そもそもESG投資の定義・特徴とは?
まずは、ESG投資の定義や特徴について紹介していきます。「ESG」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(統治・管理もしくはそのままガバナンス)の略。従ってESG投資とは「環境や社会の発展に貢献するための」投資という意味です。
おそらく日本においては「E」のイメージが一番わきやすいのですが、環境に優しい取り組みに投資することをいいます。例えば、太陽光・風力発電の建設や運営、二酸化炭素の排出が実質ゼロのビル建設、省エネの機械の開発などが当てはまります。
一方、「S」は「社会貢献」になる取り組みに投資することを指しており、例えば貧困の解決や途上国の支援を主目的としたファンドへの投資や、ワクチン開発への投資などがイメージしやすいでしょう。鉄道などのインフラや薬品開発なども社会貢献性が高いといえます。
最後に「G」であるガバナンス・企業(国家)統治については先のE・Sよりやや漠然とした概念です。これは企業や国の統治がしっかりと行われている、もしくは改善に努めている団体・企業に積極的に投資し、その逆の投資を避ける、といった形で特に実践されています。極端な例でいうとブラック企業や不正を働いた企業への投資は避ける、といったことなどです。
ESG投資は、ESG要素を満たす特定の事業・プロジェクト、例えば「太陽光発電建設プロジェクトに投資する」といったように投資してもよいですし、「環境に優しいEV開発に積極的なトヨタに投資する」といったように、ESGに積極的な特定の企業に投資することでも実践可能です。
いずれにしてもE・S・Gの3つの要素を総合的に評価したうえで、ESGに貢献する先に重点投資をしようというのが、ESG投資の基本です。
ESG投資が広がった背景
さて、このようなESG投資が広がった背景を簡単に紹介します。
もともとの機関投資家の世界では、1990年代ごろから欧米を中心に近い投資手法は存在していました。資産運用会社が環境配慮型の投資、社会責任投資といった形で個別のファンドを組成するなどしていました。
その後、2006年の国連で「責任投資原則(PRI : Principles for Responsible Investment)」というものが提唱されました。これは世界の金融機関に対して、投資を通じてESG課題(環境問題・社会問題など)の解決・改善を求めるもので、後に世界中の多くの金融機関が署名しました。これ以降、これまで以上にESGに高度に特化した投資手法や投資商品が開発されていくことになります。
また、「E」の側面では、2015年に採択された「パリ協定」も無関係ではありません。これは産業革命以降の世界の平均気温の上昇を2度未満に抑えることを軸に環境保護を推進する協定です。主要国が同協定に批准したことで世界中の企業はこれまで以上にビジネスを行ううえで環境配慮を求められることになったため、必然的にESG(特にE)を意識したプロジェクトや企業・団体が増え、より積極的に投資が行われるようになりました。
最後に、同時期2015年に国連で採択されたSDGsという概念が出たことにより、一層ESG投資が加速しています。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」というものです。193カ国が採択したこの目標ですが、ESGに結びつく17の具体的なテーマが設定されました。これによりESG投資がどのようなものかがより具体化され、ESG投資がさらに加速しました。
もともとは機関投資家の世界で重視されていたESG投資ですが、足元数年では、個人の投資資金もESG投資に向かわせた方がESG課題の解決につながるとの考え方が広がりました。そこで、資産運用会社や証券会社などは、個人投資家向けのESG投資商品の開発・販売を拡大してきています。具体的な投資方法は後段で紹介しますが、これにより、ESG投資は個人投資家でも取り組みやすいものになってきています。
ESG投資の投資手法とは?
さて続いては、ここまで紹介したESG投資の実際の投資手法を紹介します。
やや専門的な内容になりますが、個人投資家の場合は以下の3手法を厳密に実践する必要はありません。個人投資家がより簡単にESG投資を始める方法は後段で紹介しますので安心してください。ここではあくまで「プロの機関投資家がどのようにESG投資を実践しているのか」を紹介します。
事業内容を元に業種で企業を選ぶ手法
まず業種ごとに事業内容のESG性を評価したうえで、評価の高い業界の企業へ積極投資し、低い業界への投資を避ける手法です。
環境(E)の側面でいえば、業種ごとに二酸化炭素の排出量などを元に環境負荷の度合いを評価します。例えば、電子機器は機械化・自動化や電子化を通じて省エネに寄与することから、「環境改善に寄与しやすい」といった具合に、各業種を評価していきます。
その他社会(S)の側面では、インフラや医薬品開発、医療、教育といった分野は貢献度が高い業種といえるでしょう。
ガバナンス(G)の側面では、反社会勢力とつながりやすい業種ではないか、事業内容が構造的に倒産しやすいものではないか、などを評価します。
実際には、金融機関・調査会社それぞれが以上のESGについて独自の指標などを設定して評価し、主要業種について総合的にESG評価の高い業種〜低い業種を並べたうえで、評価の高い業種へ投資していきます。
企業の事業内容・活動や組織構造などを評価してスクリーニングする方法
業種の評価だけでもある程度ESG投資を実勢することは可能ですが、同じ業界の中でもESGに積極的な企業・そうでもない企業に差があります。そこで、より厳密にESG投資を行うには、個別企業の評価も欠かせません。
まずは、個別企業の事業内容の差をESG評価に反映していきます。一例を挙げると、石油業は石油が二酸化炭素を生むため、業種全体としては環境負荷が高い業種とみなされがちです。しかしその中で水素燃料電池や再生可能エネルギーなどの開発を積極的に行う企業があった場合、その企業については相対的に高いESG評価が与えられるべきでしょう。
また、企業によっては本業以外のところで社会貢献活動を積極的に行っている場合も珍しくありません。そういった活動には社会へのインパクトの大きさに応じて個別評価する必要があります。
ガバナンスの評価に当たる、企業統治の質(不正が起こりにくい組織構造となっている、社員や取引先など利害関係者への配慮を行っている、など)や財務の健全性などは、個社によりさまざまなので、精度高く投資先を選別するうえで個別企業の評価は欠かせません。
このように個別企業のビジネスや活動内容・組織構造などを評価して投資先を選別することで、さらに精度の高いESG投資が可能となります。
企業に働きかける手法
近年プロの資産運用会社などでは、投資先の企業のESG性を改善する働きかけを通じて、企業価値を高める投資手法も実践されています。
例えば、株の議決権行使を活用してESGに反する経営を阻止することで、間接的に投資企業に対しESG評価を高める運営を行ってもらう方法があります。
また、ESGに寄与する経営手法などを投資家側から提案し、承諾してくれる企業に対して積極的な投資を行う、といった手法も資産運用会社などで行われています。
このような議決権行使や融資を通じてESG性を高める投資手法は、運用金額が大きい機関投資家ならではの投資手法といえます。
ESG投資のメリット
ESG投資は、先に紹介したように国連など外部機関の要請により促進された部分も大きいですが、投資家の視点で見てもESG投資を行うメリットがあります。
資産価値が安定している投資先を見つけやすい
ESGを積極的に推進する企業は、主に2つの理由で長期的に安定した企業であることが期待できます。
1つ目の理由は、ESGを重視する企業の方が、長期的に安定してビジネス運営を行える可能性が高いことがあります。
近年は、企業の環境・社会への配慮に対する社会の目は厳しくなっています。配慮が足りない企業は、課税・制度変更・制裁などにより負担増になるリスクがあります。また取引先やクライアントについても、環境・社会への配慮をした企業と重点的にビジネスを行うよう社会全体が変わってきています。ESGを重視する企業は、こうした制度や社会の変化の中でも優位にビジネスを進めることができるでしょう。
もう1つの理由は、ESGの「G=ガバナンス」がしっかりしている企業を選ぶことで、自然と安定企業を選別できる点です。
企業が長期的に維持・発展できるように、組織の構造・統治が整っているかを評価するのがガバナンス評価です。事故や不正を防ぐ取り組みができているか、経済変化にも耐えられる健全な財務体質であるかなど、ガバナンス評価は企業の安定性評価に正に直結しています。従って、ガバナンスの評価を通じて、安定企業を選別して投資することが可能です。
以上のような2つの理由から、ESGを重視して投資先を選別すると、自然と長期的に安定した企業を選別して投資することが可能です。
ブームを先取りして長期保有すれば、高いリターンが得られることも
機関投資家の間では以前より行われていたESG投資ですが、個人投資家がESG投資を行えるようになったのはつい最近です。ESGは地球温暖化の回避や疾病・貧困の解決など、長期間にわたり世界全体で取り組む課題ばかりなので、今後もESGを重視する潮流は強まっていくものと想定されます。
今後、より多くの投資家がESG投資を重視するようになれば、ESGを重視する企業にはより多くの資金が集まり、企業価値は高くなりやすいと考えられます。これは株式投資でいえば、ほかの企業よりも株価が上がりやすいことを意味します。
まだ発展途上のESG投資に先立って取り組むことで、ESGを重視する企業の長期的な企業価値の上昇の恩恵を受けて、高いリターンを得ることが期待できます。
社会貢献になる納得感の高い投資ができる
従来は、投資商品を販売する証券会社なども含め、投資といえば「いかに損失を避け、大きな利益を得るか」を重視するのが一般的でした。個人投資家も「自分の資産がどれくらい増えるのか」には注目している一方、「自分の投資資金が具体的に何に使われているか」はあまり意識して投資してこなかった方も多いでしょう。
しかし、これまで具体的な投資手段がなかっただけで、余剰資金を投資するなら(それが利益になるのなら)本当は世界や社会にとって利益となるものに自分の資金を使ってほしいと考えている人は実は少なくありません。
ESG投資は、自分の資産を増やせるだけでなく、募金などと同様に間接的な社会貢献になる投資なのです。従って、「投資資金の使い道」を重視したい投資家にとって納得感が得られる投資となります。
ESG投資にはデメリットもある
ESG投資はメリットが大きい投資である一方、当然デメリットもあります。メリット・デメリット両面を踏まえてESG投資を行うべきか判断するとよいでしょう。
短期のリターンは得られない可能性がある
ESG投資はたしかに個人投資家の間では発展途上ですが、機関投資家は以前からESGを重視して投資判断を行ってきました。
従って、すでに社会的評価が高く、機関投資家からESGの面で積極的に投資されている安定企業も多くなっています。そのような企業は、機関投資家が長期間にわたって投資を行うことで株価が高止まりする傾向にあります。個人投資家は安値のタイミングを厳密に察知して投資することが難しいため、結果的に高値で株を購入してしまいがちです。
ESGを重視する姿勢はたしかに長期的に見れば企業の価値向上に役立ちますが、これは数カ月〜1年程度では結果が出るものではありません。短期的な視点ではESG投資は株価を高値掴みし、すぐにはリターンが出にくい投資となりやすいといえます。
これはESG投資を行う以上避けるのが難しいデメリットです。そのため、ESG投資は「長期投資として取り組む」のが鉄則です。
個人投資家が厳密にESG評価を行うのは困難
機関投資家は、高額な利用料を払って情報を取得し、また多数のプロフェッショナルを雇い、時には外部のESGの専門機関に調査を依頼するなど、莫大なコストと手間をかけてESG投資の分析を行っています。
個人投資家では、これらのことは到底真似できるものではありません。ESG投資の具体的な手法について先に触れましたが、それはあくまで機関投資家向けの手法です。
では、個人投資家はESG投資ができないのかというと、一昔前はたしかに個人のESG投資は困難でしたが、現在では個人投資家がESG投資を行う方法が確立されてきています。次の章で個人投資家の具体的なESG投資の方法を紹介します。
ESG投資をどのように取り入れるべきか
個人ではESG投資を実践するのが難しいという従来の課題への解決策として、近年は複数の金融機関が「ESGを考慮した投資商品」を販売しています。これらを活用すれば個人でも気軽にESG投資にチャレンジすることが可能です。
初心者は投資信託やETFを探すのがおすすめ
初心者がもっとも実践しやすい方法は、証券会社で購入が可能な投資信託やETF(上場投資信託)からESG投資を行うものを選択する方法です。
現在は次に一例を挙げる通り、多数のESG投資を行う投資信託・ETFがあります。
ESG 投資を行う投資信託の例
- グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(愛称:未来の世界(ESG))
- ニッセイ日本株ESGフォーカスファンド(資産成長型)(愛称:ESGジャパン)
- 野村ブラックロック循環経済関連株投信(愛称:ザ・サーキュラー)
など
ESG投資を行うETFの例
- 上場インデックスファンド日経ESGリート
- MAXISカーボン・エフィシェント日本株上場投信
- ダイワ上場投信-MSCI日本株女性活躍指数(WIN)
など
これらはごく一部にすぎません。ESG投資を行う投資信託・ETFは、すでに多く取り揃えられています。証券会社のホームページなどで、自分にあった商品を探して購入するとよいでしょう。
投資信託・ETFの組入銘柄を元に個別銘柄への投資にチャレンジ【中級者向け】
少し応用編になりますが、「株などで個別企業に投資したい」という中級者向けの方法です。
先ほど紹介したようなESG投資を行う投資信託・ETFは定期的に(基本は毎月)レポートを発行しています。このレポートは、販売している証券会社のホームページで確認できます。
レポートではそれぞれの商品の投資上位企業を確認することができます。例えば、「MAXISカーボン・エフィシェント日本株上場投信」の11月末時点の月次レポートを見ると、以下のような先に投資していることがわかります。
参考: AXISカーボン・エフィシェント日本株上場投信 | 投資信託なら三菱UFJ国際投信
- トヨタ自動車
- ソニー
- ソフトバンクグループ
- キーエンス
- 武田薬品工業
これら上位企業は言うまでもなく高いESG評価を与えられているからこそ、投資信託・ETFに多く組み入れられています。従って、こうした企業に重点的に投資を行うことで、自然とETFを意識した投資を実践していることになります。
ソーシャルレンディングなどを活用してESG投資を行う方法も【上級者向け】
このほか、ESG性の高い事業などに直接投資する方法も実はあります。それは「ソーシャルレンディング」という投資商品を活用する方法です。
ソーシャルレンディングはまた近年発展した投資商品です。端的に言うと、特定のプロジェクトに個人投資家が少額で投資できるものです。
これは銀行の「融資」に近いものなので、一定期間経過後に資金は投資家に返済されます。また、投資している期間には定期的に金利が支払われるので、この金利が投資家にとっての収入となります。
さて、このソーシャルレンディングの中にもESG投資を行う商品があります。特に近年増えているのが、ソーラー発電所の建設プロジェクト資金を融資する商品です。大手では「SBIソーシャルレンディング」などが定期的にソーラー関連の投資商品を販売していますし、中小の業者を含めれば多数の金融機関が取り扱っています。
ソーシャルレンディングを活用すればダイレクトにESG性の高いプロジェクトに投資することが可能です。ただし、これらは投資先であるプロジェクトのリスクを分析する必要がありますので、やや上級者向けの投資方法といえます。
ESG投資により資産運用しながら社会に貢献しよう!
ESG投資とは、資産運用をしながら社会貢献ができる一石二鳥の投資方法です。かつては機関投資家が中心となっていたESG投資ですが、最近は個人投資家でも実践できる環境になってきています。
長期的に見ればリターン面でもメリットが期待できる投資手法なので、特に長期投資を主体とする方はぜひチャレンジしてみることをおすすめします。
資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。