M&Aの取引金額が夏場を境に大きく鈍化している。1~9月累計(適時開示ベース)は前年を27%上回る6兆1031億円と好調。ところが、四半期別では1~3月、4~6月が各2兆6000億円前後だったのに対し、直近の7~9月は約8500億円にとどまり、急ブレーキがかかった形だ。

国内・海外案件とも件数は堅調

上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)をもとに、M&A Onlineが調べた。

1~9月のM&A件数は747件と前年を54件上回り、年間1000件の大台をうかがうペースで推移中。内訳は国内案件が前年比29件増の604件、海外案件が同25件増の143件。

M&A Online

(画像=適時開示ベース、M&A Onlineが集計、「M&A Online」より引用)

7~9月はオムロンの855億円がトップ

国内、海外案件ともに件数面は堅調を保っているのに対し、金額面ではペースダウンが顕著だ。1000億円を超える大型M&Aは3カ月連続でゼロに終わった。1000億円超の大型M&Aが3カ月間途絶えるのはコロナ禍の影響が広がった2020年以降初めて。ただ、1~9月までで金額1000億円超のM&Aは7件と、件数自体は前年8件とさほど変わらない(一覧表参照)。

四半期別にみると、1~3月には東芝の非公開化に向けた2兆円のTOB(株式公開買い付け)案件が突出した(3月発表)。4~6月にはアステラス製薬が約8000億円を投じる米国企業買収(5月発表)、半導体材料のJSRをめぐる9000億円規模の非公開案件(6月発表)が続き、金額を大きく押し上げた。

これに対し、7~9月はオムロンが医療データサービス大手のJMDCをTOBで子会社化する案件(9月発表)がトップで、金額は855億円。1~9月全体ではぎりぎり10位につけている。

先行きに慎重姿勢が広がるおそれも

一般に海外案件は国内案件に比べて金額が張ることが多いが、足元では巨額買収が影を潜め、規模が総じて小粒化している。

その背景にあると考えられる要因の一つが円安。昨年春以降の円安がここへて再加速し、日本企業にとっては海外企業を買収する際の資金負担が増している。先行きには金融政策の正常化に伴う金利上昇リスクも控え、M&Aに慎重姿勢が広がるおそれがある。

◎2023年1~9月M&A:金額上位10(適時開示ベース)

社名内容金額発表月
1 東芝 国内投資ファンドの日本産業パートナーズの買収提案を受け入れ、TOBで非公開化 1兆9999億円 3月
2 JSR 産業革新投資機構のTOBを受け入れ、株式を非公開化 9039億円 6月
3 アステラス製薬 米バイオ医薬品企業のアイベリック・バイオを子会社化 8040億円 5月
4 キリンホールディングス オーストラリア健康食品メーカー大手のブラックモアズを子会社化 1692億円 4月
5 NIPPON EXPRESSホールディングス オーストリア物流大手のカーゴ・パートナーを子会社化 1267億円 5月
6 ENEOSホールディングス チリに保有する銅鉱山カセロネス銅鉱山の株式51%をカナダLundinに譲渡 1246億円 3月
7 セガサミーホールディングス フィンランドのモバイルゲーム会社「ロビオ」を子会社化 1049億円 4月
8 富士フイルムホールディングス 米国インテグリスから半導体用プロセスケミカル事業を取得 945億円 5月
9 ゼンショーホールディングス 北米・英国で持ち帰りすし店展開のスノーフォックス・トップコを子会社化 874億円 6月
10 オムロン 医療データサービスのJMDCをTOBで子会社化 855億円 9月

文:M&A Online