次世代原子炉として期待されている「小型モジュール炉(SMR)」の開発が頓挫した。米原子力スタートアップのニュースケール・パワーが米アイダホ州で進めていたSMR建設が中止されたのだ。原子炉本体を小型化することにより、規格化した量産モジュールを現場で組み立て、原子力発電所の建設コスト削減を狙ったが、セールスポイントだった経済性でつまずいたという。

最大の「売り」だった経済性で大きな期待外れ

同社が開発中のSMRの出力は7万7000kW。アイダホ州の新原発ではこれを6基設置して46万2000kWを発電する計画だった。日本の原発は最も小出力の北陸電力志賀原発1号機単体でも54万kWなので、いかに小さいかが分かる。なぜ「小さい原発」が業界の期待を集めたのか?

M&A Online

(画像=ニュースケール・パワーが開発中の小型原子炉=完成想像図(同社ホームページより)、「M&A Online」より引用)

SMRは増大する原発の建設コストに対応するため、「安上がりの原子炉」を目指して開発が始まった。東京電力福島第一原発事故を受けて世界各国で原発の安全規制が強化されており、建設費が高騰している。

既存の大型原子炉の建設費が1kW当たり5000ドル(約74万2000円)以上なのに対して、同社のSMRでは同3000ドル(約44万5000円)を下回るとしていた。これにより発電コストも低減。2021年7月の日本経済新聞とのインタビューで、ニュースケール・パワー幹部が1kWh当たり4.5~6.5セント(6円68銭〜9円64銭)と、国内原子力発電コストの11円よりも低く抑えることができると明言している。

SMRでは原子炉本体をプールに沈めておくことも可能で、安全性の高さもアピールしていた。万が一、原子炉にトラブルが生じても大量の水で放射線を閉じ込めることができ、持続的な冷却も可能だからだ。

しかし、実際の発電コストは同8.9セント(約13円20銭)と、既存の大型原発よりも割高になることが判明。これは2020年時点の国内太陽光発電の同12円90銭よりも高く、2030年での同発電予想コストの8円20銭〜11円80銭(資源エネルギー庁調べ)を大きく上回る。採算性ではお話にならない。


今後の資金調達が小型原発実現に向けた「最大の課題」に

セールスポイントだった経済性に疑問符がついたことで、ユタ州関連自治体電力システムズ (UAMPS)と共同で進めていた世界初のミニ原発を建設する「カーボンフリー電力プロジェクト (CFPP)」 は打ち切られた。

原子炉のようなエネルギープラントの場合、規模が大きいほど発電効率は高まる。国内で建設・計画中の新原発が137万3000〜159万kWと大型なのもそのためだ。一方で50万kW級以下の小型原発は老朽化や経済性の悪さから廃炉されている。SMRの経済性については、早くから疑問の声があがっていた。

ニュースケール・パワーは2022年5月に特別買収目的会社(SPAC)の逆合併を通じてニューヨーク証券市場に上場。しかし株価は伸びず、2022年8月24日に最高値の15ドル32セント(約2258円)をつけてからは下落が続いていた。これは投資家が、SMRの実用化に疑念を抱いていたことにほかならない。

2023年9月に中部電力がニュースケール・パワーに出資したが、11月8日にSMRの建設中止が発表されると株価は急落。同9日には2ドル08セント(約307円)まで下がっている。中部電のほかにも日揮ホールディングスやIHIなど、日本企業がニュースケール・パワーに100億円以上を出資しており、技術、株価ともに期待を裏切られた格好だ。報道によると、中部電らはニュースケール・パワーが開発している他のSMRでの事業進捗を注視しているという。

ニュースケール・パワーは2007年の設立当初から、資金調達に苦労してきた。2011年1月には筆頭株主の米ケンウッドグループが、他社投資でのポンジスキーム(新たな投資家から得た資金を旧来の投資家への配当などに充てる詐欺行為)が露見して有罪に。同グループから追加資金を得られなくなったため、従業員のほとんどを解雇した過去がある。

2022年の純損益は1億4200万ドル(約209億円)の赤字。CFPPの中止により黒字転換は遅れ、株式市場での資金調達もより困難になるだろう。もしもニュースケール・パワーの経営が傾くようなことがあれば、「小型原子炉フィーバー」は一気に冷めることになりそうだ。

文:M&A Online