エンジェル投資とは、ベンチャー企業において用いられる資金調達方法の1つだ。投資を受けたベンチャー企業やスタートアップ企業は、エンジェル投資家に株式や配当などを提供する。将来性の高い未上場企業へ出資することから、将来の大きなリターンを期待する投資家も多い。本記事では、エンジェル投資の魅力と注意点を詳しく解説する。エンジェル投資家になる方法や投資に対するリターンについても併せて見ていこう。

目次

  1. エンジェル投資家とは?
  2. エンジェル投資家が投資を行う理由
  3. エンジェル投資家になるには
  4. エンジェル投資家から投資を受けるメリットと注意点
  5. エンジェル投資家と知り合うには? 4つの方法を紹介
  6. エンジェル投資家から投資を受けるには
  7. まとめ:エンジェル投資はメリットと注意点をしっかりと把握することが肝心

エンジェル投資家とは?

エンジェル投資は儲かるの? スタートアップ企業も投資家も知っておきたい投資の魅力と注意点
(画像=sabelskaya/stock.adobe.com)

エンジェル投資家とは、創業間もない企業に対し個人で投資を行う投資家をいう。ここではまず、エンジェル投資家の基本事項を確認しよう。

エンジェル投資家とはどのような投資家なのか

エンジェル投資家とはベンチャー企業やスタートアップ企業に対し、個人の資金を使い個人の責任で投資する投資家のことだ。

十分な事業実績がないベンチャー企業は、一般に資金調達に苦労するといわれる。資金調達には金融機関からの借り入れという選択肢もあるが、実際には事前審査に通らず融資を断られるケースも多い。そのような、創業時の資金集めに困っている新しい企業に積極的に投資を行うのがエンジェル投資家である。

エンジェル投資家は、投資した企業の成長による株式価値の増大を期待し、大きなキャピタルゲインの獲得を目指す。また、社会的意義のある事業に取り組む企業を資金面で応援することで、社会貢献に取り組みたいと考える投資家もいるようだ。

一般的な投資家とエンジェル投資家の違い

一般的な株式投資を行う投資家とエンジェル投資家の違いとしては、「狙う利益の種類と大きさ」が挙げられる。

一般的な投資家は、購入時よりも高い価格で株を売却することにより得られる売却益(キャピタルゲイン)を狙う。利益を確定する基準は投資家によって異なるが、一般的には株価が10%程度上昇したら売却する投資家が多いようだ。またキャピタルゲインと併せて、配当金や株主優待といったインカムゲインによる利益の積み上げも行う。

一方エンジェル投資家は、インカムゲインは狙わずキャピタルゲインの獲得のみを目指す。具体的には投資の対価として企業から付与された株式を、上場や買収などで株価が跳ね上がった時点で売却し、大きな売却益を得るのだ。株価の上昇次第で投資額の数倍の利益を得られる可能性があるのが、エンジェル投資の醍醐味だといえるだろう。

エンジェル投資家とベンチャーキャピタルはどう違うのか

ベンチャー企業が資金を調達するもう1つの方法に、ベンチャーキャピタルの活用がある。エンジェル投資家とベンチャーキャピタルの違いを以下で確認しよう。

▽エンジェル投資家とベンチャーキャピタルの違い

項目エンジェル投資家ベンチャーキャピタル
出資者個人法人
出資を行うタイミング企業の創成期企業の成長期
審査の有無なしあり
出資金額数百万~数千万円数千万円~数億円

エンジェル投資家による投資は審査がなく比較的資金を集めやすいが、出資金額は数百万~数千万円にとどまる。

一方、法人であるベンチャーキャピタルは多くの投資家から集めた資金を原資とするため、よりリスクを抑えた投資を目指す。そのため投資前に、企業の将来性や収益性などを問う審査がある点が特徴だ。審査に通過した企業には、数千万円~数億円といった多額の投資が行われるケースもある。ある程度事業の見通しが立ち、より成長するための大型な資金を得たいなら、ベンチャーキャピタルも有力な選択肢となるだろう。

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エンジェル投資家が投資を行う理由

エンジェル投資は融資ではない。そのため、資金提供した企業から利息の支払いや元本の返済は受けられない。エンジェル投資家が利益を得られるのは、あくまでも投資した企業の成長によりキャピタルゲインが発生したときである。

こう聞くと、エンジェル投資はリスクが高くうまみが少ない、と感じる人もいるかもしれない。では、なぜエンジェル投資家は投資を行うのか。ここでは、2つの理由を解説する。

エンジェル投資をする理由1:上場などにより大きな利益を得られる可能性がある

エンジェル投資家が投資を行う1つめの理由は、投資した企業が上場したり買収されたりすることで、莫大な利益を得られる可能性があるからだ。ベンチャー企業への投資では、エンジェル投資家への対価として株式が付与されることが多い。投資した企業が大きく成長すれば、その株式を売却することで一般的な株式投資とは桁違いの利益を得られる可能性がある。エンジェル投資家は、一般的な株式投資では得ることが難しいハイリターンを狙って投資を行うのである。

エンジェル投資をする理由2:エンジェル税制による税制優遇を受けられる

2つめの理由は、エンジェル税制による税制優遇を受けられるからだ。エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにエンジェル投資家に対して、税制上の優遇措置を行う制度である。優遇措置は、投資時点と株式売却時点に設けられている。具体的な優遇内容は、以下のとおりだ。

▽投資時点に受けられる税制優遇(AかBのいずれか)
・優遇措置A:ベンチャー企業への投資額-2,000円をその年の総所得金額から控除
・優遇措置B:ベンチャー企業への投資額全額をその年の他の株式譲渡益から控除

▽株式売却時に受けられる税制優遇
・未上場ベンチャー企業の株式売却により損失が生じた場合、その年の他の株式譲渡益と損益通算可能
・その年に通算しきれなかった損失は翌年以降3年にわたって繰り越し、損益通算可能

【参考】中小企業庁 | エンジェル税制の仕組み

なお、エンジェル税制を受けるにはベンチャー企業およびエンジェル投資家の双方が、適用要件を満たす必要がある。要件の一部を以下で確認しよう。

▽エンジェル税制の適用要件

優遇措置ベンチャー企業の要件投資家の要件
優遇措置A創業3年未満の中小企業者である・金銭の払込により、対象となる企業の株式を取得している
・投資先ベンチャー企業が同族会社である場合には、持株割合が大きいものから第3位までの株主グループの持株割合を順に加算し、その割合が初めて50%超になる時における株主グループに属していない
優遇措置B創業10年未満の中小企業者である
引用:「中小企業庁 |エンジェル税制の対象要件」をもとに編集部作成

ベンチャー企業に対する適用要件としては、創業3年目、10年目それぞれに従業員数やキャッシュフロー、売上高成長率などもチェックされる。エンジェル税制の適用を希望するなら、投資する企業が適用要件を満たしているか事前にしっかり確認しておこう。

▽エンジェル税制が適用されるベンチャー企業側の要件

エンジェル投資家になるには

エンジェル投資家になるなら、まずは投資に使えるまとまった資金を用意する必要がある。ハイリスクハイリターンな投資になるため、当然ながら当面の使い道がない余裕資金を充てることが肝心だ。資金が用意できたら、資金調達を希望しているベンチャー企業を以下のいずれかの方法で探してみよう。

▽ベンチャー企業に投資する4つの方法
・投資家マッチングサービスを利用する
・株式投資型クラウドファンディングで投資する
・ベンチャーキャピタルを通じて投資する
・知人の紹介やSNSなどで直接やり取りして投資をする

エンジェル投資家になる方法1:投資家マッチングサービスを利用する

投資家マッチングサービスとは、投資を受けたいベンチャー企業と投資家とのマッチングを図るサービスだ。投資家と企業の双方ともインターネット上で簡単に登録や検索ができるため、投資したい条件に合った企業を見つけやすい点が特徴といえる。なお、マッチングサービスの最低投資額は100万円程度に設定されることが多い。

エンジェル投資家になる方法2:株式投資型クラウドファンディングで投資する

株式投資型クラウドファンディングは、ベンチャー企業への円滑な資金供給を目的として、2015年5月に創設された制度だ。「寄付型」や「購入型」のクラウドファンディングでは、投資の対価としてモノやサービスが還元されるが、「株式投資型」では未上場株式が見返りとして付与される。未上場企業の株式は流動性が低いなどのリスクはあるものの、新規上場すれば大きな値上がりが期待できる点が魅力だ。

株式投資型クラウドファンディングで1人の投資家が投資できる金額は、同一の会社が発行する株式につき1年間に50万円以下と定められている。

エンジェル投資家になる方法3:ベンチャーキャピタルを通じて投資する

ベンチャーキャピタルを通じて投資するのも、エンジェル投資の1つの方法だ。ベンチャーキャピタルを利用するメリットは、審査により投資する企業がある程度絞られる点だ。そのため、エンジェル投資の中では、比較的リスクを抑えた投資が可能になる。なお、投資で得た利益は投資家全員に分配されるため、個人で投資するよりも期待できるリターンは小さい。

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エンジェル投資家から投資を受けるメリットと注意点

ここでは、ベンチャー企業がエンジェル投資で資金を集めるメリットおよびデメリットを見ていこう。

エンジェル投資家から投資を受けるメリット

ベンチャー企業がエンジェル投資家から投資を受ける主なメリットには、以下の3つが挙げられる。

▽企業がエンジェル投資を受けるメリット
・資金を調達しやすい
・資金面に加え経営面や人脈作りのサポートを受けられる
・利息や元本の返済がない

・企業がエンジェル投資を受けるメリット1:資金を調達しやすい
メリットの1つめは、ベンチャー企業でも資金調達が比較的しやすい点だ。金融機関の融資審査では、返済能力やこれまでの事業実績などが特に重視される。そのため、創業間もないベンチャー企業では実績不足などから融資が下りないケースも少なくない。

一方エンジェル投資家なら、魅力的な事業計画や高い成長性、社会的意義などをアピールすれば、投資をしてもらえる可能性が十分ある。金融機関からの資金調達が難しい場合には、エンジェル投資を検討してみよう。

・企業がエンジェル投資を受けるメリット2:資金面に加え経営面や人脈作りのサポートを受けられる
メリットの2つめは、資金面だけでなく経営面や人脈作りのサポートもエンジェル投資家から受けられる点だ。多くのベンチャー企業に投資を行ってきたエンジェル投資家の中には、企業を成長させるノウハウを持っている人もいる。投資に加え経営全般のサポートをしてくれるエンジェル投資家は、新しくビジネスをスタートしたばかりの経営者にとって心強い存在となるはずだ。

・企業がエンジェル投資を受けるメリット3:利息や元本の返済がない
メリットの3つめは、利息や元本の返済がない点だ。融資では、毎月の返済日ごとに決められた利息と元本を返済していかなければならない。しかしベンチャー企業の場合、ビジネスが軌道に乗るまでは収益が安定せず、定期的な返済が難しいケースもある。

その点、エンジェル投資であれば、事業の拡大中も返済に追われることがなくなる。返済に充てなくて済む分を、事業資金をまわせるため、より積極的にビジネスを進めていけるだろう。

エンジェル投資家から投資を受ける際の注意点

エンジェル投資を利用するなら、以下の3つの注意点も知っておきたい。

▽企業がエンジェル投資家から投資を受ける際の注意点
・投資条件などでトラブルが発生するケースも
・経営権を握られてしまう危険がある
・投資額が希望額に満たない場合がある

・企業がエンジェル投資を受ける際の注意点1:投資条件などでトラブルが発生するケースも
エンジェル投資では、投資家から個人的に投資を受ける。そのため、投資前に条件をしっかりと確認しておくことが何よりも重要だ。特に、どのようなリターンを約束するかは明確にしておこう。たとえば、代表者の意向に沿った経営を行うにはエンジェル投資家に渡す株を総株数の3分の1以下に止めるなど、具体的な内容の契約を結ぶと安心だ。

なお、投資の条件を明記するなら「株式引受契約」と「株主間契約」の2つを活用したい。株式引受契約では、企業とエンジェル投資家との間で割り当てる株式の種類や金額などを取り決めることができる。    株主間契約は、株主同士で会社の運営に関しての合意を行う契約だ。経営に関わるような複数の株主が存在する場合、企業の運営方針や株主間のルールをあらかじめ定めておくことで、株主同士のトラブルを防ぐ効果が期待できるだろう。

・企業がエンジェル投資を受ける際の注意点2:経営権を握られてしまう危険がある
株式会社では会社の運営や資産の使い方といった重要な事案を、株主総会の決議により決定する。議決権は1株に付き1つ与えられるため、保有株式数が多い株主ほど多くの議決権を持つことは知っておきたい。

エンジェル投資を利用する場合には、代表者は最低でも51%の株式を保有し、エンジェル投資家に付与する株は総株数の3分の1以下に抑えるなど、見返りとして割り当てる株式の割合に十分注意しよう。

・企業がエンジェル投資を受ける際の注意点3:投資額が希望額に満たない場合がある
エンジェル投資家は、個人の資金から投資を行う。そのため、ベンチャーキャピタルと比べて、投資額が少ない場合が多い。エンジェル投資家だけでは十分な資金調達が行えないときには、複数のエンジェル投資家から融資を募るか、ベンチャーキャピタルや金融機関融資なども併せて検討するしかなさそうだ。

エンジェル投資家と知り合うには? 4つの方法を紹介

ベンチャー企業が投資家と知り合うには、4つの方法がある。それぞれの特徴を確認し、目的に合わせて利用しやすいものから参加しよう。

エンジェル投資家と知り合う方法1:交流会やイベントに参加する

起業に関する交流会やイベントには、経営者だけでなくエンジェル投資家も多く集まる。交流会やイベントへの参加は、経営を学ぶだけでなくエンジェル投資家との関係構築も期待できる。有料無料、自治体主催から起業家や創業者有志のコミュニティイベントまで、ネットを調べるとさまざま見つかる。評判を確認しながら、参加してみよう。

エンジェル投資家と知り合う方法2:ピッチコンテストに参加する

ピッチコンテストとは、主にスタートアップ企業の経営者が自社の事業や将来性について発表し合うイベントだ。ピッチコンテストに参加する目的は、投資家からの投資を募ることである。特に、コンテストで最優秀賞などを受賞した企業は、複数の投資家から投資を得られることもある。自社の事業計画に自信があるなら、ピッチコンテストへの参加も効果的だろう。

エンジェル投資家と知り合う方法3:マッチングサイトを利用する

先述の通りマッチングサイトなら、インターネット上で比較的簡単に投資家を探すことができる。マッチングサイトを利用するなら、運営会社の信頼が高く実績があるサイトを選びたい。

エンジェル投資家と知り合う方法4: SNSを利用する

エンジェル投資家と知り合うには、SNSの活用も効果的である。SNSを使ったプロモーションを行えば、投資家に対し自社の取り組みや提供するサービスのアピールができる。また、多くのエンジェル投資家がSNSで情報発信をしているので、フォローをして、その志向や投資哲学などを研究しておくとよいだろう。ダイレクトメッセージなどの機能を使い、エンジェル投資家に直接コンタクトを取ることも可能だ。

エンジェル投資家から投資を受けるには

エンジェル投資家から投資を受けるには、自社の魅力をいかにアピールできるかがポイントになる。エンジェル投資家とコンタクトを取るにあたっては、自社の強みを十分に伝えられるプレゼンの準備をしっかりしておくことが肝心だ。

最後に、エンジェル投資家に会う前に準備するべき資料や、コンタクトの流れについて簡単に紹介する。

エンジェル投資を受けるステップ1:必要書類を揃える

エンジェル投資家と会うにあたっては、会社の業績や事業内容、資金状況がわかる書類を用意する必要がある。用意するべき書類の一例を、以下で確認しよう。

▽エンジェル投資家に会うにあたり用意するべき書類の一例
・会社謄本
・直近の決算書(できれば2期分)
・直近の銀行残高と借入残高
・株主名簿
・役員名簿と個々の役員の経歴
・主要取引先リスト
・事業計画書

投資家に自社の魅力を伝えるには、経営者のビジョンや熱意に加え、客観的に将来性があると判断できる材料が必要だ。そのため、会社謄本や決算書、借入残高証明書など公的な書類は、投資家を納得させるうえで欠かせない資料となる。

また、会社ホームページやパンフレット、およびリーフレットも、企業のイメージを伝えるはもちろん、対外的な情報発信の姿勢を示すことができるので、準備をしたい。

エンジェル投資を受けるステップ2: エンジェル投資家を探す

自社をアピールする材料が揃ったら、エンジェル投資家を探そう。方法は前項で紹介した通りである。

エンジェル投資を受けるステップ3:投資条件を交渉する

エンジェル投資家から投資を受けられることになっても、慌てて投資契約を進めることは避けるべきだ。契約を結ぶ前にまず、投資条件の交渉をしよう。投資への対価として株式を付与する場合には、割当の割合もしっかりと確認したい。

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まとめ:エンジェル投資はメリットと注意点をしっかりと把握することが肝心

エンジェル投資は、投資家個人の資金を使いベンチャー企業やスタートアップ企業に出資する投資方法だ。企業にとっては比較的資金調達がしやすく返済義務がないといったメリットがある一方、後のトラブルを防ぐためには投資条件の確認が必要といった注意点もある。

エンジェル投資は、投資家にとっても魅力的な投資方法の1つだ。投資の見返りとして未上場企業の株式を手に入れられるため、将来的に大きなキャピタルゲインを得られる可能性ある。ただし、ハイリスクハイリターンの投資のため余裕資金を充てることが肝心だろう。

このようにエンジェル投資は、ベンチャー企業と投資家の双方に大きな利益をもたらす可能性がある投資方法だ。それぞれのメリットや注意点をよく確認し、ぜひ活用してみて欲しい。