投資と投機の違い

まず、投資・投機それぞれの特徴の違いをまとめました。両者はいずれも資産を増やす手段ですが、実は異なる特徴を持っています。

長期的に資産形成ができる「投資」

投資というのは、企業など特定の対象に自分の資産を投じて、企業が生み出す利益や経済成長の恩恵を受け取る行為を指します。

例えば株式投資の場合、株式購入によって企業に自分の資産を投じることで、企業成長や企業が生み出す利益の一部を受け取る行為です。不動産投資の場合は、入居者が支払う家賃を利益として受け取ります。

外貨預金は株式とは異なる特徴を持っていますが、日本より高い経済成長の国の高い金利を利益として受け取っています。従って外貨預金を長期保有するのも、立派な投資手法の一つといえます。

このように、投資先の利益や経済成長の恩恵を受け取るというのが「投資の本質」です。一般的に利益や成長は長い期間かけて徐々に生み出されるので、必然的に「投資」で資産を増やすには長期間継続することが大切です。

短期間で利益を狙う「投機」

「投機」は資産を投じる先の成長性や中長期的な利益には基本的に着目せず、短期的な価格の値動きに注目して取引を行います。

価格が短期的に安い時に購入し、ある程度値上がりが起こったら売却し、その価格差を収益とする方法です。FXや株の信用取引などでは、価格が高い時に「売却と同じポジション(FXではショート、株では空売りとよばれたりします)」を取って、価格が下がった時に買い戻す取引を行うことで、価格が下落している時に収益を獲得することも可能です。

また、「レバレッジ」といって、実際に持っている資産より大きな金額の投資を行って、利益を大きく増やすことを追求することも可能です。

株式や為替などの投資商品は、リアルタイムで細かい値動きが発生しています。これらは企業・国などの長期的な成長性とは関係なく、その時の需給や一時的なニュースなどに大きく反応します。

これらの動きを捉えることで、成功すれば短時間のうちに大きな利益を獲得できるのが投機となります。同じ株式投資でも、長期で保有するか短期的な取引をするのかで、投資にも投機にもなります。

ギャンブルと投機の共通点・違い

一般的にギャンブルと投機は似ているといわれますが、これはあながち間違っていません。ただ、大きく異なる点もあります。

相違点

両者で大きく異なるのは、損をする確率です。投機の方が圧倒的に「ゼロサムゲーム(参加者の損益をすべて足すとゼロになる)」に近い手法です。ギャンブルは、競馬もパチンコも海外のカジノにしても、運営団体が利益を得るために手数料などを取っているため、参加者の損益をすべて足すとマイナスになります。

つまり簡単に言うと、ギャンブルは「損をする可能性の方が高い」ということです。一方、投機で扱う金融商品も確かに手数料は発生していますが、ギャンブルと比較すると運営企業が徴収する手数料はわずかなので、参加者の損益をすべて足すとゼロ=ゼロサムゲームに近くなります。従ってギャンブルと比べれば、投機は損をする確率は低いといえます。

共通点

両者の重要な共通点は、「短期的に損益が発生する」ことと「運の要素が強い」ことです。短期的に利益を上げられる投機は、裏を返せば、短期間のうちに大きな損失が発生するリスクもあります。

これはその場で損益が確定するギャンブルも同様です。投機であればチャートなどを研究する手法があり、ギャンブルでも戦略や研究手法があるものの、結局は運の要素が損益を左右するところも似ています。

投資と投機のデメリット・リスク、気をつけること

続いて、それぞれを行ううえでのリスクや留意点について紹介します。

投資は慎重に投資先を選びじっくり時間をかけて行う

投資は、企業や国の成長の恩恵を十分に受けるために、じっくり時間をかけて行うことが大切です。少なくとも年単位、不動産投資などの場合は、十年単位に及ぶことも珍しくありません。

そこで、継続的に利益を出してくれる投資対象を厳選することが、投資においては極めて重要です。企業であれば投資期間のうちに衰退したり、最悪倒産してしまうと、当然大きな損失が発生することになります。

だからこそ投資対象選びは、自分なりに研究していく必要があります。例えば「今後成長が見込める対象か」「安定しているか」など、自分なりの判断基準に選びます。どの投資にも売買には一定程度の手数料が発生するはずなので、一度選んだ投資先は、細かい日々の値動きに惑わされず、基本的には長期間保有し続けるスタンスを取ることが大切です。

ただ、長期投資だからといって、まったくほったらかしでいいかというとそうでもありません。短期的な値動きでなく、「明らかに企業の業績が悪化していて継続的に値下がりしている」「今後の成長や利益が見込めない」と判断したら、取り返しがつかなくなる前に売却する勇気も必要になります。投資先の情報は定期的にチェックし、臨機応変に対応していくことが大切です。

投資は投機と比較すれば一般的にリスクを抑えることが可能ではありますが、リスクがゼロになるわけでは決してありません。

投機は常に市場動向や株価のチェックが必要

投機はリアルタイムの細かい価格の値動きで利益を獲得しますが、レバレッジによって保有資産の規模に比して、大きな損益が発生するリスクもあります。個人投資家の場合はまず、自分が許容できる損益レベルを見極めながら、投資の規模をコントロールすることが大切です。

また、リアルタイムに損益が変化していくため、常に市場動向や株価のチェックをする必要があります。非常時には素早く取引を行って損失を回避する必要がありますし、日中の高値を見逃してしまうと、せっかくの利益獲得の機会を逃してしまうことになるためです。

例えば日本株の場合、「場中(ばちゅう)」とよばれる東証が開いている9:00〜11:30、12:30〜15:00の間は、リアルタイムで株価が確認できる情報端末を常に見ている必要があります。海外株式に投資する場合は、対象となる市場が開いている時間に行う必要があるので、深夜にも株価をチェックしなければならないというケースも考えられます。

一般的なサラリーマンはこのように市場をリアルタイムでチェックするのは困難なので、そもそも投機という手法はあまりおすすめできません。どうしてもチャレンジしたい場合は、多少の損失が出ても困らないように少額で行う、仕事中でもこまめに市場をチェックできるよう工夫する必要があります(ただし本業に支障が出るリスクがあるので注意が必要です)。

長期投資におすすめの株式以外の商品

個別企業の株式投資は、長期投資としては比較的リスクの高い手法なので、大きな損失を避けたい人などには必ずしも適していません。ここでは長期投資におすすめの商品を2つほど紹介します。

投資初心者向けの「投資信託」

長期投資向けの商品として、証券会社や一部の銀行などで購入可能な、「投資信託」があります。

投資信託とは、一定のルールやテーマに基づいて、資産運用会社という資産運用のプロフェッショナルが投資家から資金を集めて投資を行い、利益の獲得を目指す商品です。

プロが投資を行うことで、個人投資家よりも適切に運用をしてくれることが期待できますし、莫大な資産を取り扱うことで、多くの銘柄に投資でき分散効果が発揮され、個別企業の株式へ投資するよりも損失リスクが低減されます。

ちなみにすべての投資信託が株式に投資しているわけではなく、よりリスクの低い債券に投資するもの、さまざまな資産に投資するもの、株式の中でも特定の業種のみに投資するものなどさまざまです。商品によってリスクの高さは異なりますが、大まかにいえばリスクが低い方から順に、

債券中心に投資する商品<さまざまな資産に投資する商品<株式に投資する商品

となります。これらさまざまなタイプの商品の中から、長期間保有し続けることを念頭に自分の志向にあったリスクの商品を選択することが可能です。

ローリスクな不労所得「不動産投資」

もう1つ、株式よりリスクが抑制された投資手法としては「不動産投資」があります。不動産投資は不動産を購入するための初期投資が大きくなりがちなため、リスクが高い印象を受けやすいですが、実際には株式よりリスクの低いミドルリスクの投資手法です。

不動産投資では入居者がいれば安定的に毎月賃貸収入が入ってきますし、株式のようにリアルタイムに大きく資産価値が変動するものでもありません。空室リスクは存在しますが、それを踏まえても、一般的に株価が目まぐるしく変化し、定期的に受け取る配当水準にも変動リスクがある株式投資と比較すると、リスクは低いという考え方が一般的です。

株式のように価格変動に惑わされず、長期間安定的な収入を獲得したいという場合には、空室リスクの低い物件を厳選して、不動産投資を行うことをおすすめします。

一般的なサラリーマンには長期投資がおすすめ

今回紹介したように、投機で継続的に収益を獲得するためには、日中も含め多くの時間、市場に張り付いて動向をチェックする必要があります。サラリーマンなど何かしら本業がある人は、日々リアルタイムで相場をチェックしながら本格的な投機を行うのは困難でしょう。

こうした人には企業や国の成長・利益を長期間享受する長期投資がおすすめです。一口に長期投資と言っても投資信託、不動産投資など株式よりもリスクを抑えた手法もあります。自分が許容できるリスクの大きさを見極めながら、適切な投資方法を選択することが大切です。

伊藤圭佑 証券アナリスト
資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。