トヨタ自動車<7203>が10月20日、2025年から電気自動車(EV)に米テスラが提唱する北米充電規格(NACS)を採用すると発表した。これによりレクサスを含むトヨタのEVは、テスラが北米で1万2000基以上展開するスーパーチャージャー(急速充電設備)を利用できるようになる。世界販売台数トップのトヨタがNACSを採用することで、国産EV充電規格の「チャデモ(CHAdeMO)」の先行きが懸念される。
かつては世界を先導していた「チャデモ」
北米を中心に自社規格の急速充電器の設置を進めていたEV世界最大手のテスラが、他社製EVへの充電を解禁。これを受けて2023年5月の米フォード・モーターを皮切りに、6〜10月に独BMW、米ゼネラル・モーターズ(GM)、韓国の現代自動車グループ、独メルセデス・ベンツ、英ジャガーランドローバー、スウェーデンのボルボ・カーズなど自動車大手が相次いでNACSの採用を決めた。
チャデモを採用していた日本勢のホンダ<7267>や日産自動車<7201>もNACSを採用すると発表している。トヨタ車ではEVの「bZ4X」とプラグインハイブリッド車(PHV)の「プリウスPHV」でチャデモを採用していた。国内最大手のトヨタまでもがNACSを採用したことで、チャデモは事実上、世界標準の地位を失うことになる。
世界に先駆けて日本車メーカーの三菱自動車<7211>が「i-MiEV」、日産が「リーフ」を発売したこともあり、国産EVに対応したチャデモは初期のEV充電ステーションとして高い評価を得た。2010〜2018年にかけてはチャデモ対応のEV販売台数が世界シェアの22%を占め、世界で最も普及した規格だった。2014年4月の国際電気標準会議(IEC)で、チャデモはEV急速充電規格の国際標準の一つとして認定されている。
「コンボ」との規格争いのうちに、ダークホースのテスラが席巻
しかし、その後は国産EVの新型車投入が停滞している間に海外でEVの開発ラッシュが起こり、2020年以降は欧米や中国が提唱した充電ステーションの新方式に、充電速度や小型軽量化といった技術面で取り残された。すでに日本車メーカーでも海外向けのEVにはチャデモではなく、欧米規格の「コンボ(CCS)」を採用している。
一時はチャデモとコンボとの世界標準争いで「コンボが有利」と見られていた充電方式だが、テスラの「乱入」により、わずか1年で「世界標準に背を向けた独自規格」だったはずのNACSがデファクトスタンダード(事実上の世界標準)で全面勝利を迎えそうな勢いだ。
あと一歩のところで世界標準を逃した「コンボ」はアダプタを使えばNACS方式での充電も可能だ。一方、NACS規格のテスラ車にはチャデモ方式のステーションでも充電可能なアダプタはあるが、その逆であるNACS方式のステーションでチャデモ規格のEVに充電するアダプタは存在しない。
いずれこうしたアダプタが発売される可能性はあるが、既存EVのユーザー向けのオプションになるだろう。新車ではチャデモ規格の充電口が廃止され、NACS規格に入れ替わることになりそうだ。「日本発の世界標準」として期待されたチャデモだが、残念ながらその役割を終えつつある。
文:M&A Online