この記事は2022年4月21日に「テレ東BIZ」で公開された「全国170万店が参加!新時代ネットショッピング「BASE」:読んで分かる『カンブリア宮殿』」を一部編集し、転載したものです。
目次
初期費用と月額料は無料 ―― 超簡単に誰でも店を開ける
コロナ禍で急成長しているネットショッピング市場。市場規模はコンビニ業界全体の2倍近い19兆円となり、さまざまなメーカーや小売店が続々と参入している。
その流れは個人にも。ネットショップを開設した人たちに向けたオンライン相談会の参加者に自分の店を開いた理由を聞いてみると、「副業として」「手軽に自分の店を持ちたい」などさまざまだ。彼らに選ばれているのがネットショップの作成サービスがBASEだ。
BASEは誰でも手軽に自分のネットショップを作れるサービス。運営するショッピングアプリには、食品や衣類・雑貨などを扱う個人店を中心に170万店舗が参加している。
埼玉県川口市のケーキ店「パティスリーショコラトリー シャンドワゾー」に6年間、勤めてきた中島智夏さんは、店を2022年3月で退職し、幼い頃からの夢だった自分のケーキ店をBASEで開くことを決めた。
「BASEは一番操作がしやすかった。簡単にサクッとやることができるのでBASEさんにさせていただこうかなと」(中島さん)
▽幼い頃からの夢だった自分のケーキ店をBASEで開いた中島智夏さん
「BASE」の魅力(1)―― ショップ開設が簡単、無料
中島さんにBASEで店を開く行程を見せてもらった。最初に売ろうとしているのは、「ボンボンショコラ」。中にラムレーズンなどの詰め物をしたひと口サイズのチョコレートだ。
ショップの登録に必要なのはメールアドレスとパスワード、URLの3つだけ。まずは商品の写真を撮ると、登録ページにアップする。続いて商品名、販売価格を入力。素材のチョコレートにこだわったので、値段はちょっと高めの1,100円にした。
次は大事なショップサイトのデザインの設定。BASEが用意したデザインの中から無料で選べる。たとえば和菓子なら和紙をベースに、といった具合。中島さんが選んだのはシンプルなデザイン。あとは決済や配送方法などを設定するだけで、30分で完了した。
嬉しいのが初期費用やその後のコストが安いこと。たとえば大手のA社の場合、初期登録料としておよそ6万円、その後も最低2万円ほどの月額料金などがかかるが、BASEは出店料も月額料金も無料だ。売り上げの3%のサービス利用料や、売り上げの3.6%+40円の決済手数料などを商品が売れた時に支払うだけでいい。
食品の販売には資格や一定の基準を満たす設備が必要だが、中島さんはその資格を持っているので、保健所から許可が下りれば出店できる。
「私にしかできないお菓子の提供をできるように取り組んでいきたいです」(中島さん)
地方の隠れた美味も、幻のお宝商品も買える
「BASE」の魅力(2)―― 地方の隠れた逸品が買える
出店が簡単だから地方の小さな店も利用している。富山県・富山市にある定食屋「紡ぐキッチン」は斎藤はる美さんが家族で営んできた。人気のメニューはカレー。にんじんや玉ねぎなどに塩をふり、土鍋で煮込むとそれをフードプロセッサーに。ペースト状になった野菜を昆布だしと共にカレーのルーと混ぜ合わせる。自慢の和出汁カレーだ。
「本当に手作りなんですよ、だから結構、手間暇かかるんです」(斎藤さん)
▽「結構、手間暇かかるんです」と語る斎藤さん
コロナをきっかけにこうした店の料理をレトルトにして店頭(店内は休業中)で販売したところ、地元で人気に。これらを、BASEを使って売ることを決めたのは、斎藤さんの娘・美幸さんだ。
「売りたい。でも店頭だけでは限界があるなら、BASEだったら簡単だし、おばちゃんパワーが全国に届くようにと」(美幸さん)
BASEを利用するのは地方の店だけではない。東京都内に15店舗を展開する人気のラーメン店「麺屋武蔵」。濃厚スープのつけ麺と絶品のチャーシューが評判のラーメン好きなら誰もが知る有名店だ。しかし2年前、コロナによる緊急事態で売り上げが8割も減少。テイクアウトも伸び悩み、社長の矢都木二郎さんが頼ったのが、BASEだった。
「生き残るためにはなんとかしなきゃいけない。ある人からBASEのサイトを教えていただいて、操作したら20~30分でショップページができ上がったんです」(矢都木さん)
麺屋武蔵ではBASEのネットショップでレトルトのつけ麺セットを販売すると、コロナ禍で店に来られない客や、地方のファンからも注文が相次ぎ、最初の1カ月で500万円の売り上げを記録。店のピンチが救われたという。
「地方にいるお客様からお礼のメールをいただいたのがすごく嬉しくて、今ではそういった声がモチベーションになって、通販しかできない商品を展開していこうと」(矢都木さん)
▽麺屋武蔵ではBASEのネットショップでレトルトのつけ麺セットを販売
「BASE」の魅力(3)―― サポートも充実
「麺屋武蔵」にBASEの顧客担当、カスタマーサクセス・中村翔子がやってきた。店舗の売り上げを分析するのが中村の主な仕事だが、時には「広告の配信の仕方について、できることがあればフォローさせていただいています」(中村)。さまざまな動画配信やSNSなどを参考に店の宣伝方法を提案する。
BASEにはネット販売の経験がない出店者を助けるサポートもある。
個人で洋服と雑貨の店をオープンしたが、「(店の)サイトが認知されていない」という「スナグリングステューディオ」代表・伊井利洋さんの相談に乗っているのは、「BASEパートナー」である「SKBピュア」の鈴木浩三さんだ。
「BASEパートナー」とは、BASEと提携した各地のコンサルタントや広告会社などで、500以上にのぼる経営のプロがショップ運営の相談に乗ってくれる。店の月間売り上げが100万円を超えたら、売り上げの1.5%がBASE側からパートナーに報酬として支払われるという仕組みだ。
「自分では分かりえなかったことを提案してくれる。すごく経営に役立ちます」(伊井さん)
「BASE」の魅力(4)―― お宝商品が続々誕生
BASEの登場によって、一般の店では買えない商品が手に入るようになった。
たとえば40代以上には懐かしいアパレルブランド「セーラーズ」。1980年代、マイケル・ジャクソンやおニャン子クラブも着たことで一世を風靡した。
当時のデザイナーが三浦静加さん。「セーラーズ」は2000年に閉店したが、ファンも三浦さん自身もブランドの復活を望んでいた。
そんな中、簡単に店が作れるBASEの存在を知り、2020年にネット限定でショップを開設。するとかつてのファンが殺到し、すぐにそのほとんどが売り切れになった。
「BASEさんでの問い合わせがすごいんですよ。夢を叶えてくれて本当にありがたいなと思います」(三浦さん)
BASEには、こうした新規のショップ開設者が続々と参加。10年前のサービス開始からショップ数は右肩上がりで累計170万店を突破した。
▽「BASEさんでの問い合わせがすごいんですよ」と語る三浦さん
BASEの本社は東京・六本木。取引総額はグループ全体で1,700億円、社員は200人以上。10年目の若い会社で社員の平均年齢は32歳だ。
代表・鶴岡裕太(32)は、中学時代は不登校。大学は中退した。
「大学は途中でやめてしまってるんですけど、特に中学時代に関しては、学校に行けない時期が何カ月かあって、どうしようもない学生だったと思うんです」(鶴岡)
そんな鶴岡が創業したBASEは、いまや下請けから脱却したい町工場や自分の店を持ちたい人たちに大きなチャンスを与えている。
「ひとりでも多くの方々が、チャレンジを諦めなくてよくなる。そういうお手伝いをするというのが。僕を含めたBASEのみんなのミッションです」(鶴岡)
中学は不登校、大学は中退~店を営む母のひと言で起業
鶴岡が社内の「ヤナギ」というミーティングルームを見せたいという。柳ビルは「メルカリ」やクラウドファンディング大手の「キャンプファイヤ」など、日本を代表するIT企業がかつてオフィスを構えた伝説のビル。BASEも柳ビルが創業の地だ。
「やはりBASEの歴史そのものですし、ここが創業の場所というのをずっと覚えていられるように」(鶴岡)
鶴岡は1989年、大分県で生まれた。中学のころ、学校に馴染めず不登校に。インターネットにはまった。システムエンジニアを目指して上京し、東京工科大学に進学。転機は、故郷の大分で洋品店を営む母親の「最近お客さんが減って困っているから、私もネットショップっていうのをやってみたい」という相談だった。
「当時、50代のただのしがない商売をしている僕の母親でも、ネットショップを作りたいと思っている世の中なんだなと思いました」(鶴岡)
母でも作れるネットショップを。鶴岡は大学を中退して仲間を集め、シェアハウスでBASEの立ち上げに没頭する。
「3LDKに12人なので、今思うとよく生活していたなと思いますけど、めちゃくちゃ楽しかった」(鶴岡)
2012年、柳ビルでBASEを創業。しかし生粋のエンジニアだった鶴岡は、BASEが成長するにつれ、ある問題に直面する。創業メンバーと新しいスタッフの意見の食い違い。会社をうまくまとめられない鶴岡に見切りをつけ、創業メンバーのほとんどが、会社を去ってしまった。
「学生起業のノリでやって、僕もサービスを作るのは好きだったんですけど、僕自身の経営者としての能力は限りなくゼロに近い状態から始まっていたということもあり、創業の時から一緒にいたメンバーもその時に一気にやめてしまったりしました」(鶴岡)
スタッフときちんと向き合う。そんな思いから始めたのが、月に1度、社員の悩みや質問に鶴岡が答える取り組みだ。
「基本的に会社の中のタブーを作らないようにしたい。もっと会社をこうしたいとか、辛辣な意見が出ることもあるし、それを拾えないほうが会社としてはきついです」(鶴岡)
こうした取り組みで会社の雰囲が変わったと、当時を知る執行役員の神宮司誠仁はいう。
「自分のチーム以外の人と交流するきっかけを作って、仕事以外の話をしてお互いを知るみたいな。組織としても変わったと思っています」
▽「基本的に会社の中のタブーを作らないようにしたい」と語る鶴岡社長
中小企業や下請けも支援 ―― 新たな価値観を生み出す
BASEが今、力を入れているのが地方の中小企業の支援だ。
熊本県山鹿市にある、創業49年の「丸山ステンレス工業」。業務用の厨房機器などを製造し、メーカーに卸す、いわゆる下請け企業。社名が世間に知られることもなく、社員のモチベーションを保つのが難しかった。
「業界の人にしかわかりづらい仕事が多かったので、できれば会社の顔となる商品がほしいという中で、BASEでチャレンジしてみようと」(代表・丸山良博さん)
これまで培ってきた高度なステンレスの加工技術を駆使してオリジナル商品を作り、自社の名で直接客に売りたい。そんな思いで作り上げたのが「組み立て式ミニ焚き火台」(7,810円)。飾り彫りを施したステンレスの板を組み上げてできたのは、おしゃれなアウトドア用の焚き火台だ。
BASEを使ってショップを立ち上げてみると評判は上々。売り上げはまだ月に10万円ほどだが、徐々にファンが増えている。
「初めてトライする商品ですので、売れるか売れないかが未知数の中で、初期費用が発生しないというのは非常に安心感があります。中小企業にとっては助かる部分が多いと思います」(丸山さん)
▽「組み立て式ミニ焚き火台」(7,810円)
下請けから一歩踏み出したメーカーは東京都江戸川区にもある。創業62年の「笠原製菓」。他社ブランドから委託されて煎餅を作っていたが、赤字が続いていた。
その4代目を継いだ兄の笠原健徳さんと弟の忠清さん。下請けから脱却するため自社ブランドを立ち上げた。その名も「センベイブラザーズ」。
「自社ブランドっていうのも初めてのことでしたし、自分たちでお金をかけないで販売していこうと」(健徳さん)
唐辛子やトリュフ味など斬新なオリジナル煎餅をBASEのショップで販売するとヒット商品になり、ネット通販だけでなく工場の前にも客の長い列ができた。今では売り上げの5割以上を占めるまでになった。
「職人というのは黙々と作り続けることが一番だとなんとなく思っていたのが、それだけじゃ足りないんだと、価値観を変えてもらったのを実感しています」(忠清さん)
東京・渋谷の「丸井百貨渋谷モディ」の売り場の看板には「SHIBYA BASE」の文字が。2018年に丸井と共同で始めたのは、抽選で選ばれたBASEのショップオーナーたちがネットを飛び出して、商品をリアル店舗でも販売するという試み。お客と直接触れ合いたいという要望を受けて始めた。
「基本的にはネットショップと同じようなことを実店舗でもやってあげたい。個人とか小さな店舗でも、やりたいことを実現できる世の中に絶対になると思います」(鶴岡)
▽「丸井百貨渋谷モディ」の売り場の看板には「SHIBYA BASE」の文字
~ 村上龍の編集後記 ~
あるとき、地元の大分で小売店を営む母親から相談を。「ネットショップを作りたいんだけど」。
大手に出店する方法もあったが、ネットの知識がないと面倒、誰でもショップが作れるようなサービスができないか。地方の40歳~50歳くらいの女性がネットで、と考える時代が来たんだと。
ウェブサービスを考えるのが楽しかったが、独自の決済なくしてBASEは成立しなかった。個人や地方の小さな店が主役になる社会が来る。彼らの1歩目を支援する、それが役割、BASEはぶれない。
<出演者略歴> 鶴岡 裕太(つるおか ゆうた) 1989年、大分県生まれ。2014年、東京工科大学中退。2012年、BASE株式会社創業。 |