数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「実戦 非上場会社の敵対的M&A」 高村隆司著、中央経済社刊

M&Aはつまるところ、経営の支配権獲得戦にほかならない。一般には、会社間の攻防戦になることが多い。なかでも上場企業がかかわる敵対的買収が起これば、世間を騒がすニュースになることもしばしばだ。これに対して、本書がフォーカスするのは非上場会社を舞台とした敵対的M&A。さまざまな場数を踏んできたベテラン弁護士が「攻撃側」と「防衛側」の双方の立場から対処法を解説する。

「実践 非上場会社の敵対的M&A」

(画像=「M&A Online」より引用)

非上場会社の敵対的M&Aにおいて当事者はいったい誰なのか。著者によると、最も多いケースが親族間、次いでオーナーと番頭との支配権獲得戦だという。

前者は兄弟姉妹間の争いが大部分を占める。時折、親子間で、オーナーが子供に実権を渡そうと株式を譲った後に眼鏡違いに気づいて争うケースも散見されるという。

後者は、オーナーが子供や婿を後継者にすることを希望しているにもかかわらず、オーナーが老齢化あるいは死亡した後、実権を握る番頭がオーナーの相続人を重要ポストから外すなどのケースを指す。

もちろん、実際の支配権獲得戦では会社外の株主が現経営陣に対して攻撃する場合も少なくない。その場合、まず手始めに会社内部の情報を入手するため、取締役会議事録や監査役会議事録、会計帳簿、株主名簿、株主総会議事録などの閲覧謄写請求が考えられる。

本書は「攻撃方法」「防衛方法」「攻撃・防衛を問わない方法」の3章立て。一連の支配権獲得戦で起こるさまざまな問題について設例(60項目)形式で、根拠条文、判例、学説を示しながら実戦的に解説する。

例えば、会社側と攻撃側が中立株主の支持を得るために株主総会で委任状争奪戦に発展することがある。その際、株主に対して会社側が金銭を支払うことが許されるのか。答えはノー。利益供与は禁じられている。一方、攻撃側による利益供与は不正の請託がない限り問題ないとされ、許されている。

また、支配権獲得戦の勝負が決まると、勝者が敗者が所有する株式を購入する形での和解が成立することが多いという。

本書は2012年出版で、7刷まで刊行された「法務Q&A 非上場会社の支配権獲得戦」の後継書。設例を増やし、内容を大幅に変更した。(2023年8月発売)

文:M&A Online