近年「ESG経営」という言葉が注目を集めています。この記事では、ESG経営とはどのようなものかをわかりやすく解説するとともに、企業がESG経営に取り組むべき理由を紹介します。時代の変化に取り残されることのないよう、ESGについて正しい知識を身につけてください。

目次

  1. ESG経営とはどんな経営方法?
  2. ESG経営のメリットは
  3. ESG経営の注意点
  4. ESG経営の具体的な取り組みとは
  5. 国内企業のESG取り組み事例
  6. ESGを意識した経営戦略にはITが必要不可欠

ESG経営とはどんな経営方法?

ESG経営とは?導入のメリットや具体的な取り組みを紹介
(画像=Blue Planet Studio/stock.adobe.com)

「ESG経営って何?」とピンとこない人も多いかもしれません。まずは、ESG経営とはどのようなものか、またよく似た言葉であるSDGsとの違い、今注目を集めている理由を紹介します。

ESG経営の3要素

ESG経営とは、企業が長期的に成長するために、英語の「Environment」・「Social」・「Governance」の3つの要素を重視すべきである、という考え方です。この3つの単語の頭文字をとって、「ESG」と呼ばれています。この3つの要素は、具体的にどのような取り組みを表しているのか、詳しく解説しましょう。

・Environment(環境)

「Environment」は自然環境への配慮を表します。具体的には、森林破壊や気候変動、環境汚染などの防止、また省エネや二酸化炭素排出量の削減努力などへの取り組みです。

・Society(社会)

「Society」は現代社会へ及ぼす影響を意味します。人権問題や労働環境、地域社会への貢献などが挙げられます。これらの活動が見られる企業は、ESGの観点では非常に評価が高くなるでしょう。

・Governance(企業統治)

「Governance」は、経営におけるさまざまな管理体制のことです。資本効率化に取り組んでいる企業や経営の透明度が高い企業は、高評価を得られるでしょう。

ESG経営とSDGsとの違い

ESG経営と混同されやすいのがSDGsです。SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字から取った言葉です。

2001年に国際社会共通の目標として策定された「MDGs(ミレニアム開発目標)が2015年に終了、その後継として策定されたのがSDGsです。SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されており、その中にはESGの要件も含まれます。

ESGとSDGsの大きな違いは「主体性」と「関係性」です。SDGsは世界全体の共通目標として、国家や国連から、企業、個人に至るまで主体が広範囲に及ぶのに対し、ESGで主体となるのは企業や投資家になります。

つまり、ESGは、SDGsという目標に対する「手段」です。SDGsの目標達成には、ESG経営の発展は必要不可欠でしょう。

ESGが注目されている理由は

ESGが注目されるきっかけとなったのが、2006年に提唱された「PRI(責任投資原則)」。この中で、当時のアナン国連事務総長が、投資家がとるべき行動としてESGを推進したのです。

アナン事務総長の発言以来、ESGが徐々に普及。売上高や利益ではなく、「環境」「社会」「企業統治」の観点を重要視して投資対象を選ぶ「ESG投資」という言葉も生まれました。

また、ESGの注目度が上がった社会的背景として以下の3つが考えられます。

  • 地域社会、自然環境などの外部要因が企業の成長に影響を及ぼし始めた
  • 自然破壊・経済格差といった資本主義のマイナス面が問題になり始めた
  • 無理な事業展開による労働問題の不祥事や環境汚染が取り上げられるようになった

企業が利益を最優先にしてきた結果、世界はさまざまな社会問題や環境問題に直面することになりました。この問題を解決するために、ESGという考え方が提唱されるようになった、といえるでしょう。

ESG経営のメリットは

ESG経営の導入は、さまざまなメリットを生み出します。具体的に紹介しましょう。

企業のイメージ向上

ESG経営は、社環境問題や労働問題など、社会全体の問題に対して積極的に取り組む、という決意表明にもなります。これは企業のブランド力や信頼性のアップにつながり、顧客に対してポジティブなイメージを与えることができるでしょう。

信頼性が高い企業の製品やサービスは、消費者からの支持を得やすくなります。そのため、最終的には企業の業績向上にもつながるでしょう。

労働環境の改善

ESGの3要素のひとつである「Governance(企業統治)」には、多様性の促進や労働安全衛生の向上、人材育成等が含まれています。役員だけでなく従業員一人ひとりに「よりよい労働環境にしよう」という意識が芽生えれば、働きやすい環境の構築につながるでしょう。

労働環境が整えば、従業員が辞めることも少なくなるので、採用コストが下がります。また、外部からは「安定的な会社運営をしている」と認識されるので、株主や金融機関、投資家などからの評価が上がる可能性もあります。

会社が社会から評価されれば、従業員は誇りをもって働くことができるので、パフォーマンスの向上も期待できるでしょう。

優秀な人材の確保

前述したとおり、ESG経営では、「従業員にとって働きやすい環境であるか」も評価対象のひとつです。ESG経営に積極的に取り組み、働きやすい職場であると判断されれば、その分優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。

特に日本では、少子高齢化の影響から人材不足が深刻な問題となっています。加えて人材の海外流出も相まって、優秀な人材を確保することは、年々難しくなっているのです。

しかし、働きやすい環境の構築にフォーカスしたESG経営を行えば、優秀な人材が集まってくる可能性も高くなるでしょう。

資金調達がしやすくなる

さまざまな方法で資金を調達できる、ということもESG経営のメリットのひとつです。投資判断のひとつに「ESG経営をしているか」を加えている投資家も増えています。つまり、ESG経営を意識していない企業は、長期的な目で見ると利益を出せない…と判断される可能性も高くなっている、というわけです。

反対に、ESG経営の取り組みが評価されれば、投資家や銀行、株主からの評価が上がり、資金調達がスムーズになるでしょう。さらに会社の取り組みが広く世間に評価されれば、クラウドファンディングなどで資金を集めることも可能になります。

多様性が推進される

ESG経営では、従業員の多様性に考慮することが求められます。女性の社会進出や外国人雇用、障がい者雇用などに積極的に取り組むことで、社会全体の多様性の推進にもつながるでしょう。

世界経済フォーラムが2022年7月に発表した、各国の男女格差を計る「ジェンダー・ギャップ指数」によると、日本の総合スコアは0.650。146か国中116位で、これは先進国の中では最低レベル、アジア諸国では中国、韓国、アセアン諸国よりも低い結果となっています。

ジェンダー平等の取り組みが急務となっている今の日本において、会社が多様性を推進していることが認められれば、社会からの評価も高くなるはずです。

ESG経営の注意点

さまざまなメリットがあるESG経営ですが、導入にあたりいくつか注意したいことがあります。それぞれ詳しく紹介しましょう。

経営者の言動に注意しなければいけない

ESGの考え方が世の中に浸透するにしたがって、経営者のふるまいが世間から注目されるようになります。どれだけESGに積極的に取り組んでいたとしても、会社の顔ともいえる経営者がESGに反する言動をとってしまうと、会社全体の評価が大きく下がってしまう恐れがあるでしょう。

また、従業員がESGに反する問題を起こした場合も同様です。問題がある言動が明るみに出ると、SNSなどを通じて瞬く間に拡散されてしまいます。

ESG経営に取り組む会社は、ほかの会社よりも厳しい目で見られる可能性があります。業務中はもちろんのこと、プライベートでも、経営者をはじめ一人ひとりが企業の方針に沿ったふるまいを意識しなければいけません。

コストがかかる

ESG経営に取り組む際、初期投資が必要となる可能性があります。たとえば、環境に配慮した設備を導入するためのコスト、従業員に対する待遇見直しで賃金をアップするための費用、などです。場合によってはESG経営に特化したコンサルティング会社にサポートを依頼することもあるかもしれません。

また、金銭面だけでなく、事業の改善や開発のために、人材や時間的コストがかかる可能性もあります。これらのコストは、従来の経営なら発生することのなかったものです。

またESG経営は、すぐに効果につながるわけではないので、コスト面だけに注目してしまうと、負担がかかっているだけ…と感じてしまうかもしれません。

すぐに効果が表れるわけではない

ESGの効果はすぐに出るものではない、ということも覚えておかなければいけません。ESGは、長い時間をかけてコツコツと取り組むものです。中には結果が出るまで数年かかることもあるでしょう。

ESG経営は、長期的な成長や持続可能な企業になることを目標にする経営方法です。短期間で効果を出したいと思ってしまうと、どうしても「わりに合わない」と感じてしまいます。年単位の時間がかかる、ということを考慮したうえで、長期的な視点で採算を考えることが大切です。

方向性を見極めるのが難しい

ESGはまだまだ歴史が浅いので、統一された「評価基準」というものがありません。ESGの調査会社は、世界中に600社ほどある、といわれています。それぞれの会社が指標を算出しているので、世界中に多くの基準が乱立している状態です。そのため、企業はどこへ向かうべきかの具体的目標が定めにくい、というデメリットがあります。

ESG経営に取り組む場合は、世の中の動向を敏感に読み取って、評価されやすい取り組みに照準を絞ることが重要です。そのためには、国内のみならず、海外にも目を向けた情報収集を行うことがポイントでしょう。

ESG経営の具体的な取り組みとは

ESG経営とは?導入のメリットや具体的な取り組みを紹介
(画像=Kannapat/stock.adobe.com)

会社がESG経営を実現するためには、具体的にどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。ここで詳しく解説しましょう。

情報の開示

ESG投資で重要視されるのが、透明性の高い情報開示および適切な組織体制の構築です。特に情報開示は、ESGにおける高い評価を得るために必要不可欠です。

まずは社内の統制をしっかりと保って、社内外から高い信頼を得る企業経営を目指しましょう。また、ダイバーシティに配慮して女性社員の登用や育成を積極的に行うこと、社内規則の制定・見直しを行うこと、監査部門を設置すること、リスクマネジメントを強化することなども大切です。

BCPへの取り組み

「BCP」(Business Continuity Plan)の策定もESG経営には欠かせません。BCPとは事業継続計画のことで、災害や感染症拡大、システム障害といったトラブルに遭遇した際、被害を最小限にして優先事業の継続、早期復旧するための計画のことです。

具体的には紛失や破損を防ぐために社内文書を電子化しておく、ビジネスチャットなどを導入して社内連絡の体制を構築しておく、などが挙げられます。

ウェルビーイング向上

「従業員が精神・肉体・社会の全てにおいて、満たされた状態であること」を指すウェルビーイング向上も重要です。
具体的には長時間勤務の是正、多種多様な働き方への柔軟な対応、福利厚生の充実などが挙げられます。

ESG経営を実現するには、従業員が快適かつやりがいをもって働ける職場環境が必要です。ウェルビーイングが向上することによって、従業員や投資家の共感・賛同が得やすくなるでしょう。

環境保全に貢献

ESG経営の代表的な取り組みのひとつが、地球の環境保全に配慮することです。たとえば、太陽光発電を導入するなど再生可能エネルギーを活用する、社内の書類をすべてペーパーレス化する、などが環境保全の取り組みに該当します。

中小企業など、コスト面で再生エネルギー活用などが難しい場合は、「無駄を省くこと」を意識すると良いでしょう。

仕入れや輸送、製造工程など、あらゆる局面の無駄を見直すことで、環境配慮のために会社が改善すべきポイントが見えてくるはずです。

国内企業のESG取り組み事例

日本国内においても、多くの企業がすでにESG経営を実践し、高い評価を得ています。そこでここからは、ESG経営に取り組んでいる企業の事例を詳しく紹介していきます。

SOMPOホールディングス

東洋経済新報社が毎年発表している「ESGに優れた企業ランキング」で上位に名を連ねているのが「SOMPOホールディングス」です。SOMPOホールディングスは2006年に日本の保険会社としてはじめてPRIに署名しました。このほか、国連のPSI(持続可能な保険原則)の起草に参画、2017年モントリオール・カーボン・ブリッジに参画など、さまざまなイニシアチブ活動に積極的に参加しています。

さらに、SOMPOホールディングスは、二酸化炭素の削減を、環境への取り組みの主軸として行い、年々排出量の削減に成功しています。また二酸化炭素排出量の算出は、認証機関での第三者検証を受けることによって、透明性を保証しているのです。

このほか、NPOや地域の環境団体と協同して、市民参加型の生物多様性保全活動「SAVE JAPANプロジェクト」を実施、2013年にダイバーシティ推進本部を設置、障がい者や女性の活躍促進に取り組むなど、さまざまな活動を実施しています。

オムロン

オムロンは世界各国のESG評価機関から高い評価を得ている企業です。2018年にはパリ協定を受けて「オムロン カーボンゼロ」を制定。SBT(科学的整合性のある二酸化炭素削減目標)イニシアチブに参画しています。また、2019年にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同することを表明し、その枠組みを活用した取り組みを行っています。

エネルギーソリューション事業では、1994年に「パワコン」と呼ばれる、太陽光発電用電力変換器を発売。早くから環境問題に取り組んでいる先進企業のひとつです。

また、日本でスタートした家庭血圧測定をグローバルに展開。それぞれの国の風習や文化を尊重しつつ、家庭で血圧を測る重要性を普及しています。ロシアや中東諸国では医療従事者を対象に「オムロンアカデミー」を開催。高血圧患者の疾病情報などを伝え、「脳・心血管疾患の発症ゼロ」に向けた取り組みを行っています。

IHI

ESG経営に積極的に取り組んでいる企業のひとつが、IHIです。IHIでは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、車両過給機事業において以下のような取り組みを行っています。

  • 工場、事務棟、外灯、倉庫などの照明のLED化および効率化
  • 構内車両の電動化の促進
  • 電力見える化・空調および照明の自動制御などエネルギーマネージメントシステムを導入
  • 太陽光パネル屋根貸しプランの検討
  • 生産設備の省エネ・高効率アイテムの導入を推進
  • 利用環境が有利な地域拠点における再生可能エネルギー・グリーンガスの利用促進

これらの中長期の取り組みを進めることで、2030年度には二酸化炭素排出量50%削減を目指しています。

また、人権を尊重する活動として「IHIグループ人権方針」を策定。強制労働や差別・ハラスメントなどを禁止し、働く人たちの基本的な権利の尊重と健康で安全な職場の確保を宣言しています。

花王

花王は、ドイツ評価会社のESG評価において、上位1%に入るほど、ESG経営で高い評価を得ています。2021年には、大手シンクタンクである「エシスフィア・インスティテュート」が選考する「World's Most Ethical Companies(世界で最も倫理的な企業)」に、15年連続で選出されました。

たとえば、1990年代から、環境に配慮した包装容器を開発したり、触れただけでシャンプーとリンスが区別できるように容器に「きざみ」を入れたりするなど、すべての人が使いやすいユニバーサルデザインの製品開発に取り組んでいます。

また、ライオン株式会社と協同してフィルム容器のリサイクルに取り組んだり、インドネシアの小規模パーム農園における生産性の向上および持続可能なパーム油認証支援プログラムに取り組んだりと、グローバルな環境・社会問題を解決する活動も実施。

2021年度には「OKR制度」というESGが組み込まれた評価制度を導入し、役員を含む全社員でESG目標を設定し、取り組み内容が評価される仕組みを構築しました。

2022年には、ESG の取り組みを迅速かつ確実に行うべく、「ESGステアリングコミッティ」を設置。脱炭素、人権・DEI、プラスチック包装容器、化学物質に関する課題に重点的に取り組んでいます。

ESGを意識した経営戦略にはITが必要不可欠

企業の価値を高めるためには、ESGを意識した経営戦略を構築することが必要です。ESG経営に取り組むことで、企業が長期的に見て大きく成長できるだけでなく、社会問題解決にも貢献できるでしょう。とはいえ、導入には金銭面だけでなく、人材や時間のコストもかかってしまいます。データ収集や情報分析などはITを活用して、効率よくESG経営を行うようにしましょう。

(提供:Koto Online