ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家だけでなく、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシスの役員が各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、同社の宮本徹専務取締役がダイドーグループホールディングス株式会社経営戦略部の西山直行氏と梅垣真哉氏にお話を伺った。
ダイドーグループホールディングス株式会社は、飲料部門のダイドードリンコ、医薬品部門の大同薬品工業、食品部門のたらみなどを展開する、ダイドーグループの持株会社だ。大阪市に本社を構え、国内のみならずトルコや中国などにも進出している。
同社は2019年1月、「グループミッション2030」の策定を機にサステナビリティ経営を加速。これを実現するために8つのマテリアリティも特定し、そこには「脱炭素社会・循環型社会への貢献」など、環境への取り組みも含まれる。本稿ではインタビューを通じて、ダイドーグループの環境・脱炭素に対する取り組みや成果、今後目指すべき姿を紹介する。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
1988年入社。自販機のオペレーションや営業企画等を経て、 2014年より経営戦略部長、海外事業部長、戦略投資部長を経験。 2017年より現職として、同社のグループミッション2030や中期経営計画など経営戦略全般をリード
大手電機メーカーを経て、2012年入社。 マーケティング部やコーポレートコミュニケーション部を経て、 2020年度より同社のサステナビリティ推進を担当し、 中期経営計画2026策定に合わせたマテリアリティの特定などを担当。
ダイドーグループホールディングス株式会社
ダイドーグループは、全国に約27万台の自販機を展開するダイドードリンコなどを傘下に持つ持株会社。創業以来、「共存共栄の精神」を事業に取り組む上での大原則とし、自販機ビジネスを中心として「お客様の求めるものを身近なところでお届けする」ビジネスを展開。そのほかグループ内には、ドリンク剤受託製造分野でトップクラスの実績を誇る大同薬品工業やドライゼリー市場で業界トップシェアを持つたらみなど。
1978年生まれ。東京都出身。建設、通信業界を経て2002年に株式会社アクシスエンジニアリングに入社、現在は代表取締役。2015年には株式会社アクシスの取締役、2018年に専務取締役に就任。両社において、事業構築に向けた技術基盤を一貫して担当。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。
目次
ダイドーグループホールディングス株式会社のESG・脱炭素に対する取り組み
アクシス 宮本氏(以下、社名、敬称略):株式会社アクシスの宮本です。弊社はシステム開発関連の事業を中心に展開し、昨今は再エネの見える化事業にも取り組んでいます。本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、御社のESGや脱炭素への取り組みをお聞かせください。
ダイドーグループホールディングス 西山氏(以下、社名、敬称略):ダイドーグループは国内飲料事業を中核に、医薬品関連事業や食品事業を展開しています。髙松富也が社長に就任した2014年に「人と、社会と、共に喜び、共に栄える。その実現のためにダイドーグループは、ダイナミックにチャレンジを続ける。」というグループ理念を制定しましたが、ここに掲げる「共に喜び、共に栄える」という共存共栄の精神は、事業に取り組む上での大前提だと考えています。言い換えると、過去からの経営スタイルがサステナビリティ経営に通じるということです。この考えをさらに進化させ、ステークホルダーとともに持続成長を遂げるため、2019年1月にサステナビリティ経営の方針を示すべく発表したのが「グループミッション2030」です。
しかしながら、「グループミッション2030」を策定してからの3年間で新型コロナウイルス感染症が拡大したことで、当時は想定していなかった変化に直面しています。これを踏まえて、実現に向かい何をすべきかグループ内外で話し合い、2022年1月には重要性の高い経営課題として8つのマテリアリティを策定しました。
ダイドーグループホールディングス 梅垣氏(以下、社名、敬称略):その際は、経営につなげて実効性を高めることを目的に従来のESG委員会をグループサステナビリティ委員会に進化させ、委員会を起点とした推進活動を行っています。グループの委員会に加えて、国内主要子会社(ダイドードリンコ、大同薬品工業、たらみ)にもサステナビリティに関して議論する会議体を立ち上げました。目の前の課題だけではなく、中長期的な経営課題に目を向けて対応策を検討する体制ができたと思います。
環境に関しては、グループサステナビリティ委員会より環境に特化した会議体であるグループ環境分科会を立ち上げました。西山が議長となり、2022年9月に開催した1回目の会議はホールディングス社長の高松も参加しました。ここではグループ各社における環境施策の進捗や課題などを共有し、グループ全体での対応力の向上について話し合いました。例えば、太陽光など再エネの導入の進め方であれば、担当者目線で情報を共有することで進めるためのヒントをつかめましたし、グループ全体で連携しながら環境へ貢献する機運が高まったと考えています。
TCFD提言への対応は、プライム市場上場企業として避けて通ることはできません。2021年にダイドードリンコはシナリオ分析を実施していましたが、2022年度は財務インパクト分析を実施し、発生時の影響度が高いリスクや機会を可視化しました。国内の大同薬品工業やたらみに関してもシナリオ分析を行うことで、どのようなリスクや機会があるかを特定できました。これに先立ち基幹事業のダイドードリンコでは、2050年までの目標として自販機ビジネスにおけるカーボンニュートラルを目指すという、高い目標を掲げています。今後は、その実現に向けた具体的な取り組みを加速させていきます。
▼脱炭素社会への貢献に向けたCO2排出削減目標
宮本:自販機ビジネスのカーボンニュートラルでは、具体的にどのようなことを行われるのでしょうか。
梅垣:2022年7月より、実質CO2排出量がゼロでカーボンニュートラルの自販機「LOVE the EARTHベンダー」の導入を始めました。これは、自販機の年間消費電力量に相当する再エネ指定の非化石証書をダイドードリンコが代理購入して、CO2の排出量を実質ゼロにするというものです。弊社にとってはScope3、自販機設置先オーナー様にとってはScope2にあたるCO2排出をゼロにする取り組みで、これまでに約700台を設置しました。今後も、ビジネスと環境負荷低減を両立できることを実証したいと考えています。
▼LOVE the EARTHベンダー
「LOVE the EARTHベンダー」という象徴的な事例はできましたが、自販機への補充を行う車両などScope1のCO2排出量は非常に多いのが現状です。2030年までに国内飲料事業の自社排出(Scope1、2)のカーボンニュートラルは意欲的な試みですが、既存の改善にとどまらず自販機ビジネスのプロセス全体を見直しや、新しいテクノロジーの導入も必要になると思います。
大同薬品工業やたらみの工場で使用するエネルギーを、カーボンニュートラルに近づけることも課題の一つです。再エネの導入が考えられますが、太陽光パネルの導入は費用対効果も考慮する必要があり、プラスアルファの価値を見出しながら効果的な投資を行うことが求められます。大同薬品工業の新工場では電力の一部を太陽光発電で賄っていますが、全体としてはわずかです。非化石証書などのオフセットには限界がありますから、今後はPPAの活用も含めて幅広い選択肢で検討を進めていきます。
西山:ちなみにトルコではハイパーインフレが起きていて、日本では考えられないほど電気代が上がっています。現地工場では、太陽光パネルの導入を検討するなど、急激な社会変化にも対応してまいります。
宮本:資源循環型社会への取り組みについてもお聞かせいただけますでしょうか。
梅垣:ここでは「空き容器回収率を2030年までに100%達成」「プラスチック容器のサステナブル化を2030年までに60%以上を実現」「自販機の平均寿命を2030年までに15年達成」という3つの目標を掲げています。
▼資源循環型社会への貢献に向けた重点目標
弊社は販売チャネルにおける自販機比率が高く、これまでも業界平均を上回る8割程度の容器回収率を誇っていました。我々はリサイクルボックスの維持・向上とパートナーシップによる新たな回収スキームを通じて100%回収への挑戦を続けています。その結果、昨年度の回収率は90%を超えました。
飲料容器のリサイクルペットボトルの採用は飲料各社が取り組んでいますが、供給量が少ないのが課題です。技術の進化も見据えつつ、他業界との連携も含めて実現したいと考えています。また、自販機は製造時に多くのCO2を排出することから、一部の重要部品を取り換えることで通常の寿命よりも長持ちさせる自販機の長寿命化にも取り組んでいます。
宮本:弊社は鳥取県に本社を置く立場として、地域における循環型社会への貢献を考えていますが、そのような視点での取り組みは何かありますかでしょうか。
梅垣:自販機は周囲に人が集まらないと売上も伸びませんし、オペレーションを含めたサポートとなる人が地域いなければ事業として成立しないため、地域の活性化も非常に重視しています。その考えを形にしたのが、2003年に始まった「ダイドーグループ 日本の祭り」です。祭り文化の継承は地域の継続的な発展には欠かすことができないため、弊社は全国から年間約35地域の祭りをサポートしています。お祭りや地域の文化の情報を発信することで地元の良さを再確認できますし、訪れる人が増えることも期待できます。その結果が、自販機ビジネスのサステナビリティにもつながっていくことを期待しています。
ダイドーグループホールディングス株式会社がイメージする脱炭素社会へのプロセス
宮本:IoTやDXが進展し、スマートシティのような構想が現実味を帯びてきました。来るべき未来において御社がイメージする脱炭素社会の姿や、その中での役割についてお聞かせください。
西山:カーボンニュートラルは社会全体で進めていきますが、それ付随するテクノロジーやサービスはすでに存在し、今後もさらに出てくるはず。これらを連係させ、カーボンニュートラルを実現する社会になっていくと思います。弊社の経営戦略部では2022年1月にビジネスイノベーショングループを発足し、グループのDX経営に取り組んでいます。世の中の最新テクノロジーなどをウォッチしながら、弊社のビジネスにマッチするものは取り入れ、活用したいと考えています。
一方、カーボンニュートラルへの移行を1社だけで進めるには限界があります。異業種やスタートアップなどとの協業は今や当たり前ですから、これに関してもM&Aや他社とのアライアンスを推進する戦略投資グループが中心となって取り組んでいます。消費者の行動に目を向けると、エシカル消費といった環境に配慮した生活習慣が当たり前になっていくと思います。
宮本:次に、情報公開について教えてください。御社はサステナビリティや脱炭素に関する情報公開を積極的にされていらっしゃいますが、脱炭素社会の実現に向けた情報公開やプロモーションをする際に心がけておられる点はありますでしょうか。
西山:脱炭素社会やカーボンニュートラルを実現するためには、環境配慮に貢献する取り組みを継続的に行う必要があります。継続的な実行のためには、環境価値と経済価値の両方を高めるCSV経営の視点も求められるでしょう。自社だけではなく、お客様やパートナー企業とともに進めることも必須です。これに伴い、共感できる象徴的な事例や効果的な情報発信が目標達成を近づけ、社会への影響も大きくなると考えています。
ダイドーグループホールディングス株式会社のエネルギー見える化への取り組み
宮本:省エネ・脱炭素を実現するには、電力やガスなどエネルギーの使用量を数値化・共有する、エネルギーの見える化が必須です。弊社は電力トレーサビリティシステムを開発するなど、エネルギーの見える化に取り組んでいますが、御社ではエネルギーの見える化について、どのように取り組んでいらっしゃいますか。
西山:弊社はTCFDに基づき国内飲料事業のScope1、2だけではなく、Scope3についても情報を開示しています。開示自体が目的ではなく、重要度の高いものから優先的に状況を把握し、可視化することで対応策の検討につなげ、ひいては事業成長につなげるのが目的です。外部に情報を出す前に、自社内で見える化するイメージです。今後も環境価値と経済価値の両輪をうまく回し、持続的なビジネスの成長につなげていきます。
宮本:最後の質問です。昨今は多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。この観点で、御社を応援することの魅力をお聞かせください。
西山:サステナビリティ経営を実践している企業は、長いスパンによる安定と成長で成果を上げるのが特徴だと思います。また、投資により企業を間接的に応援した結果、社会が良くなることを実感できることもESG投資の魅力です。弊社もそのような基準で選んでいただけるよう努力してまいります。この2点を重視する方は、ぜひ弊社にご注目ください。
宮本:飲料や自販機は、私たちの生活に身近な存在です。本日のお話で、カーボンニュートラルに向けた取り組みを知ることができました。御社が実践することによるインパクトもあると思います。ありがとうございました。