ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択するうえで投資家だけでなく大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシスの役員が各企業に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。
今回は、同社の宮本徹専務取締役がSGホールディングス株式会社執行役員経営企画担当兼経営企画部長兼IR室長の藤野博氏にお話をうかがった。SGホールディングス株式会社は、物流大手の佐川急便株式会社を中核とするSGホールディングスグループの純粋持株会社だ。京都府に本社を構え、1957年の創業以来「飛脚の精神(こころ)」を受け継ぎながら物流ビジネスを展開している。
同社は、多くの車両を使用する物流事業者として早期から環境負荷低減に取り組み、2022年度にスタートした3年間の中期経営計画「SGH Story 2024」では、重点戦略の一つに「脱炭素をはじめとした社会・環境課題解決に向けたサービスの推進」を掲げた。本稿では、インタビューのなかで環境・脱炭素のテーマを中心に同社の取り組みや成果、今後目指すべき姿について紐解いていく。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
1995年4月株式会社ダイエーに入社。2014年10月、佐川急便株式会社の東京本社営業開発部に参事として入社。2016~2019年にかけて同社東京本社の営業開発部ロジスティクス・コンサルティング課課長や経営企画・広報部経営企画課課長、経営企画・広報部担当部長、経営企画部長などを経て2020年6月に執行役員経営企画担当兼経営企画部長に就任した。
2021年7月には、SGホールディングス株式会社の執行役員経営企画担当兼経営企画部長兼IR室長に就任し現在に至る。経営企画部では、グループ経営計画の策定および管理を行い、国際事業やDX推進、広報も統括。IR室では、ステークホルダーへの適切な情報開示、投資家・アナリスト対応を通した企業価値の向上を担っている。
SGホールディングス株式会社
1957年3月、創業者佐川清が京都で飛脚業を開業。 1965年11月に佐川急便株式会社を設立した。2006年3月、純粋持株会社体制へ移行し現在のSGホールディングス株式会社設立に至る。2017年12月には、東京証券取引所市場第一部(現:プライム市場)に上場を果たす。
「信頼、創造、挑戦」を企業理念とし、顧客の物流ニーズに応えるべくまい進する総合物流企業グループ。近年は、CSR重要課題と親和性の高いSDGs目標を7つ特定し、アクションを進めている。
https://www.sg-hldgs.co.jp/
1978年生まれ。東京都出身。建設、通信業界を経て2002年に株式会社アクシスエンジニアリングへ入社、現在は代表取締役。2015年には株式会社アクシスの取締役、2018年に専務取締役に就任。両社において、事業構築に向けた技術基盤を一貫して担当。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。
SGホールディングス株式会社のESG・脱炭素に対する取り組み
アクシス 宮本氏(以下、社名、敬称略):株式会社アクシスの宮本です。弊社は、人口最小県(2021年10月1日時点)の鳥取市に本社を構え、システム開発関連の事業を中心に展開しています。昨今は「再エネの見える化」にも取り組んでいまして、本日は御社のESGに対する取り組みについてお伺いし、勉強させていただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
SGホールディングス 藤野氏(以下、社名、敬称略):SGホールディングス株式会社の藤野と申します。弊社グループは、佐川急便を中核として、配送からシステム、国際物流などのビジネスを展開し、お客さまが抱える経営課題を物流を通して解決に導く総合物流企業グループです。
宮本:最初に御社のESGや脱炭素に対する取り組みや成果についてお聞かせください。
藤野:会社として環境活動を本格化したのは1997年6月からです。背景に挙げられるのは、同年12月に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議、京都会議)でした。本社を構える京都で開催されることもあり、弊社としても取り組みを推進すべく、現在のサステナビリティ委員会の前身となる「エコプロジェクト推進委員会」を設置したことが大きなきっかけです。
当初は、環境負荷の低い天然ガス自動車を10台導入したりトラック運行時のアイドリングストップを行ったりすることから始めました。
▼SGホールディングスの環境活動の歴史
1997年以降も環境への取り組みを進化させています。代表的なのは、トラックから環境負荷が低い鉄道や船舶などを使った輸送に換える「モーダルシフト」です。CO2排出量を減らしながら一度に大量の荷物を運べるという点で、積極的に導入を進めてきました。
東京~大阪間では、日本貨物鉄道株式会社さまと共同開発した佐川急便専用の電車型特急コンテナ列車「スーパーレールカーゴ」を活用し、宅配便などの小口貨物を夜間に輸送しています。1日合計の積載量は、上下各一運行で10トントラック56台分に相当します。
また関東~九州間では、一部を海上輸送に転換し、CO2排出量の削減に寄与しています。
▼フェリーを利用したモーダルシフト
2022年3月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のレポートも公開いたしました。2050年までのカーボンニュートラル実現を目指した脱炭素ビジョンも策定し、ESGの取り組みをさらに加速させる体制を構築しています。
宮本:ESGの取り組みに対する外部からの評価については、いかがでしょうか。
藤野:代表的なところでは、CDPの最高評価である気候変動Aリストに2021年から2年連続で選定されました。弊社の取り組みをしっかりと評価していただいたと捉えています。加えてGPIFがESG投資のベンチマークにしている5つのインデックスすべてにもご採用いただきました。そのため弊社の取り組みは、広く周知されていると認識しています。
宮本:こうした取り組みの成果について、教えていただけますでしょうか。
藤野:新型コロナの影響でECマーケットが急成長したこともあり、宅配便の取扱個数は 2013年度比で約17%増加、個数換算で約2億個も増えました。これにより輸送のためのトラックの台数も増えましたが、Scope1、2を合算したCO2排出量は2013年度比で 約8%(2021年度時点)減少しました。こういった取り組みが外部からの評価につながったと思います。
宮本:先ほどご紹介いただいた脱炭素ビジョンの概要についても、お聞かせいただけますでしょうか。
藤野:これは、弊社が物流という社会インフラを担う企業グループとして、社会的責任を果たすことを強く認識したうえで策定したものです。Scope1・2における最終的なゴールは、2050年のカーボンニュートラルですが、中間目標として2030年のタイミングでCO2排出量を2013年度比で約46%削減することが目標です。
手法としては、先述した車両や物流施設からの排出削減、森林資源の活用による排出削減が挙げられます。また弊社のビジネスは、お客さまから見るとScope3に該当しますので、この削減に寄与するようなお客さまのサプライチェーンを最適化するご提案にも注力しています。
▼SGホールディングスの脱炭素ビジョン
▼排出削減施策
具体的には、2030年までに保有する軽自動車すべてをEV(電気自動車)に切り替える目標を掲げ、トラックについても早期にEV・FCV(燃料電池車)などの環境対応車を導入するべく検討を進めています。これらにより2030年度には、保有車両に占める環境対応車の割合を2021年度の59%から98%まで上昇させる計画です。
施設に関しては、再エネへの切り替えと環境配慮型施設の導入を積極的に進めています。既存施設は、できる限り照明のLED化や太陽光発電システムの採用を進めています。弊社グループのSGリアルティが所有する「SGリアルティ和光(埼玉県和光市)」と「SGリアルティ東大阪(大阪府東大阪市)」といった物流センターは、環境配慮型施設であり、今後も同様の施設を増やす考えです。
2021年度における電力使用量の再エネ比率は14%でしたが、2030年までに約40%まで引き上げる方針を掲げています。
森林資源については、佐川急便が東京都八王子市(高尾)に森林約50ヘクタールを所有しており、そこで実施する「 高尾100年の森プロジェクト」が挙げられます。ここでは、森林保全活動を実施するとともに環境教育や子どもたちを対象にした自然体験学習などを開催しています。
加えて、弊社グループの佐川林業が高知・徳島の両県に保有する約812ヘクタール(東京ドーム約173個分)の「さがわの森」でも保全活動を継続的に行っています。将来的には、オフセットクレジットの創出についても検討したい考えです。
ここまで挙げた3つの施策は、弊社のCO2排出量削減に寄与しますが、お客さまのCO2排出量削減にも貢献しないといけません。現状としては、専門の物流コンサルチームの「GOAL🄬」を通じた提案を行っています。
例えば5Gアンテナの設置を進めている通信事業者さまに対して、これまでは工場から各現場まで資材を直接輸送していましたが、現場に近い場所に仮置き場を作り、工場から仮置き場までトレーラー1台で輸送することで輸送距離を約半分にまで減らすことができました。これは、お客さまにとって効率化になり、CO2排出量の削減にもつながった事例です。
▼通信事業者さまの5Gアンテナ設置輸送の事例
また、ふるさと納税の返礼品も個別に事業者さまから集荷するのではなく、貸切り便の大型車両でまとめて集荷することや、集荷した返礼品を拠点に集約し、ある程度まとめて最寄りの佐川急便の営業所まで幹線輸送することで、輸送車両台数を減少させCO2排出量の削減に寄与しました。
宮本:取り組みを通じて見えてきた課題については、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
藤野:トラックについては、先ほど申し上げた通り、EVやFCVなど何がベストなのかまで議論は進んでいません。EVであれば電気の充電、FCVなら水素ステーションなど燃料の供給設備についても考える必要があります。現状、これらの車両は高額となるため、助成金などを活用しながら、導入を進めていきたいと考えています。
またECマーケットの成長による影響も考えないといけません。中核事業であるデリバリー事業では長距離の幹線輸送とラストワンマイルの配達をパートナー企業に一部委託しており、これは弊社グループにとってのScope3にあたります。そのためパートナー企業のCO2排出量をいかに一緒に減らしていくかが、非常に重要であると認識しています。現状、AIを活用した効率的な配送ルートの設定や宅配ボックスなど多様な受け取り方の開発に取り組んでいますが、ネットワーク全体でのCO2排出量削減に向けてパートナー企業とともに手法を検討していきたいと思っています。
宮本:非常に多岐にわたる施策ですが、グループ内における推進体制はどのように構築されていますか。
藤野:2022年4月に社内外における責任の明確化、施策の進捗状況や見直しといった役割を担う「ESG推進部」を新設しました。経営レベルでの推進や進捗の確認、新施策の議論の場として取締役をメンバーとした「サステナビリティ委員会(旧:CSR委員会)」もあり、その事務局もESG推進部が担当しています。
一方、スマートフォンやパソコンで閲覧できる社内報を活用してグループ各社の取り組みを従業員に対して発信し、ESGを自分ごととして捉えてもらうよう促しています。
SGホールディングス株式会社の脱炭素社会における未来像
宮本:DXやIoTが進み、最近はスマートシティのような構想も現実味を帯びてきました。そのような来るべき未来において、御社がイメージする脱炭素社会の姿をお聞かせください。
藤野:DXは、中期経営計画の柱の一つです。デジタル技術を使った見える化やIoT・AIを活用した環境に優しい配送スキームの構築は、脱炭素社会の実現に向けた目標に数えられます。例えば全国各地の佐川急便およびパートナー企業のネットワークを活用し、従来の貸し切り・直行というチャーターサービスを強化したTMS(Transportation Management System)がその一つです。
TMSプラットフォームを構築し、荷主のニーズと車両の動態管理などを組み合わせることで、往復の両方で荷物を積むなど無駄のないトラック運行を実現することを目指しています。運送事業者は往復で荷物があることは収益になりますし、荷主のタイムリーな輸送ニーズに対応することも可能です。
ハード面でもEVなど以外にもドローンや自動自走ロボットをはじめとする新モビリティの実証実験にも参画しています。グループが持ちえないリソースは外部、特にスタートアップと協力しながら取り組みを進めています。
宮本:ドローンの話題はよく耳にするのですが、自動自走ロボットではどのような活用を想定していらっしゃいますか。
藤野:都心のマンション内で配達スタッフの代わりに荷物を運んだりすることを想定しています。将来的にはエレベーターを使って移動できたりすれば良いと思っています。現在は 安全走行などを含めて検証しているところです。弊社グループは、日本全国を対象にサービスを提供しているからこそ、労働力不足が叫ばれるなか、新たなモビリティの活用を通じたサービス品質の維持・向上に努めたいと思います。
宮本:御社はホームページなどでESGや脱炭素に対する取り組みを積極的に公開しています。その際はどういったことを心がけていますでしょうか。
藤野:弊社としては、投資家をはじめステークホルダーのみなさまの声にしっかりと耳を傾け、何を求めているかについて非常に強く関心を抱いております。またニーズにお応えできるように、一つ一つ着実に取り組みを進めたうえで課題を解消することが大切です。その際、どこまで情報を出せば良いかについて終わりはありません。
課題が遷移するなか論点も変わりますので、いま求められることに対してしっかりと情報をお出しすることがベストだと思います。
SGホールディングス株式会社のエネルギー見える化への取り組み
宮本:脱炭素社会を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。
藤野:CO2排出量の可視化は、マストです。時期は未定ですが、サービスとして提供することを検討しています。いずれにしてもDXのベースとして見える化は必須です。そのためサプライチェーンの最適化もあわせて、お客さまのCO2排出量の削減に貢献できる環境を作りたいと思っています。佐川急便の事業活動におけるCO2排出量の集計はできていますが、荷物一つに対するCO2排出量までは、まだ到達していません。今後データを積み上げていくと新たなソリューションを考える材料になるので取り組みを進めたいと思います。
宮本:弊社のシステムは、Scope1~3までのデータを取り込み、見える化する仕組みを持っておりますので、ぜひご参考にしていただければと思います。
藤野:特に課題としているのは、Scope3についてです。弊社は都市間を結ぶ幹線輸送や各地域での個人宅への配達の多くは、パートナー企業にお願いしている状況です。ここでのCO2排出量を車両もしくは一業務ごとに把握するのはハードルが高く、どうすべきか頭を悩ませています。
宮本:承知いたしました。弊社でも何かアイデアをご提案できればと思います。
藤野:ちなみにエネルギーの見える化ができた先には、どういったソリューションが考えられますか?
宮本:弊社としては、各企業の事業体に合わせてサービスの付加価値に利活用できると考えています。例えば自治体であれば「子ども向けの出前授業でデータを使い教材にする」といったこともできるでしょう。電車や飛行機は、すでに1便あたりのCO2排出量を明示していますが、それも見える化ができているからこそ。弊社のプロダクトを起点に、お客さまに付加価値を生み出すお手伝いができると確信しています。
続いて最後のご質問です。昨今は、多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。この観点で御社を応援する魅力をお聞かせください。
藤野:弊社でもCO2排出量の削減に取り組みますが、最も大事なのはサプライチェーン全体のなかで、お客さまから見たScope3の削減にいかにお応えできるかという点だと思っています。こちらについてもしっかりと取り組む所存です。定量的な進捗の状況も含めて情報を開示していているので、こういった点も評価いただければと思います。
宮本:今日のお話で物流業界のリーディングカンパニーのSGホールディングス株式会社が、どのような施策を講じているのかについて理解できました。ありがとうございました。