粘着テープメーカーの寺岡製作所<4987>をめぐるTOB(株式公開買い付け)の行方に黄色信号が灯っている。同社株は先週後半、TOB価格の564円を大幅に上回る高値圏に突如突入した。株価上昇の引き金はほかでもない旧村上ファンド系の投資会社、シティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)による株式の大量保有だ。

旧村上系の保有は7%超に

寺岡製作所へのTOBが始まったのは10月31日。このTOBは創業家出身で現会長の寺岡敬之郎氏が主導し、MBO(経営陣による買収)を通じた株式の非公開化を目的とする。買付代金は最大135億1500万円で、TOBとしては中規模案件となる。

寺岡製作所株の買付価格は1株564円で、TOB開始前日の終値386円に46%のプレミアムを乗せた水準だった。筆頭株主の伊藤忠商事も保有する26%余りの株式のすべてをTOBに応募することを決めていた。

株価はTOB初日にストップ高となり、3日目の11月2日の終値は560台まで跳ね上がった。その後は、TOB価格の564円をはさんでもみ合う展開だったが、16日は一時628円の今年最高値を付け、終値も616円に急伸。

発端と見られるのが前日15日、旧村上系のシティインデックスイレブンスが提出した大量保有報告書で、寺岡製作所株5.78%の新規保有が判明したこと。旧村上系の“参戦”で相場の値上がりを見越して思惑買いを誘った形だ。

週明け20日の終値は前営業日比5円安の603円。大半の株主にとってはTOBに応募するよりも市場で売却した方が有利な状態となっている。さらにシティが同日提出した変更報告書で、寺岡製作所株を1.36%買い増し、保有比率が7.14%に高まったことが分かった。

TOB期間は12月13日まで。まだ日にちは残されているものの、現在の株価が続けば、TOBの成立は極めて困難だ。場合によっては買付価格の引き上げが選択肢の一つとなる。

シティは保有目的について「投資および状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為などを行うこと」としている。今のところ、寺岡製作所側に対し、株主要求など表立った動きはないが、水面下では対話を求めるなど何らかのアクションがあるとみられる。

焼津水産TOB、不成立の一因にも

実は、旧村上系絡みではこの10月に、TOB不成立に追い込まれたケースが起きたばかり。焼津水産化学工業<2812>に対して国内投資ファンドのJ‐STAR(東京都千代田区)が実施したTOBがそれだ。

TOB期間中に、旧村上系の別の投資会社、南青山不動産(東京都渋谷区)が10%超まで焼津水産株を買い増したほか、シンガポール投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズによる10%近い大量保有が判明。こうした中、焼津水産の株価は買付価格を上回る高値圏で終始したことが響いた。

文:M&A Online