この記事は2022年9月12日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「個人が8月下旬の株価下落時に買い越し~2022年8月投資部門別売買動向~」を一部編集し、転載したものです。
2022年8月は、上旬から中旬は為替市場でドル円が円安に振れたことや、米株高を好感して大幅上昇し、17日には今年1月以来となる2万9,000円を回復した。その後は急ピッチな上昇による反動と、パウエル米FRB議長が金融引き締め継続を示唆したことによる米国株式の急落を受け下落し、29日に2万8,000円を割り込んだ。月末にかけてはやや反発し、日経平均株価は2万8,091円で終えた。主な投資部門別で見ると、個人と事業法人が買い越す一方で、海外投資家と投資信託が売り越した。
2022年8月(8月1日~9月2日)の主な投資部門別売買動向(現物と先物の合計)は、個人が6,478億円の買い越しと、最大の買い越し部門であった。特に8月第5週(29日~9月2日)に現物と先物合わせて8,677億円買い越した。第5週は日経平均株価の下落幅が1,000円に迫るなど大きく下落するなか、個人の「逆張り」投資は健在であったといえよう。
また、事業法人も5,320億円の買い越しと15カ月連続の買い越しだった。2022年度の上場企業(TOPIX構成銘柄)の自社株買い設定額は8月末時点で5.6兆円に達しており、今後も自社株買いの実施に伴い事業法人の買い越しは続くことが予想される。
その一方で海外投資家は、現物と先物の合計で4,267億円の売り越しと8月最大の売り越し部門であった。8月第1~3週(1日~19日)は約1.1兆円買い越したが、4~5週(22日~9月2日)は約1.5兆円の売り越しと下旬に大幅に売り越した。特に第5週(29日~9月2日)のみで、現物と先物合わせて1兆1,854億円の売り越しだった。
月上旬から中旬は米消費者物価指数(CPI)が予想を下回ったこともあり、FRBの利上げ姿勢が軟化するとの期待感から米株とともに日本株式は上昇した。しかし、26日のジャクソンホール会議でパウエル米FRB議長が金融引き締めを示唆したことから、タカ派的発言が嫌気され米株は急落した。それに伴い日本株式も売却する海外投資家が多かった様子である。その他、8月は投資信託も中旬まで利益確定の売却が膨らんだため、2,741億円の売り越しとなった。
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森下千鶴(もりした ちづる)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究員
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