本記事は、青田努氏の著書『図解 「いいキャリア」の育て方 「5つの資」から考える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。
マインドセットとは
将来的な「資産(金銭的なものだけではなく、貢献実感やいい思い出など、働く 理由となりうる価値)」を築いていくためには、強みや武器である「資本」が必 要です。その資本のひとつに、「マインドセット」があります。
マインドセットは「心がまえ」「物事の捉え方」のことです。多くの行動や取り組みに影響を与えるベースになります。前向きな気持ちでやった仕事と、どこか後ろ向きでやらざるを得なかった仕事では、成果やクオリティだけでなく自分の満足感も大きく異なってきます。
マインドセットと聞くと、精神論のようで苦手に思う人もいるかもしれませんが、鍛え抜かれたマインドは、仕事で価値を発揮していく上での強みやエネルギーになります。
ここでは仕事で特に大切なマインドセットとして「意味づけ」「逆算」「実験」の3つをお伝えします。
「意味づけ」マインド
業務や作業には天(意味)と地(現実的な作業)、2つの側面があります。意味がある仕事を達成するためには、書類の作成や連絡、調整、データ分析、テレアポなど、細かい作業の積み重ねが欠かせません。
「請求書の処理が好き」「地道にデータを整える作業をしていると、心が洗われる」「飛び込み営業はなんだかんだ楽しい」など、地の作業そのものに喜びを見出して楽しめていれば問題はありません。
一方で、「請求書処理は、間違えてはいけないプレッシャーがあってしんどい」「データをきれいにする作業が必要なのはわかるが、黙々とした単純な作業でストレスを感じる」「飛び込み営業は人に迷惑をかけているみたいで気が引ける」と感じる人もいるでしょう。
しかし、自分のキャリアを前進させるような取り組みのほとんどは地の作業の積み重ねです。だからこそ、「地の作業」を「天の意味」に結びつけることができれば、目の前の作業の見え方やモチベーションに好影響を与えることがあります。
これを象徴する有名な寓話に、「3人のレンガ積み職人」があります。
あるところに旅人がいました。
旅人が大きな一本道を歩いていると、1人の男がとても厳しい顔つきでレンガを積んでいます。旅人は、その厳しい顔つきの男に尋ねました。
「あなたはここで何をしているのですか?」と。厳しい顔つきの男は答えました。
「わからないのか? 見ての通り、レンガを積んでいるに決まっているだろ。一日中、俺はここでレンガを積まなきゃいけないのさ。体中が痛くなるし、どうしてこんな作業ばかりやらされるのか……」旅人は、愚痴を言い続ける厳しい顔つきの男をなだめ、大きな一本道を歩き続けました。
旅人がさらに歩いていると、少し離れたところでレンガを積んでいる男に出会いました。1人目の厳しい顔つきの男と違って、さほど辛そうには見えず、テキパキ・黙々とレンガを積んでいました。旅人は2人目の男に尋ねました。
「あなたはここで何をしているのですか?」と。2人目の男は答えました。
「大きな壁を作っているんだよ。今日も朝から晩まで作業さ」
1人目が辛そうにしていたので、旅人は2人目にねぎらいの声をかけました。「いやいや、どうということはないよ。だって、この仕事があるから俺は家族を養っていけるんだ。この地域では、家族を養っていけるだけの仕事を見つけることすら大変だけど、俺はこの仕事があるから家族を食わせていくことができるのさ。これを大変だなんて言っていられないね」
旅人は、こう答えながらもテキパキと作業を進める2人目の男の元をあとにして、再び大きな一本道を歩き続けました。
旅人がさらに歩いていると、また、レンガを積んでいる男に出会いました。3人目の男はこれまでの2人とは異なり、活き活きとした様子でレンガを積んでいます。旅人は不思議がって尋ねました。
「あなたはここで何をしているのですか?」と。3人目の男は意気揚々と答えました。
「歴史に残る大聖堂を造っているんだよ!」旅人は3人目にもいたわりの言葉をかけました。
「いやいや、何を言っているんだ。だって、大聖堂が完成したらここで多くの人たちが神様から祝福を受けて、悲しみを拭うんだ。素晴らしいことじゃないか! 俺も作業をしていて誇らしい気持ちになるね」
旅人は3人目の男にお礼の言葉を残して、歩き続けました。
(インターネット上に掲載されている文章を元に著者改変)
もちろん現実はここまで単純なものではありませんが、自分の仕事は何のために存在しているのか、それによって誰がどう喜ぶのか、自分自身の仕事の意義をどのように認識しているかにより、仕事の成果や生産性は大きく変わることがあります。
「逆算」マインド
目標を達成することを前提に、達成するための道筋を考えていくのが逆算マインドセットです。
これは、何かに取り組む際に「これは難しいですね」で思考停止せずに、「難しいだろうけど、想定される課題はAとBとCなので、これらをクリアすればできるはずである」というスタンスで臨むことを指します。
もちろん、思ったとおりに進まないことのほうが多いかもしれませんが、仕事に取り組むにあたって成功前提で考えることは、成功確率を高めてくれます。
多くの仕事で求められることは「難易度の見積もり」ではなく「クリアしていくこと」です。評論に終わらせないようにしましょう。
「実験」マインド
過去に例のないことに取り組むときは、参考になるデータや事例が得られず、挑戦を躊躇してしまうこともあるでしょう。しかし「前例がないからできない」で終わっていては、新しいことはできません。
そこで大切になるのが「実験」というマインドセットです。「やってみないとわからないじゃないですか」と言うと、まるでアホのような目で見られる職場もあるかもしれませんが、「ここは実験してみませんか」と言い換えてみると、不思議なことに受け入れられやすくなります。
結果として、新しいことに取り組みやすくなりますので、ぜひ活用してみてください。
Twitter @AotaTsutomu
1999年筑波大学第一学群人文学類卒業。2014年早稲田大学大学院 商学研究科(MBA/人材・組織マネジメント系モジュール) 修了。2003年GCDF(米国CCE, Inc. 認定キャリアカウンセラー資格) 合格。
リクルートおよびリクルートメディアコミュニケーションズに通算10年在籍し「リクナビ」の学生向けプロモーション、求人広告の制作ディレクター、自社採用担当を務める。 その後、ドリコム、アマゾンジャパン、プライスウォーターハウスクーパースなどで人事マネージャー(主に中途採用領域)を経て、2015年より日本最大のHRネットワーク『日本の人事部』にて、人事・人材業界向け講座、人事の交流会・勉強会組織、HR Techメディアなどを立ち上げる。2017年にLINE入社。人材支援室副室長を務めたほか、マネジメント層の成長支援プロジェクトのリード、採用・タレントマネジメントなどさまざまなプロジェクトを推進。LINE在籍中の2021年にCast a spell合同会社を設立。
現在は250名の勉強会コミュニティ「採用を体系的に学ぶ会」、2900人の匿名相談コミュニティ「人事のへや」などを企画・運営しつつ、美大進学のため美術予備校「すいどーばた美術学院」に通学中。 著書に『採用に強い会社は何をしているか 〜52の事例から読み解く採用の原理原則』(ダイヤモンド社)がある。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。