シンカー:株価が実体経済を引き離して上昇していった背景には、信用サイクル、設備投資サイクル、リフレ・サイクルの三つのサイクルがあると考える。設備投資サイクルを企業貯蓄率を介して統合した二つのサイクル(信用とリフレ)の大きな枠組みで、日経平均のマクロ・フェアバリューをうまく推計できることがわかっている。マクロ経済・マーケットの現在のダウンサイド・リスクは、緊急事態宣言下で、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化が起こり、信用サイクルが腰折れることだ。信用サイクルが腰折れれば、名目GDPの拡大期待が維持されたとしても、日経平均はマクロ・フェアバリューである26500円程度まで即座に下落するリスクとなる。考えられる大きめのマクロ下押しリスクとして、もし名目GDPの拡大期待が消失した場合、マクロ・フェアバリューは23500円程度となり、昨年後半からの上昇がすべて打ち消される。政府・日銀が一体となって信用サイクルを支えることがまずは非常に重要である上に、政府は財政拡大の継続でリフレ・サイクルが強い水準で維持されることを目指す必要がある。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

株価が実体経済を引き離して上昇していった背景には、信用サイクル、設備投資サイクル、リフレ・サイクルの三つのサイクルがあると考える(三つのサイクルの詳細は5月13日のアンダースロー「次の転換点を読むための三つのサイクル」)。信用サイクルと設備投資サイクルが持ちこたえ、財政拡大によりマネーの拡大・縮小を左右するリフレ・サイクルがようやく活性化したことが理由である。

設備投資サイクルは大きく考えれば、企業貯蓄率の動きを介して、リフレ・サイクルの一部を形成する。企業活動の強さを表す企業貯蓄率の水準を前提として、財政政策の緩和度合いを表す財政収支がどの水準であるかが、リフレ・サイクルを表すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、マイナスが強い)の強さを決める。小さくは三つのサイクル(信用・設備投資・リフレ)、大きくは設備投資サイクルを企業貯蓄率を介して統合した二つのサイクル(信用とリフレ)の枠組みになる

経済活動が強く、名目GDPが強く拡大すれば、株価には上昇圧力がかかる。それに加え、大きな枠組みとしての二つのサイクル(信用とリフレ)が株価に強い影響を及ぼしていると考えられる。日経平均を、名目GDP、信用サイクル、そしてリフレ・サイクルで推計する(02年4-6月期からの四半期データ、モデルの詳細は6月17日のアンダースロー「日経平均のマクロ・フェアバリュー」)。推計値は名目GDPと大きな枠組みの二つサイクルでの日経平均のマクロ・フェアバリューと呼ぶこともできる。

日経平均=-92781.2+202.3 名目GDP(兆円)+120.3 日銀短観中小企業貸出態度DI (1期ラグ)-1267.7 ネットの資金需要(1期ラグ); R2=0.91

今後、これまでの新たなデジタル・テクノロジーなどの発展のモーメンタムなどを背景に、政府の経済政策などの支援もあり、コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進し、第四次産業革命や脱炭素などの投資テーマで投資活動が活性化することで設備投資サイクルが上振れ、企業貯蓄率が低下していくことが見込まれる。一方、コロナ増税などの拙速な緊縮策がなければ、財政赤字は景気回復とともにある税収増で緩やかに縮小していくはずだ。企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要はGDP比-4%程度(現在は-5%程度)で安定化するはずだ。

-4%程度のネットの資金需要を前提とすれば、名目GDPと信用サイクルを示す日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIで、日経平均のマクロ・フェアバリューのマトリクスを作ることができる。縦軸にDIの水準、横軸に名目GDPの水準をとる。DIが現在の+20のトレンドを維持し、名目GDPがまだウィルス問題で抑制されている現在の544.4兆円から新型コロナウィルス拡大前のピークである562.8兆円まで戻れば、日経平均のマクロ・フェアバリューは28500円程度となる。現在の日経平均は、名目GDPが560兆円まで拡大することを織り込んでいると言える。

マクロ経済・マーケットの現在のダウンサイド・リスクは、緊急事態宣言下で、企業の資金調達環境の悪化と事業継続の困難化が起こり、信用サイクルが腰折れることだ。7月1日の日銀短観で信用サイクルが緊急事態宣言延長でも堅調であることが確認できるまで、マーケットはアップサイド・ポテンシャルよりもダウンサイド・リスクを強く意識していると言える。

政府が予算の予備費をすべて取り崩し、新たな補正予算を編成して、財政支出拡大で家計・企業を支援することに及び腰だ

DIが黒田日銀総裁の強い緩和姿勢で押し上げられた?20程度から+10程度に下落し、信用サイクルが腰折れれば、名目GDPの拡大期待が維持(560兆円までの拡大)されたとしても、日経平均のマクロ・フェアバリューである26500円程度まで即座に下落するリスクとなる。考えられる大きめのマクロ下押しリスクとして、もし名目GDPの拡大期待が消失した場合、現在の544.4兆円を前提とすれば、マクロ・フェアバリューは23500円程度となり、昨年後半からの上昇がすべて打ち消される。政府・日銀が一体となって信用サイクルを支えることがまずは非常に重要である上に、政府は財政拡大の継続で強いリフレ・サイクルが強い水準で維持されることを目指す必要がある。

表:日経平均の推計マトリクス

日経平均の推計マトリクス
(画像=岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来