子供を株主にして資産管理会社を設立、長期的に資産を増やす
昊 周/stock.adobe.com、ZUU online

保有資産が数億円以上の富裕層は法人で資産管理を行うことが多い。この資産管理のためだけに作られる法人は「資産管理会社」と呼ばれている。今回は富裕層が実践する資産管理会社の最新の活用法について、富裕層向けに資産運用コンサルティングを行なっている株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口氏に解説してもらう。

世古口俊介
世古口 俊介(せこぐち しゅんすけ)
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)のプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。2017年8月に内藤忍氏と共同で資産デザインソリューションズを設立し、代表に就任。

資産運用と資産承継の器

まずは資産管理会社の主な2つの役割について説明する。1つ目が「資産運用を行う器」としての役割、2つ目が「資産承継の器」としての役割だ。

資産運用を個人ではなく資産管理会社で行うことで、様々な税務メリットを得ることが可能だ。役員報酬という形で、資産管理会社で発生した運用の利益を配偶者や子供に支払うことで、所得を分散できる。基本的に税金は累進課税なので、所得は分散すればするほどトータルの税務コストが低くなる。

また「交際費、車両、旅費規程など法人しか算入できない経費と利益を相殺可能になる。家族に役員報酬を出して、あらゆる経費と相殺しても利益が残る場合は、法人税が課税されるわけだが、その法人税率も最高の実効税率で33%と、個人の所得・住民税の最高税率より22%低い」と世古口氏は解説する。

次に、資産承継の器としての役割についてだ。たとえば、子供ごとに資産管理会社を設立し、資産承継プランを明確にすることで相続争いを回避することが可能となる。

資産を個人保有している場合でも、遺言を書けば資産承継の意思は明確になるが、保有資産を組み替えるごとに遺言を書き換えるのは現実的ではない。ならば「長男に渡す資産管理会社」「次男に渡す資産管理会社」と最初から器を作って、そのまま会社の株式を渡せば揉めることもないというわけである。

また不動産と組み合わせることによって、個人にはない承継効果を生み出すことが可能だ。個人所有の不動産を子供に渡すことは贈与税や移転コストの面から現実的でないが、不動産を資産管理会社に保有させ、株式を子供に贈与すれば、実質的に不動産を子供に移せる。

資産運用と資産承継の器。この2つの役割から資産管理会社は富裕層になくてはならないマストアイテムとなっている。

高まる贈与の税務リスク

世古口氏は「私たちが資産承継対策を行う実務の最前線では、この資産管理会社の活用法について大きな変化が起こっている」と話す。具体的には、資産管理会社で不動産を保有し、相続税評価を引き下げたうえでの子供への株式贈与についてだ。イメージは以下のイラストの通りだ。

子供を株主にして資産管理会社を設立、長期的に資産を増やす
出典:株式会社ウェルス・パートナー

イラストは、本人が4億円を出資して作った資産管理会社で銀行借入を起こし、主に国内不動産に投資している。都内好立地のマンションの相続税評価は時価から7割程度下落することが多く、そうなると当然、資産管理会社の株式の評価も下がる。

法人の場合は不動産を取得して3年経過後に評価が下がるため、4年目以降に、本人から子供に資産管理会社の株式を贈与すれば、多少の贈与税を支払ったとしても、劇的な資産承継効果を得ることができる。

しかし最近、このような贈与は「税務リスクの高い行為だ」と指摘する専門家が多い。そうなったきっかけは「2022年4月の不動産相続に関する最高裁判決」である。裁判では不動産を購入して相続税をゼロで申告した納税者が敗訴した。

同裁判では納税者側の行動に「相続対策の意図」があることが指摘された。不動産で相続税評価を下げた後の贈与という行為は「意図そのもの」であり、税務調査があった場合には否認されるリスクが高いだろう。

資産管理会社の大きなメリットは「実質的に不動産を生前贈与できること」にあったが、今後は「相続税評価を下げたうえでの贈与は、税務リスクが高いため避けた方が無難」(世古口氏)だろう。贈与ができなくなったことで多くの富裕層は、対策の変更を迫られている。

比較的若い富裕層は子供を株主にして設立

では「贈与ができなくなったので資産管理会社を活用しない方がいいか」といえば、そんなことはない。ルール変更に合わせて活用の仕方を変えるだけだ。たとえば、50代くらいまでの比較的若い富裕層の資産管理会社は、設立当初から子供を株主にすることが多くなっている。イメージは以下の通りだ。

子供を株主にして資産管理会社を設立、長期的に資産を増やす
出典:株式会社ウェルス・パートナー

子供が株主となることで同管理会社の資産が将来的に成長した分は、子供名義の資産として増えるため、資産承継効果がある。同管理会社は先進国債券と国内不動産に投資しているので、実質的なトータルの運用益は年平均4%から5%程度となるだろう。

投資総額は10億円なので、うまくいけば毎年5,000万円の利益が生み出され、それが子供の資産として増えていく。10年で5億円、20年で10億円なので、長期的な資産承継効果はかなり大きい。

一方でデメリットもある。せっかく不動産を保有しているのに、相続税評価の軽減効果が効いていないことだ。つまり万が一本人が亡くなった場合は、不動産の相続税軽減効果を得られないことになる。

しかしそのデメリットがあっても、若い富裕層は死亡確率が相対的に低いので、子供を株主にして長期的に資産を成長させた方が、経済合理性が高いというわけだ。

資産管理会社の最新活用事例

最後に、2022年に会社を売却した富裕層の資産管理会社の最新活用事例を紹介してもらった。会社を30億円で売却、税金などを差し引いた後の約20億円の資産運用をお手伝いした事例だ。本人は45歳とまだ若いが、長期的な資産承継対策を立てたいということだったので、3名の子供用の各資産管理会社を設立する提案を行った。イメージはイラストの通りだ。

子供を株主にして資産管理会社を設立、長期的に資産を増やす
出典:株式会社ウェルス・パートナー

余剰現預金の20億円のうち、子供のための資産管理会社A、B、Cにそれぞれ5億円ずつ合計15億円の原資を配分し、運用を行っている。各管理会社は前述の通り株主をそれぞれの子供としている。万が一の相続税負担は大きいが、本人は45歳と若いため、死亡リスクより「資産成長による長期的な承継効果」を優先したわけだ。

各管理会社では金融資産3億円(先進国債券2億円、株式5,000万円、ヘッジファンド5,000万円)、国内不動産7億円(借入5億円)という配分で投資を行っている。

各管理会社は毎年5%ずつ資産成長することを期待した資産配分を組んでおり、予定通りに成長したとすると、管理会社3社合計で毎年1億5,000万円、10年間で15億円が子供名義で増える。

個人名義でも債券や不動産に投資を行うのは、個人で得たい最低限のインカムゲイン(定期収入)を確保したり、相続税の軽減効果などを個人に帰属させたりするためだ。

「前述のように相続税評価を下げたうえでの贈与ができなくなった以上、まずは可能な限り子供名義で資産を増やして、本人の年齢が60歳以上と死亡確率が高まってきた時点で、相続効果を得るための施策に切り替えるのが合理的だろう」と世古口氏は解説する。

富裕層の資産管理会社に詳しい専門家に相談する

税理士でも富裕層の資産管理会社のアドバイスは適切にできないことがある。富裕層や資産管理会社、相続に詳しい税理士というのは想像以上に少ないためだ。

昨今、不動産節税や生前贈与の判断はより難しくなってきている。資産管理会社の経営には高い専門性が求められる。税務リスクを考えると、経験豊富な税理士や専門家に相談するのも一案である。

さらに情報を知りたい方へ

キャッシュフローの最大化を図るには、節税はもちろん、さらに効果的な資産運用サービスを知っておく必要がある。

詳しい情報をご希望の方は、株式会社ZUU 富裕層向け金融サービス専用フォームからのお問い合わせをおすすめしたい。

資金調達の方法に始まり、運用から、償却に至るまでのキャッシュフロー全般の情報を、 金融機関65社との接点を持つZUUグループなら「中立的」な立場で紹介可能だ。

ZUUグループでは、これまでに保有資産額10億円〜100億円超の方々に至るまで、 不動産、外国債権、ブリッジローンといった幅広い金融サービスをご提案している。

まずは以下のフォームで回答してみよう(所要時間1分)。

菅野陽平
菅野 陽平(かんの ようへい)
富裕層の資産管理に詳しいファイナンシャル・プランナー 兼 マネーライター。幼少期より学習院で育ち、学習院大学卒業後、2012年に新卒で野村證券に入社。多くの富裕層の資産管理を担当する。2016年、株式会社ZUUに入社し、日本最大級の金融・経済情報メディア「ZUU online」の編集長を務める。プライベートバンカー資格、AFP保有。編集著書に『富裕層・経営者営業大全』(一般社団法人金融財政事情研究会、2020年7月31日発売)。