本記事は、青田努氏の著書『図解 「いいキャリア」の育て方 「5つの資」から考える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。

仕事
(画像=TaniaC. / stock.adobe.com)

資産 働く理由となりうる価値

「資産」と聞くと金融資産をイメージする方もいるかもしれませんが、私は資産を「働く理由となりうる価値」と定義します。仕事をしていると辛くなったり苦しくなったりすることもありますが、資産はそれでも前を向いて頑張れる理由となってくれるものです。

いつか仕事を終えたその後も、人生は続きます。仮に65歳まで働いたとして100歳まで生きられるとしたら、残りは35年間。これからも続く人生に希望を持てているか、安心感を持っているか。単に長生きできれば良いわけではありませんが、本人が「もっと長く生きていたい」と思えるような希望を持てていたら、それは素晴らしいことだと思います。絶望と不安に追われながら余生を過ごすことを望む人はいないでしょう。先の人生への希望と安心感は大切です。

それでは、希望/絶望、安心/不安に影響をもたらすものは何でしょうか。私は「人とのつながり」「豊かさ」だと思います。老後も健やかでいられるように健康を管理していくのはもちろんですが、金銭面で不安な思いをしないようにしておく、これまでのキャリアでつながっていた人たちと疎遠にならないように実りのある関係性を築いておく。このようにキャリアを歩んでいけたら、満足度の高いキャリアになるのではないでしょうか。

なお、若いうちは特に「成長」や「市場価値の向上」を働く理由として挙げる方もいるかと思いますが、それはあくまでも資産を得るための手段でしかありません。何のために「成長」「市場価値の向上」をしていくのか、資産はその解となるものを指します。

「今の自分はこれらについてどういう状態だろう?」「得たいものは得られているだろうか?」など考えながら読み進めてください。

相互信頼とつながり

「量」よりも、まずは「質」

資産のひとつに「相互信頼とつながり」が挙げられます。これは単にアドレス帳に人数がたくさんいる、SNSのフォロワーが多いといったことではありません。大切なのは、信頼・つながりの「質」です。「お互いに信頼していて、つながっていることに喜びを感じられる人」がいること、これが「相互信頼とつながり」です。

これがないと、人を疑うことにエネルギーを使ったり、世の中に対して前向きでいられなくなったりします。

「手段」ではなく「最終価値」

また、これは活用・有用性を前提とした手段としてのつながりではなく、ただそれ自体で心が満たされるものとなります。仕事を通じて得られたものだけでなく、それまでに仕事をしながら築きあげてきた家族・親戚といった関係性も(円満であれば)含んで良いでしょう。

一部の人を除き、人は孤独では生きられません。1人の時間を大切にしている人もいるでしょうが、1人でいることと孤独とはまた別のものです。

多くの人は「意味のある」つながりを求めているのではないでしょうか。何のために私たちは働くのか、「相互信頼とつながり」はその十分な理由になりうるものです。

「相互信頼とつながり」を得るためにできること

相互信頼は読んで字のごとく「相互」に「信頼」することです。キャリアを積んでいく中で相互信頼を得るためには、4つの要素を意識して行動することが欠かせません。それは「1. 人間性」「2. 一貫性」「3. 真正性」「4. 返報性」です。

「人間性」「一貫性」「真正性」の3つは私の恩師である杉浦正和先生(早稲田大学ビジネススクール教授)の著書『入社10年分のリーダー学が3時間で学べる』(日経BP社)において、リーダーの中にある影響力をもたらす源泉として紹介されているものですが、私はこれをリーダーに限らず、人が信頼を得る上での重要な要素であると捉え、拝借しました。そして、そこに「4. 返報性」を加えました。

1. 人間性

人間性は曖昧で定義の難しいものですが、「人としての温かみ」「人としての器」のようなものだと、ここでは定義します。

相手の存在を許容・尊重する(否定しない)ことは信頼を築く第一歩となります。

2. 一貫性

人間である以上「変化」はつきものですが、それでも言うことがコロコロ変わっている人は信頼を得られにくいものです。

相手としてもそのような不安定でブレてしまう人を信頼するのは心理的負荷が高いので、一貫性は信頼を得る上で重要な要素となります。

3. 真正性

人間は偽物を信じたくありません。「言っていることとやっていることの一致」「裏表のなさ」は信頼のベースとなります。

4. 返報性

1~3に加え、「相互」に信頼する上で心に留めておきたいのが「4. 返報性」です。これは、「人は自分がされたように(良くも悪くも)お返しする」という心のはたらきのことです。

この返報性に基づいて考えると、自分から相手を信頼することが、相手からの信頼を得る要素になります。

「自分を信頼していない人を信頼する」という気持ちには、なかなかなりづらいものです。「まずは自分から相手を信頼する」ということは勇気が要ることかもしれませんが、その姿勢は相手に伝わります。

キャリアを通じて多くの人たちに出会う中で、相互信頼に足る人を見つけ、つながりを保つことができたら、それは充実したキャリアだったと言えるのではないでしょうか。

図解 「いいキャリア」の育て方 「5つの資」から考える人生戦略
青田 努(あおた・つとむ)
Cast a spell合同会社 代表
Twitter @AotaTsutomu

1999年筑波大学第一学群人文学類卒業。2014年早稲田大学大学院 商学研究科(MBA/人材・組織マネジメント系モジュール) 修了。2003年GCDF(米国CCE, Inc. 認定キャリアカウンセラー資格) 合格。
リクルートおよびリクルートメディアコミュニケーションズに通算10年在籍し「リクナビ」の学生向けプロモーション、求人広告の制作ディレクター、自社採用担当を務める。 その後、ドリコム、アマゾンジャパン、プライスウォーターハウスクーパースなどで人事マネージャー(主に中途採用領域)を経て、2015年より日本最大のHRネットワーク『日本の人事部』にて、人事・人材業界向け講座、人事の交流会・勉強会組織、HR Techメディアなどを立ち上げる。2017年にLINE入社。人材支援室副室長を務めたほか、マネジメント層の成長支援プロジェクトのリード、採用・タレントマネジメントなどさまざまなプロジェクトを推進。LINE在籍中の2021年にCast a spell合同会社を設立。
現在は250名の勉強会コミュニティ「採用を体系的に学ぶ会」、2900人の匿名相談コミュニティ「人事のへや」などを企画・運営しつつ、美大進学のため美術予備校「すいどーばた美術学院」に通学中。 著書に『採用に強い会社は何をしているか 〜52の事例から読み解く採用の原理原則』(ダイヤモンド社)がある。

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