ハイドロヴィーナス(岡山市)は、岡山大学発の再生可能エネルギーベンチャー。創業者でもある比江島慎二同大教授の振り子式水流発電装置 Hydro-VENUS(Hydrokinetic Vortex ENergy Utilization System)を実用化するため、2015年1月に設立した。

穏やかな瀬戸内海でも発電可能

Hydro-VENUSは水流に棒を置くと周囲に渦が発生し、振動する原理を応用。潮流や海流、河川、水路などの水の流れで振り子を振動させて発電する世界初の発電システムだ。プロペラ回転方式の潮流発電装置に比べると、円柱などのシンプルな形状の振り子を用いるため耐久性が高く、低コストなのが特徴。

発電用振り子はゆっくり振動するため、藻が絡みにくくフィッシュストライクで魚を傷つけることもない。発電時に振り子が揺れることで海中の栄養塩を撹拌(かくはん)する作用もあり、魚を増やす効果も期待できるという。環境にも魚にもやさしい水中発電装置だ。

瀬戸内海では、最大で秒速5m(時速18km)程度の潮流が流れている。潮流発電に最適とされる、水深があり潮流が早い海域でなくても、十分な発電能力を発揮するという。


観測装置と組み合わせて防災にも活用

発電水域の選択幅が大きいため、設置場所を選ばないのも魅力だ。日本近海だけで原子力発電所20基相当の潮流エネルギーが存在する。風力発電や太陽光発電と違って気象条件に大きく左右されない海洋水流発電は、国産再生可能エネルギーの中でも極めて有望だ。同社では Hydro-VENUSで得られる電力を「里海エネルギー」と名付け、電力の地産地消を目指す。

屋外観測装置としての利用にも取り組んでいる。香川県三豊町の香川用水では、Hydro-VENUSと測定器、データ通信装置を組み合わせた直径7.6cm、長さ50Cmの測定ユニット10台を水路に係留。水流で発電した電力を用いて、用水流量の計測とデータを送信する実証実験に取り組んだ。電源が確保できない河川でも遠隔測定が可能で、河川氾濫(はんらん)などの防災に役立つ。

2023年10月には経済産業省中国経済産業局と中国地域ニュービジネス協議会が運営するスタートアップ支援プログラム「J-StartupWWEST」の第1回「J-Startup WEST選定企業」に選ばれた。11月18日には岡山市の岡山芸術創造劇場ハレノワで「選定企業お披露目式典」に登壇する。

文:M&A Online