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(画像=株式会社小宮商店)
小宮 宏之(こみや ひろゆき)
株式会社小宮商店代表取締役
株式会社小宮商店三代目当主。 創業者小宮宝将の出身地である山梨の甲州織を使用した日本製傘の普及と発展に努める。 2000年入社後、オンラインサイトを立ち上げ、オンライン販売をスタート。 既存の卸販売に加え、百貨店の催事販売に出店を開始。 2014年、本社一階を店舗に改装し、小売販売を開始。更なるWEBサイトの拡充や販売の強化していく。 2018年、東京洋傘が東京都の伝統工芸品に選出。熟練職人二名が東京都伝統工芸士として認定。近年は自社工房を作り、次世代の後継者育成にも尽力している。
株式会社小宮商店
小宮商店は、1930年の創業当初から「つくりのよさ」にこだわった日本製洋傘の製造・販売を行なっている専門店です。 洋傘をファッションとして、長く使ってもらえるようにと、職人がひとつひとつ丁寧に、心を込めて製作しています。 ろくろ包みやダボ包みといった、使い手の事を想う職人の細やかな気遣いが感じられる手作りの洋傘を是非ご体感ください。

起業からこれまでの事業変遷について

―それでは、これまでの事業変遷について教えていただけますでしょうか。

株式会社小宮商店・小宮 宏之氏(以下、社名・氏名略)::当社は昭和5年に私の祖父にあたる小宮宝将が創業しました。当時、流行の最先端であった洋傘に目をつけ、祖父の出身地である山梨で傘に適した素材を使用していたことから、洋傘の製作と卸売を始めました。それから昭和30年から40年代までは、1人で洋傘を製作し、東京都内の傘屋に直接卸し売りを続けていました。

その後、昭和40年代に私の父にあたる二代目の小宮武が事業を引き継ぎ、製作と卸し売りを中心とした事業を本格化させることで、個人商店から会社の組織化をしました。その頃、日本は洋傘の製造、生産、輸出において世界で一番のシェアを占めていましたが、昭和50から60年代にかけて徐々に中国や韓国など外国産の安価な輸入傘が流通し始め、平成になると圧倒的に輸入傘のシェアが増えていきました。

その中で、当社は国産傘も製造し続けながら、輸入傘も取り扱うことで売上を伸ばしていましたが、ビニール傘の台頭、価格低下、品種の多様化など数多くの問題を抱えていました。そして、私が会社を継いだ頃には、価格競争下では生き延びていけないと感じ、業務転換の必要性を考え、小売に進出することを決めました。ただ、戦略がないまま小売への事業展開をしたとしても、安価な他社製品や海外産の傘に負けてしまうと考え、様々な工夫を施しました。

例えば、商品の価値をお客様に適切に説明できる人材の確保、インターネットを活用した宣伝及び販売などです。いくら商品の質が良くても、その価値やストーリーがお客様に伝わらなければ購入には至らないと考え、一本一本手間をかけて製作する職人技の様子を動画にし、お客様に伝える取り組みを行いました。このような当社独自の価値をいろいろな方法でお客様に伝え続けたことで、徐々に当社製品の良さを理解していただき、現在に至るまで事業を続けることができました。

その結果として、平成30年には東京洋傘が東京都の伝統工芸品に選出され、当社の職人も伝統工芸士として認定されました。

小宮商店の強み

―御社の強みや成功の秘訣について教えていただけますでしょうか。

当社の強みは、自社で一貫生産していることです。創業当初から、製造から企画、販売まで、全てを当社で行っています。これにより、お客様の声が直接職人に届き、フィードバックをすぐに反映することができます。また、品質についても創業当初から妥協せず、細部まで手を抜かずに手間暇をかけて仕事を行っています。このような細部までのこだわりをお客様に伝えることで、他社の商品との違いを理解していただくことができます。

また、インターネットと実店舗の両方の販売機能を持つことで、お客様に信用して商品を購入していただけると思います。インターネットで商品を見て、日本橋にある実店舗に来て購入するお客様も多いです。地方や海外からも当社の店舗に来ていただけますので、やはり実店舗があるということも強みではないかと思っております

さらに、自社でのギフトラッピングにもこだわっています。お店に来ていただけると、名入れや手元のカスタマイズなどのサービスも提供でき、お客様としては納得して買っていただけると思います。このような取り組みを地道に愚直に続けたことで認知度が上がっただけでなく、長くお客様に愛していただけていることも自社の強みです。

地域に愛される秘訣

―次に、地元に密着した活動や地域のための取り組みなどについて教えていただけますでしょうか。

地元の東日本橘町会で神田祭りへの参加を筆頭に、青年部でイベントやお神輿を担いだり、地域の町おこしに参加させていただいたりしております。

また、近隣商店で構成する横山町奉仕会の企画室長として地域の活性化事業にも取り組んでおります。地元の方々には、このような活動を通して親しんでいただいています。

小宮商店のブレイクスルー

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(画像=株式会社小宮商店)

―続いて、過去のブレイクスルーや成功実績について教えていただけますでしょうか。

まず、傘のインターネット販売により当社の認知拡大、売上増加に繋がったことが挙げられます。当初は、インターネットの活用により、商品価値の訴求と納得感を持ってお客様に購入していただくことを目指しました。それによって、当社の100年近く続く技術力も評価され、当社製品を伝統工芸品としても選定していただき、当社職人は伝統工芸士という資格を得ることができました。これを機に、東京都の産業労働局や三越伊勢丹などとコラボレーションも行っています。

また、最近では、働く環境の整備にも力を入れています。働き方改革や女性活躍推進、ライフ・ワークバランスの取り組みを進めることで、職人やスタッフが働きやすい環境を整えています。100年近く続く伝統を守りつつも、新しい取り組みを進め、当社のSNSやHPでもこのような取り組みを積極的に発信し、最近の職人求人では今までにないほど多くの応募をいただきました。

思い描く未来構想

―次に、御社の思い描く未来構想についてお聞かせいただけますでしょうか。

まずは洋傘業界の維持が最も重要だと思っています。日本に流通する傘のなかで日本製の傘は1%以下という状況です。また、傘の職人も高齢化が進んでいます。作り手が少なくなると私たちの業界も維持できなくなるので、傘業界全体が発展、もしくは最低限維持できるようにすることが重要だと考えています。傘の部材業者がいなくなってしまうと、当社も維持できなくなるので、業界全体で洋傘産業を維持できるようにしたいと思っています。

当社として別事業への参入などは現時点では考えていませんが、最近で需要の増えた男性用の日傘や増加するインバウンド向けの傘、海外市場への展開などは考えています。何より、洋傘業界では職人の育成が急務です。職人が一本一本作り上げる傘は、一日に3〜5本という世界で、1人で傘を作りあげられるようになるまで、最低1年かかります。そのため、職人を育成しつつ、傘業界全体の発展に貢献できるような取り組みをしていきたいと考えています。

今現在、注力していること

―最後に、現在、御社が特に力を注いでいることについて教えていただけますでしょうか。

やはり職人を始めとする人材育成です。当社の社員は比較的ベテラン層の比率が高いので、新しい人材を少しずつでも取り入れなければなりません。職人を育てなければ、継続的な売上、その先の業界の発展には繋がらないので、職人の募集に力を入れています。職人の現状と魅力を伝えるために、まずは、傘は機械で生産されるものという多くの日本人が勘違いしている思い込みを覆し、職人が多くの時間をかけて、一つ一つ手作りしていることをもっと広めたいと考えています。

また、当たり前かもしれませんが、当社に新しい風を取り入れるためにも、基本的には、私はスタッフに対して出来るだけ口を出さず、自由に仕事を任せています。上から指示されるよりも、自分で企画を出してもらった方がスタッフのやる気が出ると思っています。そのため、私はできるだけスタッフに対してチャレンジをするように言っています。スタッフからの意見を尊重し、それを基に仕事を進めていくことが大切だと思います。働いている方がストレスを溜めず、やりたいように仕事を進められる環境を作ることが一番大切だと考えています。

そして、傘の品質については徹底的にこだわっています。お客様の信頼を崩さないことが最も重要なので、品質が低いと判断した場合は、それを改善するよう指示します。それ以外の面では、スタッフが自由に企画を出せる環境作りに注力しています。

プロフィール

氏名
小宮 宏之(こみや ひろゆき)
会社名
株式会社小宮商店
役職
代表取締役