株式会社シーラテクノロジーズ取締役会長兼CEO 杉本宏之氏

2022年、不動産クラウドファンディング「利回りくん」の急成長で業界トップの座を獲得したシーラテクノロジーズ。現在の急成長を維持するため、不動産クラウドファンディング市場においてさらなる顧客の開拓を進めると同時に、再生可能エネルギーなど別の収益源の確保に向けたチャレンジを続けています。

前回は、創業者として初の日米で上場を果たした、同社の杉本宏之会長に、ナスダック上場の経緯や目的、成長を維持するための努力などについてお話をうかがいました。後編となる今回も、引き続き杉本会長のインタビューを掲載。同社が顧客獲得に注力している「利回りくん」の魅力や今後の事業展開、会社の将来像などについてうかがっていきます。

杉本宏之(すぎもと ひろゆき)
株式会社シーラテクノロジーズ代表取締役会長 グループ 執行役員CEO
1977年神奈川県生まれ。高校卒業後、宅建主任者資格を取得し不動産会社に就職。2001年に独立し、エスグラントコーポレーションを設立。2005年業界史上最年少で上場。2010年シーラテクノロジーズを創業。2023年3月31日、プロップ(不動産)テック企業として、Nasdaq上場を果たす。現在の事業内容は、不動産クラウドファンディング事業、AIシステム開発、太陽光、デベロッパー事業などを手掛け、グループ売上高167億円(2021年12月時点)まで成長させる。

「利回りくん」で社会への貢献、地域創生を実現

――御社の成長を見るうえで、御社が提供する不動産クラウドファンディングの「利回りくん」の存在は欠かせないと思います。「利回りくん」はどのようなサービスですか?

利回りくんサービス概説図
(利回りくんサービスイメージ)
利回りくんプロジェクト実績
(利回りくんプロジェクト実績)

不動産クラウドファンディングは、不動産の開発や建設、保有に必要な投資資金を小口化し、一般の方々に販売していくサービスです。購入した投資家は、賃料収入の中から、出資した口数に応じた分配金を受け取ることができます。

不動産投資というと、銀行でローンを組むなど大きな資金が必要で、高所得者層向きの投資とイメージされる方が多いと思います。しかし、不動産クラウドファンディング「利回りくん」は、1口1万円から投資することが可能です。「不動産投資には大金が必要」という世の中の認識を一変させるサービスと言えるでしょう。

また、オンラインで本人確認を行えますので、ほんの数分の手続きで購入することができます。現物の不動産投資に比べて手軽に不動産へ投資できるのも魅力の1つだと思います。


――不動産クラウドファンディングの市場規模は、2018年度の約13億円から、2021年度は250億円程度まで急拡大しています。小口で不動産投資ができる魅力が、人気を呼んでいるのですね。

「利回りくん」は、一般的なマンションに投資する銘柄のほかにも、堀江貴文さんが創業したロケットベンチャーIST(インターステラテクノロジズ社)の工場に投資する「ロケットファンド」や、ZOZO創業者の前澤友作さんの「犬猫殺処分ゼロ」という挑戦を応援するための「イヌネコヒルズ」、ライブ配信者のために完全防音が施された「ライバーズマンション」、乙武洋匡さんがアンバサダーを務めていただいた障害者向けグループホームなど地域創生や社会貢献、応援を目的としたものなど、さまざまなラインナップがあります。

2022年には、太陽光発電など再生可能エネルギー100%で稼働する「太陽光データセンターABURAJIMA」のファンドを組成し、募集金額の950万円に対して1億5,000万円が集まるなど、人気を集めました。そうしたラインナップの豊富さも、お客様から高く評価される一因になっているのでしょう。

――ホリエモンのロケット工場は、かなり話題になりました。

おっしゃる通り、ホリエモンこと堀江貴文さんのプロジェクトである北海道大樹町のロケット工場は、「利回りくん」の代表的な案件になりました。堀江さんのエクイティだけで資金調達をするのは厳しそうでしたので、「利回りくん」のスキームを活用してもらったのですが、銀行には数億円の融資を断られたそうです。

この「ロケットファンド」では、ロケット工場の建設費だけに焦点が当てられがちですが、IST社は今回のクラファンで余裕ができた資金をロケットの開発のための技術者の採用や、彼らの社宅の建設、宿泊施設や飲食店の整備など、町全体を活気づける一大プロジェクトなんですよ。

――確かに、工場だけを建てても周囲に何もなければ、そこで働く人たちの生活が確保できませんね。

もともと人口5,390人の町に、ロケット開発の関係者や建設作業員、ロケット工場を観光する人々などを合わせて年間1万2,000人程が集まるんですよ。銀行がノーと言った案件に対して、夢の実現を個人で応援しようとする人たち、町を活気づけたい地域の人たちの熱意が、「ロケットファンド」として形になったのだと思います。その結果、人口が増加に転じ、不動産価格も大きく上昇しました。これこそ、まさに地域創生ではないでしょうか。

「イヌネコヒルズ」にしても、最初は銀行から融資が断られた案件です。ペットを飼うための管理体制や周辺施設などを整備したり、ペットホテルやペットフードをサブスクリプションによって割引で購入できたりといった、ペットを飼うのに最適な条件を整えたところ、そのマンションはオープン後2、3か月で満室になりました。実は、これらの実績を銀行が考慮して、その後は銀行融資も受けられるようになったんです (笑)

銀行に代わる、新しい形の間接金融の誕生

――人々の熱量が形となって、銀行を動かしたということでしょうか。

株式会社シーラテクノロジーズ取締役会長兼CEO 杉本宏之氏

これまで「利回りくん」で数多くの実績を積み上げてきたことによって、バスケットボールやサッカーのスタジアム、リゾートホテルなど、さまざまなプロジェクトが舞い込むようになりました。中には、民間ではなく地方自治体からの案件もあります。

行政が関係するプロジェクトには補助金がつくので、利回りを比較的高く設定できるという利点があります。財務状態が厳しい地方自治体が少なくありませんから、これからは地方都市の再整備や公営住宅の建て替えなども、民間の力でやっていく必要があると思います。

実際、地方自治体からは活用すべきアセットが数多くあるにも関わらず、実績がないためにプロジェクトを発案しても銀行の融資を受けられないという相談を多くいただいています。まさしく前述したロケット工場プロジェクトなどは、官民が一体となり地方の再開発と企業の資金調達を成し遂げた代表的なプロジェクトです。「利回りくん」は、このような地方の悩みを解決するための手段として、活躍の場がどんどん広がっていくのではないでしょうか。

――「利回りくん」が、銀行に代わって地方に資金を供給する役割を果たすわけですね。

銀行が融資できない部分に資金を供給する点では、「利回りくん」が新しい形の間接金融の機能を生み出したといっても過言ではないでしょう。いくつかの地方自治体からは、地域創生と社会貢献において高い評価をいただくことができました。

これからも、有望な投資対象という面でも、地域創生という面においても貢献できるプロジェクトをどんどん開発していきたいと思います。

――「利回りくん」による新しい間接金融の仕組みをはじめ、御社のビジネスモデルが米国市場でどう評価されるのか気になるのではないでしょうか?

はい、そこはすごい気になっています(笑) 実は、現在の私たちのビジネスを世界の機関投資家がどう評価していただけるのかロードショーを行っている間、よくない評価になるかもしれないという不安はありましたが、私が想像していたより何倍も高く評価してもらえました。「ミスター杉本、あなたならできるよ!」と米国での上場を力強く背中を押してくれたんです。

また、米国は金融引き締めによって経済が停滞しているため、米国の不動産テック業界も調子がいいとは言えない状況です。しかし、日本はまだ緩和的な金融状況にあるため、まだまだ成長を続けている私たちが、魅力的なポートフォリオのひとつとして映っているのだと思います。

新事業も順調なスタートに

――先ほど少しお話がありましたが、太陽光など再生可能エネルギー事業への展開を進められています。

「太陽光データセンター ABURAJIMA」
(画像=「太陽光データセンター ABURAJIMA」)

現在、政府は稼働を休止している原子力発電所の再稼働を検討しているようですが、周辺住民との対話には時間がかかります。すべての原発を再稼働させるのに、現実的にはあと数十年かかってもおかしくないでしょう。

経済産業省は、2022年7月に新しいエネルギー基本計画の原案を発表しました。それによると、2030年度に総発電量の36%~38%を再生可能エネルギーで賄うとしています。つまり、これから再生可能エネルギーの市場規模が拡大していくのは、火を見るより明らかな情勢ということ。私たちは、「利回りくん」に再生可能エネルギー関連の案件を増やしていくことに加えて、グループ傘下企業のシーラソーラー、シーラバイオテックを通して、太陽光発電やバイオマス発電設備の建設、販売を進める計画です。

――ほかに、データセンターの建設にも参入されましたね。

企業のリスク管理への意識の高まりを背景に、データセンターやサーバーを一か所に集中するのではなく、複数の地域に分散する動きが出てきています。この動きを受け、データセンターの建設を始めました。すでにパートナー企業と3,000坪の土地を取得し、建設を進めていまして、この5月に稼働を開始する予定です。

こちらもただの一般的なデータセンターではなく、日中は太陽光発電、夜間はバイオマス発電を活用することで、必要な電力の100%を再生可能エネルギーで賄える物件になっています。この案件には早速、3基のオーダーをいただくなど、順調なスタートとなりました。

老後資金の不足解消には投資が不可欠

――御社は、「不動産投資の民主化」をミッションの1つに掲げています。これは、具体的にどういうことでしょうか?

株式会社シーラテクノロジーズ取締役会長兼CEO 杉本宏之氏

故・安倍晋三元首相の時代の「貯蓄から投資」というワードに始まり、岸田文雄首相も国際的な場所で「インベスト・イン・キシダ」などと発言したほか、NISAなどの投資優遇税制を整備するなど、政府は国民に投資を促しています。そうはいっても、まだまだ日本人の投資に対する関心や意欲は、そこまで上がっていないのが現状でしょう。

しかし、今の時代に年金だけで豊かな老後生活を送れると考えている人は数少ないのではないでしょうか? 年金が減額されたり、受け取れる年齢が遅くなったりすると考える人が9割だと思います。

――2019年には、金融庁の報告書に記載された、いわゆる「老後2,000万円問題」が話題になりました。

子、孫へお小遣いをあげたり、夫婦で旅行に出かけたりするなど、ゆとりある老後生活を送るためには、とても2,000万円では足りないでしょう。不足分を埋めるためには、年金以外の収入源を作る必要があります。

足元、日銀が利上げに動く可能性が指摘されていますが、当面は銀行預金に高い金利がつくことはないでしょう。世界的なインフレに対する懸念も高まっていますが、不動産はインフレに耐性のあるアセットです。銀行に預金としておいておくより、「利回りくん」に投資して、4%、5%といった利回りを得るほうが投資としては、着実です。

――1990年代の不動産バブル崩壊以降、「不動産投資」には悪いイメージがまとわりついているのではないでしょうか?

おっしゃる通り、バブル崩壊以降は不動産投資=ハイリスクというイメージが先行し、敬遠している方々もいらっしゃるでしょう。しかし、いまは不動産市場の好況が続いていて、個人的にはバブル崩壊以降の不動産に対する価値観が大きく変化しつつあることをひしひしと感じています。

「利回りくん」は、収益面でお客様に満足していただくことはもちろん、わくわくする気持ちを持てたり、共感していただけたりするようなプロジェクトを次々と開発しています。1万円から投資が可能なので、まずは「利回りくん」のラインナップをご覧いただき、わくわくしたり、応援したいという気持ちを持てるプロジェクトに投資していただき、日本のみなさんの老後を明るくしていきたいと意気込んでいます(笑)。

今後2年間はアクセル全開

――ここまでさまざまなお話をうかがってきましたが、「利回りくん」の拡大に向けて、まさにアクセル全開という感じですね。

株式会社シーラテクノロジーズ取締役会長兼CEO 杉本宏之氏

主観ではなく、あくまで客観的に情勢を判断したうえでのことですが、「利回りくん」は開発面でも販売面でも絶好調です。さらに、マーケットの情勢などを総合的に考えた結果、いまはアクセルを踏む局面であると判断しています。あと、2年くらいはこの局面が続くでしょう。

――2年という期間は、どんな分析によって出てきたのでしょうか?

米国で利上げの影響が収束し、ニュートラルな経済情勢になるのに2年程度。日本では事実上の利上げに踏み切りつつも、一方で相対的な金融緩和を継続していくと思いますが、2、3年後にはもう一段の利上げに打って出る必要性に迫られるかもしれません。こうした状況をまとめると、今後2年程度は情勢が見通せるという意味で、2年とお伝えしたわけです。それ以降、確実に情勢が悪化するというわけではなく、それより先が見通しづらいということですね。

――今後2年間は、アクセルを踏み続けることになりそうですね。

今後1年でいうと、調達した資金で不動産を購入し、アセットマネジメントフィーで収益基盤を固める一方、新しいビジネスモデルを確立し、ファンドの組成やM&Aなどいろいろと仕掛けていくつもりです。お客様に対しても、圧倒的なUI(ユーザーインターフェイス、サイトのデザインや使いやすさなど顧客と接点がある部分)やUX(ユーザーエクスペリエンス、サービスや商品を通じて顧客が体験できる部分)を提供することに全力を注ぎたいと考えています。

――さらにその先、5年後、10年後には、どのような会社になっているとお考えですか?

「日本国民に不可欠なプラットフォームになっている」ことが最も望んでいる姿です。人生100年と呼ばれる時代、老後の貧困問題は、日本だけでなく、世界中の先進国の課題にもなりつつあります。そうした老後の貧困問題をはじめ、さまざまな社会問題を解決するためのプラットフォームを構築し、世界中の人々に活用していただける会社になりたいですね。

私は、そうした問題を1つ1つ解決に導きながら、企業価値を高めていけると確信しています。