金(ゴールド)価格が過去最高を更新しているのと裏腹に、ダイヤモンド価格は下落を続けている。2014年3月10日時点のダイヤモンド価格を100とする指標では、2022年9月1日の90.40から、2023年9月1日には78.05と、わずか1年間で12.35ポイントも下落した。ポストコロナで消費者の購買意欲も旺盛なのに、なぜダイヤモンド価格は低迷しているのか?

技術革新で人工ダイヤに市場を奪われる

理由は二つある。一つはポストコロナで「コト消費」の旅行への支出が増えていること。世界旅行市場は、2023年にはコロナ前の2019年に近い水準まで戻る勢いだ。コロナ禍で3年にわたって遠方への移動を制限されてきた消費者が、まずは宝飾のような贅沢品よりも旅行にお金を使い始めた。

次にこれが最も大きな要因だが、人工(合成)ダイヤモンドの品質向上がある。とりわけマスマーケットの1〜2カラット原石市場が人工ダイヤに席巻され、価格が暴落しているのが響いた。当初の人工ダイヤは天然ダイヤに比べると品質が著しく劣り、競争にならなかった。

しかし、高温高圧合成法や化学気相蒸着法といった合成法が確立し、工業用ダイヤとして研磨材や刃物などの素材として利用されるようになる。技術の進歩で、人工ダイヤが硬度や熱・電気伝導性、電子移動度で天然ダイヤを上回るほどに。


資産としてのダイヤに不安も

そもそも天然ダイヤも人工ダイヤも、素材は全く同じ炭素。現在では不純物を全く含まない人工ダイヤの方が透明度が高く、美しさでも天然ダイヤを上回っている。そのため宝飾用としての利用も進み、天然ダイヤを取り扱うデビアス社などの取引業者は人工ダイヤを脅威と感じているようだ。

同社は2〜4カラットの原石を研磨して、その半分程度の大きさに切り分けるメイカブル(準宝飾品質)ダイヤの価格を過去1年で4割も引き下げるなど、人工ダイヤとの価格競争を繰り広げている。天然ダイヤは最も高品質なソーヤブルで依然として高い競争力を維持しているが、宝飾用ダイヤ市場では15%を占めるにすぎない。

85%を占めるメイカブル、ニアジェム(低品質宝飾用)の普及品市場で、人工ダイヤに駆逐される影響は深刻と言える。問題は普及品市場だけにとどまらない。取引業者が最も警戒するのは、高級ダイヤの得意先である中国などアジアの富裕層市場だ。

彼らは将来の値上がりを期待し、資産として高級ダイヤを購入している。普及品に引きずられる形で高級ダイヤの値下がりが懸念されれば、高級ダイヤの新規購入を思い留まり、保有する天然ダイヤを高値のうちに処分しようとするだろう。そうなれば高級ダイヤ市場も暴落する可能性がある。ダイヤ市場の先行きに暗雲が立ち込めてきた。

文:M&A Online