責任投資原則(PRI)とは?概要や背景、原則と企業事例
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近年さまざま投資機関が相次いで署名している「責任投資原則(PRI)」を知っていますか? 責任投資原則について知ることは、昨今広がりを見せるESG投資の理解や、環境・人権保護にまつわる諸問題の把握の足掛かりとなります。

目次

  1. 責任投資原則(PRI)とは
  2. 責任投資原則(PRI)の「6つの原則」
  3. 責任投資原則(PRI)への署名が進む背景
  4. 責任投資原則(PRI)に署名済みの日本企業【具体例】
  5. 責任投資原則(PRI)に署名済みの企業以外の団体【具体例】
  6. 責任投資原則(PRI)への署名は今後も進むと予想される

責任投資原則(PRI)とは

責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)とは、投資家が負うべき責任について定義された世界的な提言(原則)、およびその参加団体(イニシアティブ)のことです。基本的には原則自体を指しますが、文脈により団体としての側面を意味することがあります。

責任投資原則の特徴は、大きく以下の3点です。

  • 2005年のコフィー・アナン氏の呼びかけが始まり
  • 投資に「ESG」を組み込むべきだとする原則
  • 参加団体はPRIから年次評価が行われる

2005年のコフィー・アナン氏の呼びかけが始まり

責任投資原則は、「投資家は未来のために企業のESGの側面にも目を向けよう」とする提言です。

責任投資原則の歴史は古く、2005年に当時の国連連合事務総長コフィー・アナン氏が世界の大手投資家に対して協調を呼びかけたことから始まりました。続く2006年5月、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)や国際グローバルコンパクト(UNGC)をはじめとする有力団体・専門家の協議により後述する6つの宣言が誕生し、これらが現在まで責任投資原則と呼ばれています。

投資に「ESG」を組み込むべきだとする原則

責任投資原則の根底には、「機関投資家は受益者(投資機関に資金を預ける人)の長期的利益を守らなければならない」とする考えがあります。そのためには、持続可能性のある国際金融システムを作り出し、社会全体が豊かになるように利益を追求していくことが不可欠です。

持続可能性のある社会を作るための取り組みとして挙げられたのが、投資時に企業の財務面のみならず環境保護や人権問題への活動も評価すること、すなわち以下のESGの考慮です。

Environment(環境):温室効果ガスの削減、再利用エネルギーの使用、食品ロスの削減など
Social(社会):格差の解消、ダイバーシティへの配慮、労働環境の改善など
Governance(ガバナンス):会計情報の透明化、中長期の経営指針の明示、外部監査の受け入れなど

責任投資原則の考え方はSDGsにもつながっており、現在に至るまで世界的な広がりを見せています。

参加団体はPRIから年次評価が行われる

団体としての責任投資原則(PRI)は、単に6つの原則を公表するだけでなく、多くの投資機関が内容に賛同し正しく順守することも求めています。そのため、参加・賛同する機関には取り組みを所定の形式で年次報告する義務があり、報告は項目ごとに五段階(1つ星~5つ星)で格付けされます。
(注:星による評価は2021年以降。従来はEからA+での格付け。)

万が一、報告を提出しないなど取り組みが不十分であると、責任投資原則への参加は取り消されます。さらに、公式サイトにて「旧署名団体」として除名理由と団体名も公開されるため注意が必要です。

責任投資原則(PRI)の「6つの原則」

責任投資原則の根幹を担う6つの原則は、以下の通りです。

  1. 私たちは、投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込みます
  2. 私たちは、活動的な所有者となり所有方針と所有習慣にESGの課題を組み入れます
  3. 私たちは、投資対象の主体に対して ESG の課題について適切な開示を求めます
  4. 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ実行に移されるように働きかけを行います
  5. 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために協働します
  6. 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します
    (出典:PRI「責任投資原則 2021」より引用

さらに、上記の6つの原則に対して合計35個のアクション(投資機関として具体的に求められる行動)も定義しています。例えば、原則1.に対して定められたアクションは以下の通りです。

  • 投資方針ステートメントでESG課題を取り入れる
  • ESG関連ツール、測定基準、分析の開発を支援する
  • 内部の投資マネージャーのESG課題組み込み能力を評価する
  • 外部の投資マネージャーのESG課題組み込み能力を評価する
  • 投資サービス・プロバイダー(金融アナリスト、コンサルタント、ブローカー、調査会社、格付け会社等)に対し、進化する調査・分析にESG要因を組み込むように依頼する
  • このテーマに関する学術研究等を促す
  • 投資専門家を対象としたESG研修を提唱する
    (出典:PRI「責任投資原則 2021」より引用)

全体として、投資先企業のESGへの取り組みを評価するだけでなく、研究を促したり分析を支援したりするなど、ビジネスパートナーとして協業できるよう意識されています。

責任投資原則(PRI)への署名が進む背景

2022年3月時点で責任投資原則への署名機関は60ヵ国以上、4,900団体を超えており、参加団体の総資産額は約121兆米ドルに達するとされています。なぜこれほどまでに署名が進んでいるのでしょうか?

その背景には、大きく以下の3つの要因が挙げられます。

  • 2015年の「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の署名
  • 2030年達成期限の「SDGs」への関心
  • 「インパクトインテグレーション」の登場

2015年の「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の署名

一つの契機となったのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の署名です。世界最大級の投資機関として知られるGPIFは、2015年9月16日に責任投資原則に賛同して署名機関となりました。

GPIFは、2012年度の運用開始以降現在までに約98兆円もの累計収益を出しており、2022年度第三四半期末時点で運用資産額は約190兆円に及びます。このようなトップオブトップの投資機関の署名は、業界内に大きな衝撃をもたらしました。

2030年達成期限の「SDGs」への関心

責任投資原則と同じく国連が関与する「SDGs」への関心の高まりも要因の一つです。17の開発目標を定めて環境保護や人権の尊重を目指すSDGsは、2030年が達成期限と定められています。

期限が近づきSDGsが注目されるにつれ、近年は「ESG投資(企業の財務面のみならず、ESGの側面を考慮する投資方法)」の重要性が浸透してきました。責任投資原則は、このESG投資の発祥ともいうべき存在です。責任投資原則への参加は、ESG投資を行っていることを対外的にアピールすることに役立ちます。

「インパクトインテグレーション」の登場

最近では、ESG投資のさらに先の概念として「インパクトインテグレーション」が登場しています。PRIの理事である木村武氏によれば、インパクトインテグレーションとは「投資によって投資先企業の行動がどのように変化し、社会に対してどのようなポジティブ・ネガティブな影響が生まれるかまで考慮する投資方法」です。
(出典:日経ビジネス電子版「国連PRI理事に聞く、2022年のESG投資」を参考)

単に「ESGに貢献できていない企業だから投資しない」というのではなく、投資先がポジティブな行動を取るように働きかけたり、社会にポジティブな影響を見込める投資を優先したりすることで、投資機関はより積極的に社会へ好影響を生み出せます。

このようなESGを巡る投資の考え方は、現在でも進化を続けています。その重要性も高まっており、今後もますます責任投資原則に注目する団体は増えていくでしょう。

責任投資原則(PRI)に署名済みの日本企業【具体例】

責任投資原則に署名している日本企業の具体例を見ていきましょう。

三井物産オルタナティブインベストメンツ

三井物産オルタナティブインベストメンツは、オルタナティブ投資(鉱物や不動産、農産物といった債券や上場株式以外への投資)に強みを持つ投資機関です。2001年に設立後、多様なオルタナティブ商品の発掘や開発を行い、投資機関として活躍してきました。

三井物産オルタナティブインベストメンツでは、2021年8月にESG投資ポリシーの策定に取り組み、2022年4月に責任投資原則へ署名しています。署名を公表するプレスリリースにおいては、PRI の 6 原則を表記したうえで、今後は従来以上に受託者責任を果たすと強調しています。

三菱UFJ信託銀行

三菱UFJ信託銀行は、ESG投資のパイオニアを自認しています。2006年5月の責任投資原則の発足と同時に署名し、発足式ではアジアの投資機関を代表する形でスピーチを担いました。スピーチの中では、今後もアジアのフロントランナーとして活躍していくと宣言し、言葉通りに現在も躍進を続けています。

三菱UFJ信託銀行は公式サイト上で責任投資原則による格付け(2020年結果)を公表しており、E~A+の6段階評価のうちA、主要項目はオールA+と素晴らしい成績を残しています。また120ページ以上にもわたる「責任投資報告書」を公開し、自社のESGへの取り組みを誰でも閲覧できるようにしています。

富国生命投資顧問

「お客さまのニーズに応えられる運用会社」を経営指針に多くの保険商品を手がける富国生命投資顧問は2016年3月に責任投資原則の署名機関となりました。2020年6月には「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」にも賛同するなど、環境へも配慮した投資活動を進めている企業です。

富国生命投資顧問は、公式サイト上で「PRIの6原則」とともに、各原則に対応した自社の取り組みもあわせて記載しています。環境や人権の話題でたびたび問題となる「具体的に何をしているのか?」を外部に公表できている好例です。

SOMPOアセットマネジメント

SOMPOアセットマネジメントは2012年1月に責任投資原則へ署名した企業です。公式サイト上では2019年の年次報告の結果が掲載されており、ほとんどがA+と好成績をおさめています。

SOMPOアセットマネジメントの事例の特徴は、公式サイトにてESG投資について説明する動画を用意していることです。ESG投資とはそもそも何か、なぜ取り組むべきなのか、責任投資原則ではどのような内容が定められているのかといった内容が誰でも理解できるように工夫されています。

かんぽ生命保険

かんぽ生命保険は、日本郵政グループの中で生命保険業を担う企業です。2017年10月に責任投資原則へ賛同・署名しており、プレスリリース内では富国生命投資顧問と同様、PRIの6つの原則とそれに応じた自社の取り組みを公表しました。

かんぽ生命保険は国債・準国債・社債など、投資先の区分に応じてどのような要素を考慮してESG投資を行っているのかについても基準を公表しています。あわせて「ネガティブ・スクリーニング」として石炭火力発電や非人道的兵器に関連する投資を行わないと表明するなど、環境負荷や人権侵害を許さない姿勢を強く打ち出しています。

また、基準だけでなく具体的なESG投資の事例も公開しており、透明性を高められるように配慮されています。

責任投資原則(PRI)に署名済みの企業以外の団体【具体例】

責任投資原則に署名しているのは投資団体であり、その形態は企業に限りません。最後に、責任投資原則に署名している企業以外の団体の具体例を見ていきましょう。

上智学院(上智大学)

上智学院(上智大学)は2013年に創立100周年を迎えた歴史ある学校法人です。2015年11月に責任投資原則へ署名し、2020年の年次評価において「国債等の自家運用」を除くすべての項目でA+を獲得しています。総合評価でも3年連続のA+に輝いており、教育機関として自覚と責任を持った形で資産を運用中です。

また、学校ならではの特徴として、6つの原則への取り組みを表明する中で学生に対する指導についても触れられています。例えば、原則5.「私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します」では、ESGを学べる講義の開講を通じて次代を担う学生達を育て上げると明言しています。

東京大学

東京大学も、責任投資原則に賛同・署名した団体です。責任投資原則への署名は2019年に行われましたが、これは国立大学としては初の画期的な出来事でした。

東京大学はかねてよりSDGsの達成に向けて注力してきた学校です。「未来社会協創推進本部登録プロジェクト」として学生や教授によるSDGsに関する研究や活動を登録し、17の目標別に公開しています。2023年1月時点で総プロジェクト数は206にも及び、誰でも閲覧できます。

SDGs登録プロジェクト | 東京大学:
https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/fsi/ja/projects/sdgs/index.php?pageID=1

JA共済連(全国共済農業協同組合連合会)

JA共済連(全国共済農業協同組合連合会)は2022年11月に責任投資原則へ署名しました。JA共済連はもともと「JAグループSDGs取組方針」として環境や人権の問題に対する姿勢を示しており、その内容は公式サイト上で公開されています。

過去のESG投資の事例も公開されており、栄養改善をテーマに乳児・妊婦・障害者の救済を目指すアンデス開発公社の「ニュートリション・ボンド」や、将来に向けた安全な社会システムを用意するための「神戸市SDGs債」などへの投資実績が語られています。

責任投資原則(PRI)への署名は今後も進むと予想される

この記事では、責任投資原則(PRI)の概要と6つの原則、署名が進む背景、署名済みの企業と企業以外の具体例についてご紹介しました。

責任投資原則は「ESGの側面を投資に取り入れよう」とする提言で、6つの原則で構成されています。その内容は近年注目される「ESG投資」の基礎となる考えであり、現代の投資家なら必ず意識したいものです。

責任投資原則への署名は、ESG投資に力を入れていることの対外的なアピールになります。環境や人権保護の重要性が叫ばれる現代において、今後はますます署名を目指す団体が増えていくでしょう。