この記事は2022年5月26日に「テレ東プラス」で公開された「室内を見違える空間に!~家具の新勢力、驚きの全貌:読んで分かる『カンブリア宮殿』」を一部編集し、転載したものです。
目次
お値打ち&高品質で大人気~急拡大!家具店の新勢力
横浜市の商業施設で客を集めているリビングハウス横浜ベイクォーター店。店内に並ぶのは、センスのいい小物からインテリアまで、膨大な数の品々だ。「うららかな金木犀の香りアロマバスソルトBOTTLE」(2,750円)、手入れがいらず部屋が華やぐ「フェイクフラワー」(440円~)……。素敵な店内の一角には、落ち着いた雰囲気のカフェも併設。ゆったりと時間を過ごすこともできる。
▽手入れがいらず部屋が華やぐ「フェイクフラワー」
ただし、今はやりのおしゃれな雑貨店ではなく、家具店だ。
魅力の1つが高品質な家具をお値打ち価格で買えること。例えば、オーダーで生地やサイズが選べるソファ「SAIⅡソファ」。背もたれも動くが、税込みで20万5,040円。しかも30回の分割払いができるため、月6,000円代で購入できる。
そしてリビングハウスが人気を呼ぶ最大の理由は、買った家具をどうコーディネートすれば部屋が素敵になるか、教えてくれることにある。店に詰めかけているのは、部屋作りに悩む客たちだ。
去年、リビングハウスで家具を購入した兵庫・尼崎市の菅谷さん宅では、白を基調としたキッチンや床を生かしたいと、家具のコーディネートを依頼。木目が美しいテーブルセットと出会うことができたという。
▽リビングハウスで家具を購入した兵庫・尼崎市の菅谷さん宅
リビングハウスのコーディネートには3Dソフトという秘密兵器があった。
蔵方さん夫婦のお目当ては「カリガリス デュッカ伸長式ダイニングテーブル」。だが、複数ある色味をどれにするか悩んでいた。そこでアドバイザーの杉山美樹が、部屋のレイアウトや今ある家具の色などをヒアリング。そしてその情報をもとに似た形の家具を配置し、あっという間に客の部屋を3Dで再現した。
問題のダイニングテーブルの色味の検討が始まった。杉山の説明に納得の2人。すると杉山、今度はテレビとソファの間の空間にテーブルや壁と同系色のラグを敷くことを提案した。確かに空間に一気に統一感が生まれた。
さらには部屋のアクセントとして、ブルー系のアートの設置を提案。こうして殺風景だった部屋全体が見違えるようにコーディネートされ、おしゃれな印象に一変した。
リビングハウスは誰もが持つ部屋の悩みを解決する戦略で急拡大。東京近郊のショッピングモールから百貨店まで、店の数は全国で30店舗を超えた。価格破壊に苦しむ家具業界の中、この10年で売り上げを3倍に伸ばす大躍進を遂げた家具の新勢力なのだ。
家具店の常識を覆す~部屋のトータルコーディネート
2022年4月18日、福岡市。オープンを控えていた商業施設「三井ショッピングパークららぽーと福岡」の一角の大きなスペースにリビングハウスの新店があった。朝早くから店内をくまなく見て回るのが社長の北村甲介だ。売り場でいかに家具を引き立たせるか、北村の細かいダメだしが始まった。
気になったのは2脚の椅子の配置。「こちらの椅子の後ろ姿がきれいだなと思ったら、逆にしたほうがいい」と言うのだ。ちょっとした椅子の置き方1つで、家具の見え方が変わり、売れ行きにも影響があるという。
そしてこの日、最も問題だと指摘したのがブルーのソファ。
「後ろからも座れるというデザインなのに、なぜ壁際に置くのか。論外だと思う。あとは他の家具との合わせ方が華奢すぎる。重厚な家具と合わせないと良く見えない」(北村)
そして北村恒例の、他の家具との入れ替えが始まった。問題のブルーのソファは重厚な家具の前へ。確かに置き方1つで家具の印象は一変する。
「ちょっとしたことで変わります。合わせ方もそうですが、置き方、向き1つとっても変わる」(北村)
▽置き方1つで家具の印象は一変する
北村の実家は祖父の代からの創業80年の家具店だ。一時はどん底だった家業を、部屋のトータルコーディネートという新たな切り口で反転攻勢に成功。家具店の常識を覆す新業態を作り上げてみせた。
「物を売っているのでなく、シーンを提案して売っている。そのシーンでくつろいでいただく時間を買ってもらっている。僕らは家具屋だと思っていないです」(北村)
だから北村の店では冷蔵庫まで売っている。高級仕様の冷蔵庫を家具と合わせて並べると、意外なほど売れるのだという。
「ステンレスの仕上げにスチールを合わせる。これこそがコーディネートです」(北村)
家電量販店「エディオン」と提携、家具と合う個性的な色合いの家電を集め店内で販売しているのだ。
「家電の売り上げを見せたら、ダイキンさんがびっくりされた。『家具屋さんですよね。どうやって売っているんですか?』と。今年からリビングハウスのオリジナルカラーモデルのダイキンのエアコンを売っているんです」(北村)
家具店の常識を壊す独自の戦略をとる一方、北村はドイツの世界的な家具メーカー「KARE」と日本での販売を独占契約するなど、家具の販売でも、価格競争とは一線を画する戦略でファンを増やし続けている。
北村が大切にし続けるのが協力工場との家具作りだ。機械化する工程は徹底的に機械化し、使い心地を左右する工程は手作業を残す。その追求が、高品質でもお値打ちな家具を支えているという。
「簡素化して作る部分と徹底的にこだわって職人さんに細かく作業してもらう部分の合わせ技で、値ごろ感を出す工夫をしています」(北村)
▽使い心地を左右する工程は手作業を残す
もうけよりお値打ち優先~独特な値付け方法
スタジオで北村は「我々の価格の付け方はすごく特殊なんです」と言う。
「バイヤー、店舗スタッフ、僕らで商品を見て、『いくらだったらお客様がお値打ちに感じて興味を持ってくれるか』をそれぞれが電卓で打つ。『せーの』でそれを見せあって、『それは高い』『そんな安いわけがない』と言い合う。原価は後で見るという値付け方法です」
実際に家具の仕入れでどんな値付けを行っているのかを、見せてもらった。
この日は国内のトップレベルのメーカーのソファ。狭い室内でも圧迫感がないようなスリムなデザインの一方、さまざまな形に組み替えることもできる商品だ。
▽電卓で『せーの』で『それは高い』『そんな安いわけがない』と言い合う
北村を含めて3人で、早速、客の気持ちになり、いくらなら買いたいかを考える。そして「せーの」で電卓を見せあうと、値段は税抜きで20万円前後にそろった。だが、実は原価は思ったより安かった。
リビングハウスの値つけは、まず買いたくなる価格ありき。だがもし思ったより原価が安ければ、利益をさらに削ってでもよりお値打ちな価格を実現する。結局、この商品は税抜き18万1,000円で売ることが決まった。
「お手頃でお客さんに喜んでもらえる価格で、しかもたくさん売れるギリギリのバランスはどこかを一番大事にしています」(北村)
3代目がジリ貧から大逆転~家具配達で見た悲しい現実
リビングハウスの本拠地は、大阪・心斎橋に近い通称「オレンジストリート」にある。かつては家具やタンスを売る店が軒を連ねる商店街だった。その中にあった「共栄家具」が北村の祖父が創業した店だ。今、ここで家具を売る店は10店舗程度だが、「最盛期には51店舗あった」(北村)。「共栄家具」はリビングハウス堀江店として生き続けている。
▽「共栄家具」はリビングハウス堀江店として生き続けている
多くの店が時代の変化に敗れ去っていく中、3代目の北村が大逆転を起こせた理由は、かつて膨大な数の裕福な家々に家具を届けた時の出来事にあった。
北村は大学を卒業後、ベンチャー企業に就職するが、やがて家業を継ぐことを決意。修業のため北欧の家具メーカーに転職する。そこで担当したのが家具の配送。自分でトラックを運転、1年半で1,000軒の家へ家具を届けた。
「お客さんのご自宅はタワーマンションや戸建てでも大きな家が多かったんです」(北村)
日々何軒もの家を訪問する中で、北村はあることに気づく。
「おしゃれだな、素敵だなと思うご自宅は100分の5。車は高級外車でも家の中はおしゃれじゃない。『なんだ、このギャップは』と思ったんです」(北村)
素敵な部屋に住みたいのに、誰も実現できていない。北村が、家具店の新たな役割として室内のコーディネートに注力しようと決めた瞬間だった。
家具の新勢力が地方で活躍~もうけのノウハウを伝授
大阪市内に去年完成した真っ黒いビル。世界的ホテルチェーン「マリオット」が安藤忠雄のデザインで去年開業したホテル「W大阪」だ。外観からは想像できない奇抜な内装が注目の的となっている。
そこにやってきたのはリビングハウスの社員たち。1泊100万円を超える「エクストリームWOWペントハウススイート」を見学、歓声をあげる。リビングハウスでは社員たちにさまざまな最新の施設を見学させ、室内コーディネート力を勉強させる取り組みを行っているのだ。
▽去年開業したホテル「W大阪」奇抜な内装が注目の的
ちなみに、販売成績が優秀だった社員へは一泊6万円の宿泊もプレゼントされていた。
「ご褒美として宿泊させてもらいました。日本人にはない内装の作りや色使いが素敵で異空間でした。こういう新しい情報をキャッチしてお客様へのトータルコーディネート提案に役立つと思います」(大丸東京店ストアマネージャー・伊藤明や伽)
一方、鹿児島市には北村の姿があった。お目当てはガラス張りの店「インハウス久永」。1階には、おしゃれな雑貨が並び、2階では家具がメインで売られていた。北村はこの店のリニューアルをプロデュースしているのだ。
「以前は高級家具が多かったのですが、1階を雑貨売り場にして、いろいろな人が入りやすい店に変えました」(北村)
地元で長年家具を販売してきた「インハウス久永」は、高級路線の戦略が時代に合わなくなり、売り上げが低迷。そこで5年前、北村とタッグを組む選択をした。
「店に入りづらい。お高くとまっている。実際に入っても高くて買うものがない。これはいかんということで北村さんに見てもらったのが最初です」(社長・久永祐司さん)
北村は今、地方で低迷する家具店へリビングハウスの品揃えや接客ノウハウを提供、その再建に力を発揮している。
「実際に接客スキルを教えてもらい、売り上げが上がったし、来店客数も増えて良くなりました」(久永さん)
別の日、今度は鳥取・米子市に。視察するのは地元で60年近く営業する「高島屋」。出店依頼をされたのをきっかけに、ここでは百貨店の再生を依頼されていた。
「『百貨店というより三十貨店にしたほうがいいんじゃないですか』などと勝手なことを言ったら、1フロア全部プロデュ―スすることになりました」(北村)
北村の客を呼び込む空間作りが、地方の再生に必要とされていた。
~村上龍の編集後記~
おしゃれという言葉が何度も出てきた。北村氏のおしゃれは地に足が付いている。大阪の生まれた街、家具店が51軒あったが、今は10軒に減った。ほとんどの店が箪笥を作っていたという。消えた箪笥が彼の脳裡にある。
昔、北欧の家具会社で1年半で1,000軒の客に配送し、違和感を持った。家具は高級なのに部屋全体はどこか垢抜けない。おしゃれが芽生える。社長に就くと、オリジナル商品を拡大し、海外のブランドと組む。おしゃれは消えた箪笥とどこかでつながっている。
<出演者略歴> 北村甲介(きたむら・こうすけ) 1977年、大阪府生まれ。2004年、リビングハウス入社。2011年、代表取締役社長就任。 |