特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、その中でさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。

株式会社さくらさくプラスは東京都千代田に本社を構え、保育所「さくらさくみらい」を運営する子会社、株式会社さくらさくみらいを中軸に子ども・子育て支援事業を展開。グループ企業を通じて保育所への利活用を想定した不動産の仲介・管理業務・システム・アプリケーションの開発・運営、中学校受験対策、子育て支援カフェ事業も手がけている。2020年10月には東証マザーズ(現東証グロース)に上場した。本稿では、代表取締役社長の西尾義隆氏に企業概要や上場に至った経緯、将来の展望などについてお話を伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社さくらさくプラス
西尾 義隆(にしお よしたか)――株式会社さくらさくプラス代表取締役社長
1973年兵庫県神戸市生まれ 関西大学卒業後、不動産会社にてマンション事業者向けの土地媒介、企画などに従事。リーマンショックの際、同僚が保育所探しに苦戦している様子を目の当たりにし、自身の経験を保育所整備に役立てられると思い、2009年に株式会社ブロッサムを起業。以来、「社会に必要な存在として、多くの人の幸せをサポートしていきたい」という思いで事業に邁進している。
一般社団法人 日本こども育成協議会 理事
株式会社さくらさくプラス
2017年に株式会社ブロッサムからの株式移転により親会社として設立。子会社7社(2023年2月現在)では、保育所運営を中軸に、子ども・子育て支援関連事業を手掛ける。子どもをより産み・育てやすい社会にするために、「安全と安心を提供し、自然で和やかな笑いに満ちたあたたかい子育て環境をつくり出すこと」を経営理念及び方針として掲げている。

目次

  1. 東京を中心に認可保育所を運営
  2. ソフトとハードの両面で差別化を図る
  3. 子育て支援施設や子育てノウハウにも事業を拡大

東京を中心に認可保育所を運営

―― 最初に株式会社さくらさくプラスの概要・事業についてお聞かせください。

さくらさくプラス代表取締役社長・西尾義隆氏(以下、社名・氏名略):弊社の中核事業は、子どもやその家庭を支援する保育所の運営です。自治体が認可する認可保育所がほとんどで、2022年12月時点で86か所あり、園児数は約4,500名 、総従業員数は約2,000名にのぼります。

▼園児数の推移

株式会社さくらさくプラス
(画像提供=株式会社さくらさくプラス)

弊社は前職の不動産会社を経て、2009年に創業しました。保育所を作る場所も必要だったため、不動産関連の事業も絡めながら事業を拡げ、現在は保育園事業を中心としながらも子育てを支援するビジネスも展開しています。

――創業から今日までの、事業の変遷をお聞かせください。

創業から一貫して保育所の運営に携わっています。バックグラウンドをお話しすると、2008年に起きたリーマンショックにより前職の不動産会社の業績が悪化する中、私自身が今後の生き方を模索していました。当時は保育所に子どもを預けられず、産育休後に職場へ戻れないなど、労働者にとって必要であるにもかかわらず絶対数が足りていないことに目を向け、大阪府豊中市において事業譲渡により保育所を譲り受け(2018年3月閉園)、運営を始めました。

自治体からの補助金で運営する認可保育所は、自由に開設することはできません。当初は利用者から保育料を頂戴する認可外保育所を開き、実績を積み上げたうえで2014年から認可保育所も始め、 現在その数は 84か所まで増えました。

ソフトとハードの両面で差別化を図る

――御社の保育所は他と何が違いますか。

ハードとソフトを意識しています。ハード面については、保育所を利用される方は仕事などで忙しいことが多いため、利用しやすい場所にあることは条件の一つです。通勤経路にある、駅に近いなど、ご利用者にとって利便性の高い立地であることは、非常に重要な要素だと考えています。

ソフト面については私が異業種から入ったこともあり現場の声を大切にしたく、「こういった保育をしなさい」という押し付けはしてきませんでした。何を弊社のアイデンティティとするか現場の皆さんと一緒に考えて作り上げてきました。保育のことをしっかりと考えた質の高いソフトづくりをしています。

▼さくらさくプラスが運営する保育所(一例)

株式会社さくらさくプラス
(画像提供=株式会社さくらさくプラス)

今は保育所の数が多いので、思いの部分は研修を通じて学んでもらっており、どの保育所より従業員の教育研修に時間と力をかけている会社だと自負しています。従来の保育では子どものために保育士が家に仕事を持ち帰る残業的な作業が目立ちましたが、労務管理を徹底するなど会社らしく正しく働きやすい環境も整備し「保育のホワイト企業」を目指しています。

――首都圏を中心に事業を展開していますが、好立地に保育所を作るのは難しくないでしょうか。

例えば東京都江東区豊洲にある保育所の場合、周りにはいくつものタワーマンションがあり人口密度の高い場所ですが、保育所を作れそうな場所は限られています。そこでは1階から3階までを保育所にし、4階から上は総合不動産のザイマックス社と組んでサービスオフィスを展開することで、土地代を吸収しやすくしています。それぞれの地域でオーナーに保育所を作っていただく場合も、土地を貸して下さる方、建物を持っていただく方に対して最も効率の良い提案ができるのは、他にはない弊社の強みだと思います。

――2020年10月には東証マザーズ(現東証グロース)に上場しました。金融面や事業面で変化はありましたか。

当時でも約800名の従業員がいて、労働の管理や未払い残業代の考え方などの調整や改善が必要でした。そちらが整い、2020年4月に上場を予定していましたが、当時はコロナ禍の緊急事態宣言下のため資金が集まらないと考え、やむなく上場承認後に申請を取り下げました。その後は市場の様子を見ながらタイミングを計り、2020年10月の上場に至りました。

上場によって金融機関からのコンタクトが非常に増え、スムーズに話が進むようになったことは大きな変化です。本部・現場ともに従業員の採用にもプラスに働いており、特に保育士の場合は地方出身の20歳や22歳のお子さんが上京することに対して、親御さんの信用につながっていると感じています。社内についても、上場前に入社して苦労した従業員がたくさんいますから、目標を達成したと感じていると思います。

子育て支援施設や子育てノウハウにも事業を拡大

――2020年という激動の年に上場した立場から、日本経済の課題や今後の動向をどのように捉え、自社のビジネスにどのように影響するとお考えですか。

出生数80万人を割った少子化は喫緊の課題で、ようやく政府も動き始めてきました。 日本経済の成長とその発展や安定には国策としてこの問題を真剣に考えていく必要があると考えています。 子ども子育て支援事業を発展させてきた当社としてはその課題に向き合い対応ができると考えています。 今後も国の対応指針に注視をし、対応をしていく必要があります。

――課題を抱えながらも成長を続けるための目標や5年後、10年後に目指すべき姿はありますか。

子どもをもっと産みやすく育てやすい社会環境を作る必要があると思います。少子化対策になり、未整備の日本においては、ビジネスチャンスにもなるはずです。そのためには、国や社会に対して変化を促すことも大切だと思います。最近ではパパ育休の取り組みといった10年前、20年前では考えられなかったことが始まっていて、今後は国・社会レベルで広がっていくでしょう。弊社は子育て支援の会社として、ニーズにマッチした事業を創出したいと思います。

具体策の一つが、子育て支援住宅の開発です。不動産における強みと保育所運営をミックスし、子育て家庭が住みやすい住まいを提供したいと考え、現在準備を進めています。子どもが転びにくいといった施設の部分だけではなく、子育ての相談もできるなど、子育てのノウハウをお伝えできるようなソフト面も備えた施設を作るのが目標で、2022年11月時点で2号物件まで取得しています。
子育てのノウハウを共有することも、その一つです。子育てにおいてはさまざまな悩みや情報がありますが、子どもの個性はそれぞれ異なります。そこで現在、一人ひとりの子どもに個別最適化した情報を提供できるアプリやソフトウェアを作っているところです。保育所のノウハウを活用できると思っていて、マネタイズしたいと考えています。

2023年1月20日には、東京都江東区の門前仲町で子育て支援や食育を目的としたベーカリーカフェもオープンしました。保育所の給食でパンは人気ですが、小麦アレルギーで食べられない、糖質・脂質の高さや塩分の多さによって他のメニューで栄養価の調節が必要であったり、柔らかさから咀嚼回数が減ることで満足感が不足するといった課題があります。これらの課題を解決するパンを開発・提供したいと思います。子どもと一緒だとカフェに行くことをためらう親御さんが安心して食事ができる場にしたいですし、近隣の弊社グループが運営する保育所の保育士による読み聞かせや、管理栄養士が考えるレシピの提供など、さまざまな連携も図る予定です。

▼ベーカリーカフェ

株式会社さくらさくプラス
(画像提供=株式会社さくらさくプラス)

――保育所の開設計画はどうなっていますか。

コロナの影響で、2022~2023年の開設数は当初の計画より減っています。3~4年後には開設数が減少すると予想しており、それが早まったという状況ですが、揺り戻しで増える可能性もあります。待機児童や将来の人口動態を予測して行政が開発計画を立てますが、現在はそれが見えないため「積極的に作ろう」という考えではないようです。

保育所はしっかり運営したからといって、大きな利益を見込める事業ではありません。弊社は、ニーズが安定している東京都を中心に施設を展開してきました。今後も全国各地に建てて売上を伸ばすのではなく、東京において投資効率を上げる、お客様に対して製品・サービスを販売することを考える必要があります。基本的にはドミナント戦略を継続しつつ、子育てのノウハウは東京に限らず日本全体で展開する計画です。企業価値を上げるために、同業や異業種との経営統合やM&Aも検討したいと思います。

保育所の利用率は過去10年で約50%まで上昇しました。一方で少子化は加速しているので、これからは保育所が選ばれる時代になるでしょう。子どもの数が1割減ったからすべての保育所でそうなるのではなく、まったく影響を受けないところもあれば、施設数を大幅に減らす事業所もあるかもしれません。弊社は、利用率を意識しながら「ここに入れたい」と思っていただける施設を目指し、生き残りを図ります。これまでは待機児童がいたので、どの保育所もそれなりに埋まっていましたが、今後は立地の良さや教育の質の高さをしっかり発信して、多くの方に知っていただくことも大切だと考えています。

――ZUU onlineには投資家や富裕層の読者がたくさんいます。そのような方に向けて、上場企業の経営者としてメッセージをお願いいたします。

投資は資金を増やすことが大原則ですが、そのタームは短期・中期・長期に分かれます。その観点では、弊社の事業を中長期で見ていただきたいと考えています。弊社の魅力は将来発展が見込める、かつ社会に必要な会社であることです。いずれにしても、私たちが老人になったときに助けてくれるのは次世代であるため、彼らに対する投資も非常に重要です。今後も子育て支援は国の重要な政策といえますが、その国を支える事業を展開する弊社をご支援いただきたいと思います。