポイントに迫るには、長期金利の上昇がより緩やかで年末に2.1%以下に収まる必要がある。長期金利は既に2%を超えてきていることを踏まえると、年末までに2.1%以下に収まる可能性は極めて低い。ゆえに、2022年中に年初の水準に戻って終えるのは難しいと思われる。逆に長期金利の上昇が急で年末に2.7%を上回ると、S&P500種株価指数は4,300ポイントを割れ、2022年1月のFOMC直後につけた年初来安値を下回ることが示唆される。

なお、この試算はあくまでも足元の業績見通し、来期予想を元に試算しており、これから米国企業の業績見通しが上方修正されたら株価の上値が切りあがり、逆に下方修正されれば切り下がることになる。また便宜上、金融政策、長期金利と企業業績を切り離して試算しているが、本来は密接に関係する。特に金融引き締めに伴う景気の減速、いわゆるオーバーキルが警戒されており、急激な金利上昇を契機に想定以上の株価下落を誘発する可能性があるため、金利の動向には注意が必要である。

米国株式
(画像=ニッセイ基礎研究所)

4 ―― 最後に

いずれにしても、米国株式は2022年通して金融政策の動向に左右される可能性が高い。2022年3月のFOMCの利上げ幅、または3月以降に行われる利上げ回数、さらにはバランスシート縮小の時期やそのペースなどに注目されている。ぜひ、本稿で紹介した長期金利と予想PER、さらには株価の関係、水準感を頭の片隅に置いた上で今後の動向を追っていただけたら幸いである。


(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。

前山裕亮 (まえやま ゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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