日本政府は、2022年11月28日に開いた岸田文雄首相を議長とする「新しい資本主義実現会議」で株式などの運用益を非課税とするNISA(少額投資非課税制度)制度の拡充方針を決定した。NISA拡充を柱に中間層の資産形成促進を盛り込み資産所得倍増プランを推奨する。本稿では、NISA拡充の背景や変更が予想される内容について解説していく。

目次

  1. 日本政府がNISA拡充を含む「資産所得倍増プラン」とは?
  2. 現在のNISAとの変更点は?
  3. 「貯蓄から投資へ」今度こそ?

日本政府がNISA拡充を含む「資産所得倍増プラン」とは?

日本政府が「NISA拡充」を正式決定!恒久化、上限引き上げは実現される?
(画像=78art/stock.adobe.com)

日本政府が決めた資産所得倍増プランとは、どういった内容だろうか。同プランでは、岸田政権が抱える「新しい資本主義」の実現に向けて、企業に蓄積されている約516兆円(2021年時点)の内部留保(利益剰余金)を人やスタートアップ、DXなどの分野への投資につなげることを狙っている。一方で家計の現預金を投資に結びつけ、家計の金融資産所得を増やすことも目的の一つだ。

それらを実現するためにリターンの大きな資産に投資しやすい環境を整備する。企業の内部留保を活用して企業が成長投資を実行し、さらに家計の金融資産が増加するという「好循環」の実現を目指す。資産所得倍増プランは、NISA総口座数を約1,703万口座(2022年6月末時点)から、5年間で2倍の3,400万口座に増やす目標を掲げている。

さらに投資金額もNISA買付金額を約28兆円(2022年6月末)から、5年間で56兆円を目指す。

現在のNISAとの変更点は?

前述したように資産所得倍増プランでは、NISAの口座数や買付金額の倍増を目標としている。NISA拡充改革のなかには、これらを達成すべく以下の内容が含まれているのが特徴だ。

1)NISA制度の恒久化
2)NISAの非課税保有期間の無期限化
3)一般NISA・つみたてNISA の投資上限額の増加

1)NISA制度の恒久化

現行のNISAは2014年、成年向けの時限措置として始まった。主に「一般NISA」「つみたてNISA」があり、一般NISAは国内外の上場株式や株式投資信託商品など幅広い投資先が対象で、つみたてNISAは特定の公募株式投資信託商品と上場株式投資信託商品が対象となる。当初、投資可能期間の期限は一般NISAが2023年、つみたてNISAが2037年までと設定されていた。

これが2024年のNISA制度変更により、一般NISAは2028年を期限とする新NISA、つみたてNISAは投資可能期限が2042年まで延長されることになっていた。ところが時限措置として存在する限り、投資家としては制度終了を意識するため、長期的なスタンスで投資に臨みにくくなる。なぜなら制度終了前に資産を売却しないと、非課税の恩恵を受けられなくなるからだ。

そこで資産所得倍増プランでは、NISA制度の恒久化により、中間層が長期的な姿勢で一般NISA、つみたてNISAに向き合い、安定して資産形成に臨める環境を整えるとした。

2)NISAの非課税保有期間の無期限化

現行の一般NISAでは、購入した金融商品から得た配当金や譲渡益(売却益)といった利益が非課税になる期間が5年間と決まっていた。一方、つみたてNISAは投資開始から20年後までの分配金や譲渡益が非課税となる。中高層による長期の資産形成を促す意味では、制度自体の恒久化に加え、この非課税保有期間を無期限にすることも有効だ。

20代や30代の若年層がつみたてNISAを活用して投資を始めた場合、20年間の非課税保有期間が終わるのは、40代や50代である。「老後」というには早い段階で、まだまだ資産形成に取り組む必要がある時期ともいえるだろう。非課税保有期間の期限を撤廃することで、より若い年齢のときから長期的な展望を持って投資できるようになる。

そこで資産所得倍増プランでは、投資に関する「生涯」という時間軸での上限枠を設けることを前提に非課税保有期間を無期限化することを盛り込んだのだ。

3)一般NISA・つみたてNISA の投資上限額の増加

資産所得倍増プランでは、ここまで見てきた「制度の恒久化」「非課税期間の無期限化」に加えて投資上限額の引き上げもうたっている。現行NISA制度の年間の投資上限金額は、一般NISAが120万円、つみたてNISAが40万円だ。なお2021年中のNISA利用状況は、60代以上の世代のうち半数近い約47%の投資家が一般NISAで年間100万円以上を投資していた。

この世代は、退職金の受け取りや住宅ローンの返済終了といった事情から預貯金額が増える傾向にある。さらに投資枠を拡大することで金融資産を多く持つ層が投資に前向きになることが期待できるだろう。また年配層だけでなく若い層においては、フリーランスなどの多様な働き方が広まるなか、資金に余裕のあるタイミングで、より多くの投資を集中的に実行できる環境を設けることが望ましい。こういったことからも一般NISAの投資枠の拡充が求められている。

ちなみに、一般NISAとつみたてNISAに関しては、一般NISAの上限額を現在の2倍の240万円に、つみたてNISAを現在の3倍の120万円まで増やす方針を政府が固めたという報道が12月中旬に入ってあった。この場合、生涯の投資上限は1800万円とする方針だ。

2024年から施行される新NISA制度の取扱い

これだけ抜本的な制度改正が資産所得倍増プランでうたわれると、前述した「2024年の制度改正」はどうなるのだろうか。実は、この改正予定の新NISAは制度設計が複雑で投資家から不評だった。資産所得倍増プランでは、当初予定された改正を見送り新たにプランに盛り込んだ検討中の制度拡充の実行を予定している。

さらにNISAを活用するにあたっての手続きの簡素化、合理化も進める見込みだ。

「貯蓄から投資へ」今度こそ?

日本政府の「貯蓄から投資へ」というスローガンは、2003年から推進されているものだ。しかし現状は、投資へのシフトが順調に進んでいるとはいえない。日本銀行が公表している「資金循環の日米欧の比較」によると2022年3月末における日本の家計における現金・預金の構成割合は54.3%だ。米国(13.4%)やユーロエリア(34.5%)と比較しても国際的にまだ高いことがうかがえるだろう。

今回のNISA拡充を含めた資産所得倍増プランは、名称から分かるように目標が明確だ。投資を促すための制度改革も根本部分から取り組まれる方向であり、今度こそ投資への流れを強く引き寄せられるとの期待感が高まっている。

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