海外で金融機関の問題が報じられる昨今、日本の銀行が破綻したときの預金への影響を知っておくことが重要だ。銀行が破綻した場合、その金融機関の種別や預金の種類によって、預けていた資産が保護される場合と、そうでない場合がある。本稿ではその違いや、どのような備えをするとよいかなどについて解説する。
もしも銀行が破綻/倒産したら……知っておきたい預金保険制度の知識
シリコンバレーバンクの破綻やクレディ・スイスの危機があったとき「日本の金融機関への影響は限定的」との識者の意見が目立った。
確かにこれらの銀行の破綻は、個別事情の部分が大きい。シリコンバレーバンクの破綻は、巨額損失を出した後の債権売却と増資により信用不安が一気に爆発した。クレディ・スイスの危機は、相次ぐ不祥事や法廷闘争などによる顧客流出が危機の要因となった。
しかし、だからといって日本の金融機関が破綻と無縁なわけではない。実際にわずか十数年前にも日本振興銀行が破綻している。「日本の金融機関は健全だから破綻しない」と思い込まず、預金保護の仕組みについて知り、備えておくことが大事だ。
はじめに、 金融機関が破綻したとき、どれくらいの範囲で預金が保護されるのか、 どんな仕組みで預金が守られるのかなどについて確認しよう。
銀行が破綻・倒産したら「元本1,000万円まで+利息」は保護される
預金をしている金融機関が破綻したとき、日本では以下の範囲で資産が保護される。
(預金者1人につき)
- 元本:1,000万円まで
- 利息:破綻日までの分
気になるのは、「元本1,000万円まで+利息」を超えた分だが、これは破綻した金融機関の資産と負債など、財産の整理状況によって戻ってくる割合が変わってくる。仮に、超えた分が2,000万円で債務カット率が20%に決定したなら、400万円が戻ってこないということになる。
通常の経済状態で日本の金融機関が破綻した際、資産がまったく残っていない状況は考えにくい。万が一、金融機関が破綻・倒産しても、「元本1,000万円まで+利息」を超えた分もある程度は戻ってくると考えてよいだろう。
銀行破綻時の「ペイオフ」という言葉にはいくつかの意味がある
金融機関が破綻した際の預金の保護を説明するとき、「ペイオフ」という言葉がよく使われている。ペイオフはいくつかの意味で使われていることも知っておきたい。
1. 金融機関が破綻した場合に、預金者へ保険金(元本1,000万円+利息)を支払うこと
2. 元本1,000万円+利息を超える部分が一部カットされること
(それにより預金者に損失負担の可能性があること)
参照:金融庁「預金保険制度の仕組み」、日本銀行「ペイオフとは何ですか?」
さらにいうと、預金を保護する方法には「保険金支払方式」と「資金援助方式」があるが(詳しくは後述)、前者を「ペイオフ方式」とも呼ぶ。このようにペイオフという言葉は意外に複雑なため、本稿では「預金保険制度」などのキーワードを優先して使用していることをお断りしたい。
銀行破綻時の預金の保護は、法律で決まっている
金融機関が破綻しても「元本1,000万円まで+利息」の範囲は確実に保護される。なぜなら、預金保険制度によって担保されているからだ。この制度は預金保険法によって規定されているもので、私たちが預金すると自動的に保険関係が成立する。
つまり、私たちは知らないうちに預金保険に加入し、制度を利用していることになる。といっても、保険料を私たちが直接負担しているわけではない。預金保険制度を支える預金保険料は、各金融機関が前年度の預金量に応じて納付している。
そして、この預金保険制度を担っている機関が預金保険機構だ。同機構は、政府・日本銀行・民間金融機関の3者が同じ割合で出資しているもので、預金保険料の管理や金融機関が破綻したときの預金保険の処理などを行っている。
銀行が破綻・倒産したら……どの金融機関や預金が保護される?
ただ、私たちの預金が守られているといっても、預金保険制度で保護されるケースとそうでないケースがある。ご自身の預金が「預金保険制度の範囲内か」をしっかりチェックしよう。
チェックポイント:預け先は預金保険制度の対象となっているか?
1つ目のチェックポイントは、「金融機関の種類」だ。破綻した金融機関の種類によって、預金保険制度の対象となるもの、そうでないものに分けられる。それをまとめたのが以下の表だ。
▽預金保険制度の対象となる金融機関、対象外の金融機関
預金保険制度の対象となる金融機関 | 都市銀行 信託銀行 地方銀行 ネットバンク 整理回収機構 ゆうちょ銀行 信用金庫 信用組合 労働金庫 信金中央金庫 全国信用協同組合連合会 労働金庫連合会 商工組合中央金庫 など |
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預金保険制度の対象とならない金融機関 | 政府系金融機関 日本の銀行(海外支店) 外国銀行の在日支店 農林中央金庫 農協 漁協 など |
端的にいえば、日本国内に本店のある主要銀行は預金保険制度の対象となる。ただし、同じ日本の銀行でも、海外支店に預金をしている場合は、預金保険制度の対象とならない。海外に資金を置いている人は注意しよう。
最近、利用者の増えているネットバンクもこの制度の対象だ。一例では、PayPay銀行、セブン銀行、ローソン銀行、楽天銀行などはすべて預金保険制度の対象である。また、農林中央銀行・農協・漁協などは預金保険制度の対象外ではあるが、別の仕組みで同様に保護されている。
チェックポイント:預金保険制度の対象となる預金の種類か?
2つ目のチェックポイントは、「預金の種類」だ。先ほどご紹介した、預金保険制度の対象となる金融機関にお金を預けていても、預金の種類によっては制度から除外されるケースもある。どの種類の預金が預金保険制度の対象となるかを以下の表でしっかり確認しよう。
▽預金保険制度の対象となる預金、対象外の預金
【全額保護】 預金保険制度の対象となる預金 | (決済用預金) 無利息型の普通預金 当座預金 など |
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【元本1,000万円+利息】 預金保険制度の対象となる預金の種類 | (決済用預金以外) 利息がある普通預金 定期預金 定期積金 通知預金 貯蓄預金 納税準備金 など |
預金保険制度の対象外の預金の種類 | 外貨預金→次項で詳しく解説 他人名義の預金 導入預金 無記名預金 架空名義の預金 など |
上記にように、預金保険制度の対象となる預金は、「全額保護」「元本1,000万円+利息の範囲で保護」に大別される。全額保護の対象になるのは、次の3つの要件を満たす決済用預金だ。
- 無利息であること
- 要求払いであることを
- 決済サービスを提供できること
そして、他人名義の預金や架空名義預金などは預金保険制度の対象外、つまり保護されない。
外貨預金は保護の対象外だが、全額が失われるわけではない
最近では、為替差益の期待、あるいは円資産への集中を避けるために、外貨預金をしている人も多いだろう。しかし、外貨預金は、円建ての普通預金や定期預金のように、「元本1,000万円+利息」の保護がない。
もっとも、金融機関が破綻したときに外貨預金の全額が失われるわけではない。金融機関の資産と負債を整理し、財産を評価した状況に応じて一部債務がカットされた上で金額が払い戻されることになる。
またこの場合、金融機関の破綻から払い戻しがされるまでに、相当な期間を要すると考えたほうがよいだろう。
預金を保護する仕組みには、2つの方式がある
気になるのは、実際に金融機関が破綻した際、どのような手続きを経て、保護されたお金が預金者のもとに戻ってくるのかということである。手続きが煩雑になってしまえば戻ってくるまでの期間がかかってしまう。
預金が保護される具体的な仕組みとしては、「保険金支払方式(ペイオフ方式)」と「資金援助方式」がある。結論からいえば、どちらの方式が選択されても預金保険機構が預金を保護してくれるのだが、この2つの方式は資金の流れが異なる。預金保険制度の仕組みをしっかり理解したい人は下記の内容も覚えておくとよいだろう。
▽保険金支払方式と資金援助方式
保険金支払方式 (ペイオフ方式) | 預金保険機構が預金者に対して、直接保険金を支払う。 |
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資金援助方式 | 破綻金融機関の営業の一部を、救済金融機関(別の健全な金融機関)が受け継ぐのが前提となる。 預金保険機構が救済金融機関に資金援助することで預金者に保険金が支払われる。 |
要は、「元本1,000万円まで+利息」を預金者に対して、預金保険機構がダイレクトに支払うか、救済金融機関を経由して支払うかの違いである。最終的にどちらの方式になっても、預金の一定額が保護される。
ただ実際のところ、破綻した金融機関の営業が救済金融機関に継承される方が、そうでない場合よりも混乱が少ない。そのため金融審議会の答申では、「資金援助方式を優先させる」という方針が示されている。
銀行が破綻・倒産したら……これだけは覚えて起きたい注意点
ここまでの内容で預金保険制度の概要についてはご理解いただけただろう。次に、預金保険制度の注意点を確認していこう。
注意点(1)複数口座に分けていても「名寄せ」されるため注意が必要
ここまで紹介したとおり、金融機関が破綻した際に保護される金額は「元本1,000万円まで+利息」が原則だ。しかし注意したいこととして、この金額はあくまでも預金者1人あたりの上限である。1人の預金者が同じ金融機関に複数の口座を持っている場合、預金額を合算する作業である「名寄せ」が行われる。
▽名寄せが必要な場合の例
- 同じ銀行に普通預金と定期預金を持っている
- 同じ銀行のA支店、B支店、C支店それぞれに口座がある
- 既存口座の存在に気づかずに新規口座を開設した など
複数の口座の預金額を合算した結果、元本1,000万円を超える預金があるなら、この部分は債務カットの可能性がある。つまり、破綻した金融機関の財産を整理し、その状況に応じた金額が払い戻されることになる。
注意:
金融機関の経営統合によって、知らず知らずのうちに1つの金融機関の口座を複数持ってしまうこともある。このようなケースでは合併後1年以内はそれぞれの口座が保護されるが(例:元本1,000万円×2〈+破綻日までの利息〉)、この期間を過ぎると名寄せが行われ、1口座分しか保護されなくなってしまう。
注意点(2)相殺を選択する場合は、自身での手続きが必要
破綻した銀行に「預金」と「借入れ」の両方が場合は、両者を相殺することも可能だ。つまり、預金保護の範囲(元本1,000万円までと利息)を超える預金がある人は、次の2つの選択肢があることになる。
- 金融機関の財産整理を待つ
- 相殺する
賢い選択は、上記のうち、「相殺する」だろう。なぜなら、もう一方の「金融機関の財産整理を待つ」を選択してしまうと、預金保護の範囲を超える部分が債務カットされるリスクがあるからだ。
しかし、預金と借入れの相殺を行うには、預金者自身が手続きをとる必要がある。このことに気づかず、受動的に財産整理を待っていると、預金保護の範囲を超える部分が債務カットされる可能性があるため注意しよう。
注意点(3)補償を全額受け取るまでには時間がかかる
前述のように、預金保険で保護される「元本の1,000万円と利息」を超える部分は、破綻した金融機関の財産整理後に預金者に戻される(その際、債務が一部カットされる可能性もある)。
しかし、この手続きは裁判所や債権者が関与するため、かなりの期間を要する。これにより、預金者が不都合にならないよう、預金保険機構は「超過分に一定の率を掛けた金額」を立て替える「概算払」を用意する。
▽「概算払」の計算式
概算払額=「元本1,000万円+利息」を超える部分×概算払率
ちなみに、概算払率は予め決まっているものではなく、ケースバイケースで設定される。参考までに、2010年に日本振興銀行が破綻したときの概算払率は25%だった。ただ、この率はあくまでも一例だ。破綻した銀行の資産と負債を評価し、「資産合計÷負債合計」で概算払率が算出される。
参照:預金保険機構「日本振興銀行の預金等債権の買取り(概算払)について」
そして、破綻した金融機関の財産整理後、債権の回収額が概算払を上回るなら、その差額が預金者に追加で支払われる。これを「精算払」という。
▽「精算払」の計算式
精算払額=預金保険機構の回収額 - 概算払額 - 債権の買取りに要した費用
銀行の破綻・倒産から補償までの流れをシミュレーション
ここまで話してきた内容をもとに、実際に金融機関の破綻が起きた場合にどのような流れで補償されるかをシミュレーションしてみよう。
同一の金融機関に普通預金と定期預金、併せて元本5,000万円を預金していて、さらにその金融機関から2,000万円を借りているケースを想定する。
▽設定条件
- 普通預金:元本700万円+利息
- 定期預金:元本4300万円+利息
- 借入金残債:2,000万円
金融機関の破綻後、まず名寄せ作業によって普通預金と定期預金が合算される。預金の合計額「5,000万円+利息」のうち、「1,000万円+利息」は預金保険制度の対象となり、破綻から約1週間後に窓口やATMなどで自由に引き出せる状態になった。
そして、制度対象外の「4,000万円+利息」のうち、2,000万円については、破綻した銀行の借入金(2,000万円)と相殺されて全額が保護された。
この時点で、制度の対象外となるは「2,000万円+利息」である。銀行破綻から約3ヵ月後、預金保険機構から「概算払(預金等債権の買い取り)について」の通知が自宅に届いた。それによると、概算払率が30%に確定したとのことだった。必要な手続き※を経て、指定口座に約600万円(2,000万円+利息×30%)が指定口座に振り込まれた。
※預金者の手続きとしては、「預金等債権買取通知書」の記入・送付などが想定される。
銀行破綻から約1年後、財産整理により債務カット率が20%と発表された。つまり、制度対象外の「2,000万円+利息」のうち、80%(1,600万円+利息)が支払われるということである。概算払との差額、約1,000万円が指定口座に振り込まれた。
銀行の破綻・倒産に備えてできること
ここまで話してきた内容をもとに、私たち預金者が金融機関の破綻に備えてできることをいくつか提案したい。
備え(1)資産は複数の金融機関に預ける
すでにお伝えしてきたように、預金保険制度で保護されるのは「元本1,000万円まで+破綻日までの利息」だ。そのため、預金額が元本1,000万円を超えるなら、複数の金融機関に振り分けるのが一番簡単で効果的なリスク回避策になる。
たとえば、元本5,000万円を5つの金融機関に1,000万円ずつ振り分けておけば、どの銀行が破綻しても預金保険制度で保護される。これに対して、元本5,000万円を1つの金融機関に預けてしまえば、破綻時に「元本1,000万円+利息」を上回る「4,000万円+利息」の部分が債務カットのリスクにさらされることになる。
備え(2)普通預金と定期預金の預け入れ先を分ける
同じ金融機関に普通預金と定期預金の口座を持っている方が、お金の管理をしやすいという人もいるだろう。しかし、 普通預金と定期預金の預金額の合計が1,000万円を超えるなら、別々の銀行に分けた方がよい。
A銀行の普通預金に500万円、B銀行の定期預金に1,000万円と分けておけば、どちらが破綻しても預金保険制度で全額が保護されることになる。
備え(3)借入金の多い金融機関を優先して預金をする
相殺の部分で述べたように、「元本1,000万円まで+利息」を超えた部分は、借入金の範囲内で相殺ができる。そして、この相殺される部分は債務カットされるリスクがない。
ということは、借入金の多い銀行に優先して預金をしておいた方がリスク回避になるということだ。一例では、A銀行に3,000万円の借入金があり、預金を4,000万円していたとしよう。銀行が破綻した場合、預金のうち「元本1,000万円まで+利息」は預金保険制度で保護される。残りの3,000万円の預金は借入金と相殺されるため、全額が保護されることになる。
備え(4)金融機関の情報にアンテナを張る
金融機関はある日突然、破綻するわけではない。シリコンバレーバンクやシグネチャー・バンクはSNSなどで信用不安が噂されていたし、クレディ・スイスも長期に渡って株価を低迷させていた。
もちろん、噂にはデマも含まれるため、信頼できる情報とそうでない情報をしっかり区別しながら情報収集をしていく必要があるだろう。そのため、情報源とする信頼できるメディアやアナリストなどを決めておくのが賢明だ。
銀行が破綻・倒産したら……こんな場合は保護される? されない?
ここで解説してきた中でとくに重要な部分について、Q&A形式で振り返ってみよう。
Q.破綻した金融機関に1,000万円を超える預金があったら保護される?
A.「元本1,000万円まで+利息」の範囲は、預金保険制度によって保護される。一方、1,000万円を超える部分は保護されない。破綻した金融機関の財産を整理し、それに応じた割合が戻ってくるが、その過程で債務カットされる(=預金者が損失を負担する)可能性もある。
Q.破綻した金融機関に「普通預金」と「定期預金」があったら両方保護される?
A.名寄せが行われ、普通預金と定期預金の残高が合算される。その結果、「元本1,000万円まで+利息」の範囲は預金保険制度で保護されるが、これを超える部分は、破綻銀行の財産整理の状況によって戻ってくる割合が変わってくる。
Q.破綻した銀行に、外貨預金があったら保護される?
A.外貨預金は、預金保険制度の対象にならないので保護されない。だからといって、外貨預金の全額が0円になるわけではない。あくまでも預金保険制度の対象にならないだけで、破綻銀行の財産整理の状況によって戻ってくる割合が変わってくる。
難しい局面だからこそ、資産運用のブレーンがいることが大事
資産形成をしていくうえで、今は次の一手が難しい局面を迎えている。日本の銀行が直ちに破綻する、とは考えにくいが、SVBの破綻がマーケットに与えた影響は大きい。
こういった難しい局面で大事なのは、1人で判断せず、資産運用の専門家の意見を聞くことだ。信頼できるブレーンがいるか否かが、将来の資産形成を左右する。1人の専門家に頼るのではなく、複数の専門家から幅広く意見を聞き、最終的に合理的な判断をしていきたい。
とはいえ、信頼できるブレーンはすぐに見つかるものではない。まずは、数多くの資産運用の専門家と面談し、自身との相性や信頼性を見極めながら絞り込んでいこう。
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