「もうだめだ、琴子。ビールが不足して営業できないんだよ」近所の老舗パブを営むおじさんが肩を落としてそう言った。オランダから英国に戻って3週間余り。「2年ぶりの英国はどう?」と会う人みんなに聞かれるが、正直ここまで悪化していたとは驚きである。新型コロナ禍の規制やブレグジット後の移民制限などが原因で、英国の食品・飲料業界やトラック運転手の労働力不足が深刻化、その影響はサプライチェーンの寸断にまで及んでいた。話には聞いていたが、状況は深刻である。筆者の暮らす街は英国内でも人気の観光地で、ワクチン接種が進み規制が緩和されたこともあって観光客などで賑わいを見せている。しかし、スーパーマーケットでは食品類の欠品で陳列棚の空きが目立つ。おじさんの老舗パブもビールの入荷が滞り、営業を続けるのが困難な状態だ。実際、廃業する飲食店も多く繁華街では一等地の空き店舗が増えている。さらに娘の通う学校からは、低所得家庭を対象とする「無料給食申込み」のお知らせが届いた。2年前には考えられない事態である。

最近では、英国政府が新型コロナ禍の大型経済政策による赤字を「国民健康保険料の値上げで補おうとしている」との報道もある。英国は医療費が無料とされているが、実際は納税者が納める国民健康保険料で補填されている。また、要介護になって保有資産(不動産含む)が2万3250ポンド(約354万円)を超える場合は全額「自腹」になるというシビアな国だ。

ちなみに、英国の筆者世代の年金受給開始年齢は68歳である。巷ではその年齢がさらに引き上げられるとの憶測を呼んでいたが、新型コロナ禍でその可能性は現実味を帯びたようにも感じられる。近年日本でも注目されている「F.I.R.E(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期リタイア)」や「経済的自由(Financial Freedom)」とはほど遠い状況と言わざるを得ない。

今回は「新型コロナ危機と経済的自由」をテーマにお届けしたい。

世代間で温度差、新型コロナ禍の経済的・精神的ダメージ

経済的自由,fire
(画像=24NOVEMBERS / pixta, ZUU online)

「経済的自由」とは、お金により行動が制限されることなく、自由な生き方を実現することを意味する。多くの人は労働の代償としてお金を得て、そのお金で生活をしている。そのため、時として「仕事があるから〇〇ができない」「お金がないから△△ができない」といった問題に直面する。これに対して「経済的自由」を実現した人は、十分な資産や不労所得などで「働かずにお金を得ている」ので、好きな時に好きなことを楽しむことが可能となる。冒頭で述べた「F.I.R.E」を実現するためにはまず「経済的自由」を確保することが不可欠だ。