仏ルノーの電気自動車(EV)新会社「アンペア(Ampere)」が11月1日に立ち上がり、2024年前半に新規株式公開(IPO)を実施する見通しとなった。アンペアの最高経営責任者(CEO)を兼務するルノーのルカ・デメオCEOは9月に、フィナンシャル・タイムズのインタビューで「アンペアの評価額は80億から100億ユーロ(約1兆3000億〜1兆6000億円)になる」との見通しを示しているが、果たしてどうなるか?

欧州金融筋の評価はルノーの半分、「高級EV戦略」を疑問視

ルノーの強気な予想とは裏腹に、欧州金融筋の評価は50億ユーロ(約8100億円)前後と低い。スイスUBSのアナリストは40億ユーロ(約6500億円)と見積もっている。フランスで生産されるEVの製造コストが割高で、アンペアが高価格帯のEVを主力とする経営戦略を立てていることが低評価の根拠だ。

欧州金融筋のアナリストたちは、EV市場が拡大するにつれて販売のボリュームゾーンが高級車から低価格帯の大衆車へシフトしていると指摘。事実、これまで高級車戦略を採用してきた米テスラは大胆な値引きを断行し、中国BYDは大衆車セグメントに注力してシェアを伸ばしている。

ドイツのベンツやBMWのような高級車のブランドイメージがないルノーの子会社が、今ごろになって高価格帯のEVで市場参入しても競争には勝てないという見立てだ。確かにトヨタ自動車<7203>の「bZ4X」(550万〜650万円)や日産自動車<7201>の「アリア」(539万〜790万円)といった、大衆車メーカーが生産する500万円超のEV販売は割高感から伸び悩んでいる。


アンペアのIPOが不調に終われば、日産・三菱にも大打撃

アンペアの経営陣18名には、CEO以外もルノーの上級幹部が就任。エンジン車中心の戦略にどっぷり浸かったトップマネジメントが、全く畑違いのEVで激変する市場環境に対応できるのかとの懸念もある。

アンペアには日産が最大6億ユーロ(約970億円)、同社傘下の三菱自動車<7211>が同2億ユーロ(約320億円)を出資することが決まった。アンペアの株価は両社の財務にも影響を与える。

さらにはアンペアの上場に伴い、EV部門を失ったルノーの株価に悪影響をもたらすとの見方も根強い。ルノーの株価が下落すれば、同社株の15%を持つ日産にとっても大きな痛手だ。

アンペアのIPOでの資金調達が不調に終われば、設備投資にも暗い影を落とす。すでに自動車大手が巨額の資金を投入してEV増産に向けた準備を加速する「設備投資合戦」の様相を呈している。同社が市場競争から脱落すれば、ルノーのみならず日産と三菱自動車のEV戦略は完全に崩壊するだろう。アンペアのIPOは日本車メーカーの命運も握っているのだ。

文:M&A Online