この記事は2022年7月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「過去最多の新規感染者数で、行動制限は再び視野に入るのか 」を一部編集し、転載したものです。


感染
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目次

  1. 回を重ねるごとに弱まっていく、行動制限による人流抑制効果

回を重ねるごとに弱まっていく、行動制限による人流抑制効果

新型コロナウイルスの新規感染者数が急速に増加している。オミクロン株の亜系統であるBA.5の拡大やワクチン効果の低減などにより、2022年7月21日の新規感染者数は過去最多の18万6,246人となった。過去、感染拡大時には行動制限が実施されていたが、行動制限を巡っては、岸田首相が2022年7月14日の記者会見で「新たな行動制限は現時点では考えていない」と述べ、松野官房長官が2022年7月21日の記者会見で「政府は新たな行動制限ではなく、めりはりのある感染対策に取り組む」と述べるなど、行動制限の実施について慎重な姿勢が示されている。

一方で、2022年7月19日に後藤厚生労働大臣が「病床逼迫などの事態が見込まれれば、行動制限を含む強力な措置を講じることになる」と述べるなど、行動制限実施についての言及もなされている。

都道府県レベルでは、沖縄県が県独自の医療非常事態宣言を発表する動きも出てきている。感染状況が急激に悪化する中で、行動制限実施についての議論が再び活発化している。2022年7月にNHKによって実施された世論調査によると、行動制限が必要と答えた人が56%であるのに対し、必要ないと答えた人が36%となるなど、行動制限を巡っては世論も割れている。

第一生命経済研究所
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緊急事態制限やまん延防止等重点措置は、経済活動に制約を設けることになるものの、人流を抑制することで、人と人との接触機会を低減することには一定の効果をあげてきた。しかし、その人流抑制効果も回を重ねるごとに徐々に効果は弱まってきている。

1回目の緊急事態宣言が発令された時には、ほとんどの人がステイホームをし、できるだけ人との接触をさけるなど感染対策を徹底したが、回数を重ねるごとに行動制限への慣れが生じ、行動制限実施による移動データの推移を見ると、移動データの底の水準が徐々に切り上がっている。

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緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令は、飲食業や宿泊業をはじめとした対面型サービスに大きな打撃を与えてきた。2022年3月21日をもって全面解除されたことにより、対面型サービスの代表格である宿泊・飲食サービス(全規模)の景況感は大きく改善し、2022年7~9月期の見通しも改善が示されている。新たな行動制限の実施は、経済活動が徐々に正常化に向かう中、回復傾向で推移する対面型サービスに再び冷や水を浴びせることになりかねない。

また、今後も行動制限が繰り返される可能性が高いと認識されることにより、先行き不透明感が高まり、設備投資意欲が減退することに繋がる可能性もあるだろう。

第一生命経済研究所
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もちろん、病床が逼迫する場合には行動制限を含めた対応が必要になることは否定しない。しかし、行動制限をかける場合には上述のように経済活動への悪影響が及ぶ一方で、それによって生じる人流抑制効果が低減している、すなわち費用対効果が悪化していることについては考慮する必要がある。

行動制限の効果が弱まる中で、過度に行動制限に依存するのでなく、病床の確保や検査の活用などもこれまで以上に推進するなど、総合的な対策により経済活動と感染抑制の両立を目指すことが改めて求められる局面であると言えるだろう。

第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 小池 理人