この記事は2022年9月7日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「スタートアップ創出元年、インセンティブ税制の必要性」を一部編集し、転載したものです。

スタートアップ
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

目次

  1. スタートアップへの期待
  2. 岸田政権の「5か年計画」
  3. 起業に向かうインセンティブ設計~「エンジェル税制」拡充という論点~
  4. 大胆かつ継続的な取組みを

スタートアップへの期待

持続的な経済成長の推進役として、スタートアップに掛かる期待は大きい。当初、分配重視の方針を掲げた岸田政権も、骨太では成長重視の姿勢をより強く打ち出し、その柱の1つにスタートアップ育成を掲げた。

未踏の分野に果敢に挑むスタートアップは、イノベーションを生み出す主体として優れている。独自のアイデアや革新的な技術をもとに新たなビジネスモデルを構築し、現時点では顕在化していない需要や欲求を掘り起して、新たな市場を開拓して行く。スタートアップは、人口減少や少子高齢化、労働生産性の低迷といった課題を多く抱える日本で、長期停滞を打破するカギとなり得る。

岸田政権の「5か年計画」

スタートアップの育成は、安倍政権や菅政権でも成長戦略として強化されてきた重要政策でもある。2021年10月に発足した岸田政権は、両政権の取組みを継承したうえで、さらに支援を強化する。

具体的には、スタートアップの成長に欠かせないリスクマネーのシームレスな供給、大学等での研究開発力の底上げ、イノベーションを生む環境の整備、産学官の連携を創業につなげる仕組みの構築、教育機関での起業家育成から事業化に向けた支援・施策の充実まで、網羅的に施策を展開していく。

岸田政権は、今年2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、今後5年でスタートアップ(への投資額)を10倍に増やすことを目指す。省庁横断でスタートアップへの支援を強化するため、司令塔役となるスタートアップ担当大臣のポストも新設された。担当大臣は、支援政策全体の枠組みを示す「スタートアップ育成5か年計画」の策定と、その実行を担う。政府はロードマップに沿って、規制・制度改革を着実かつ計画的に進め、世界に伍するスタートアップ・エコシステムを作り上げていく構えだ。

起業に向かうインセンティブ設計~「エンジェル税制」拡充という論点~

今後「5か年計画」への反映が期待される論点の1つに「エンジェル税制」の改善に向けた措置の検討がある。

エンジェル税制は、スタートアップへの投資を促すため、スタートアップに投資を行った個人投資家に対して、税制上の優遇措置を行う制度である。1997年の制度創設以来、累次の改正を重ね、同制度を利用した投資実績は、年間約40億円程度(2018年時点)と、およそ20年の間に約54倍に拡大してきた。

ただ、欧米の同様の制度と比較すると、税制面の優遇規模や対象範囲は、見劣りすることは否めない[図表]。

エンジェル税制比較
(画像=ニッセイ基礎研究所)

例えば、世界を牽引するスタートアップ・エコシステムのある米国では、初期段階のスタートアップに投資して、5年以上株式を保有すれば、売却時のキャピタルゲインは年間1,000万ドル(約13.6億円)まで免除される。

これは、日本に比べて優遇規模が桁違いに大きいだけでなく、起業家や従業員も利用できるため、起業成功時のインセンティブを高める制度となっている。

また、世界第2位のスタートアップ・エコシステムを擁する英国には、個人がファンドを通じて間接投資する際に利用可能な優遇制度もある。

エンジェル税制の優遇規模や対象範囲の拡大は、リスクを取って挑む起業家のインセンティブを高めるだけでなく、シリアルアントレプレナーの増加や、起業家からエンジェル投資家への流れを強化し、創業期の資金調達や経営を補助する人材・組織を強化する。支援政策として検討が進むことを期待したい。

大胆かつ継続的な取組みを

研究開発型のスタートアップの育成やエコシステムの構築には時間が掛かる。短期に終わらない長期の支援が不可欠だ。これから策定される「5か年計画」は、そのための中期戦略となる。この機会に、将来の礎となるような制度が構築されることを期待したい。

鈴木智也(すずき ともや)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 准主任研究員

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