朝日放送グループホールディングス<9405>は、2022年にアニメキャラクター雑貨の企画や製造を手がけるゼロジーアクト(東京都台東区)を子会社化し、さらにこれに先立つ2020年にはアニメ制作会社のSILVER LINK.(東京都三鷹市)を傘下に収めている。
M&Aに踏み切った背景には何があったのか。さらに今後はどのような展開を考えているのか。同社の投資事業を手がけるビジネス開発局長兼投資ビジネス部長の石崎豪朗さんに、今後のM&A戦略などをお聞きした。
いい制作会社やスタジオがあればM&Aも
-ゼロジーアクトとSILVER LINK.を傘下に収められた背景や狙いをお教え下さい。
朝日放送はテレビやラジオがメインの会社だが、これ以外にも事業領域を拡げようとしている。放送局の事業を大きく分けると放送、コンテンツ、ライフスタイルの三つになる。放送は屋台骨だが今後の成長を大きく見込めない。このためコンテンツやライフスタイルを強化するという戦略を持っている。
コンテンツの中では、アニメは重要なポジションを占めており、成長していく産業であると捉えている。このアニメ事業をより拡大していくためには、バリューチェーン(価値連鎖といい、個別の価値をつなげるという考え方)をきっちりと押さえていく必要がある。
この考えに沿って2020年にSILVER LINK.を買収した。この会社は制作の機能を持っており、これを自社内に取り込むことは、バリューチェーンの強化につながると考えた。制作会社はもう少しほしいと考えている。いい制作会社やスタジオがあればM&Aを含め検討していきたい。
-制作会社を買収することでどのような変化が起こるのでしょうか。
制作会社が傘下にあれば、こんなアニメを作ってみたいという思いを制作の現場のメンバーと話し合いながら作ることができ、そうしてできたアニメを放送していくという流れが作れる。今は外部の制作会社が作ったものを流しているが、制作会社を子会社化することで、自社で作ったアニメを放送することができるようになる。
通販やEC企業もM&Aの対象に
-一方、ゼロジーアクトについてはいかがでしょうか。
ゼロジーアクトは物販の領域の企業で、アニメのフィギュア、特に名探偵コナンシリーズ(アニメの名探偵コナン)のフィギュアや香水などを作っている。コナンは熱烈なファンの方がおられるので、ここでマネタイズしていけるような取り組みを展開している。
さらにアニメ事業は優良なIP(知的所有権)をいかに押さえられるかで決まるため上流のコンテンツを狙っていくということをこれまで以上にやっていきたいと考えている。実現できるとアニメを作って放送して、物販を行い、ドラマや映画、書籍などを作ることが可能になる。今は細々とバリューチェーンを伸ばしているところで、今後より成長させていくことが必要だと考えている。
-ライフスタイルでもM&Aの動きはありますか。
ライフスタイルでは住宅展示場ビジネスに取り組んでおり、100億円ほどの規模になっている。住宅展示場は安定した事業だが、新規の事業にも取り組まないと成長が見込めない。このため通販やEC(電子商取引)を強化することにおり、この分野ではM&Aも十分あり得るだろう。
【石崎豪朗(いしざき・たけお)氏】
1994年、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。その後コーポレート・ファイナンス業務などの投資銀行業務を経験。ゴールドマン・サックス証券、みずほ証券ではM&Aや各種資金調達業務、民営化案件などを担当
2005年以降は投資銀行部門のセクター責任者を務め、2009年以降はM&Aや企業提携に関連するコンサルティング業務に携わる
2017年以降はPwCアドバイザリーで、PMI(M&A後の統合プロセス)支援や、買収や売却に関するアドバイスなどを実施
2020年10月に朝日放送グループホールディングスビジネス開発局長兼投資ビジネス部長に就任
文:M&A Online