損害保険の不正請求をはじめとする一連の不祥事で、中古車買い取り・販売大手のビッグモーターが窮地に追い込まれている。ついには取引銀行団と資金繰りの協議が始まり、近く返済期限を迎える90億円の融資の借り換えや金利条件などの現状維持を要請した。

信用失墜で販売台数は6割以上も激減

同社は先月後半から例年と比較して、中古車の販売台数が6割以上、買い取りも4割以上減っていると銀行団に報告している。原因は不祥事による消費者からの信用失墜だ。

中古車販売は日銭商売で、売上が急落するとたちまち資金不足となる。銀行団は借り換えを拒否。同社は2022年9月末時点で約600億円もの借入金もある。銀行団が不祥事と業績不振を受けて融資の貸しはがしにかかると、ビッグモーターは資金繰りに窮する可能性が高い。

同社の兼重宏行社長(当時)は引責辞任した。が、和泉伸二新社長は現在もオーナーである兼重前社長の腹心であり、信用回復につながる経営刷新とまでは言えない。最も即効性がある経営再建策は事業譲渡だろう。非上場企業の同社なら、株式の7割以上を握る兼重前社長が決断するだけでよい。

事業譲渡すれば、ビッグモーターの「兼重カラー」は完全に消え、企業イメージも好転する。では、ビッグモーターの譲渡価額はいくらになるのか?


ぐずぐずしていると譲渡価額は「二束三文」に

企業の譲渡価格を算定するには、主に三つの方式がある。

1.純資産や過去3年間の営業利益の平均値から3~5年分に相当する営業権(のれん代)などを参考にする「コストアプローチ」
2.利益やEBITDA、純資産といった財務指標から算出された倍率で計算する類似会社比較法(マルチプル法)などによる「マーケットアプローチ」
3.フリーキャッシュフローを割引率により現在の価格に割り戻し、事業価値を求めるDCF法などによる「インカムアプローチ」

しかし、ビッグモーターは最近の決算データについては売上高や純利益しか明らかになっておらず、純資産や減価償却費、フリーキャッシュフローなどの数値が必要な譲渡価額の算定は難しい。

業種は全く異なるが、同じオーナー経営の非公開企業では化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC)が、オリックス<8591>に約3000億円で買収されている。DHCの2022年7月期の純利益は96億1500万円だった。ビッグモーターの2022年9月期純利益184億円で比較すれば、譲渡価額は約5740億円となる。

だが、同社は不祥事で揺れ、業績も急降下している。信用も失墜しており、一過性の不振で済むのか不透明だ。当然、買収価額は下落する。業績悪化が続いて経営危機状態になれば、二束三文で買い叩かれるのは避けられない。兼重前社長にとっては、自社を売り抜けるタイムリミットが目前に迫っている。

文:M&A Online