地震保険の仕組み
地震は発生頻度や大きさを予測するのが難しいうえ、ひとたび大きな地震が起きれば、甚大な被害が想定されます。地震の規模によっては、広範囲にわたって家屋の損傷や倒壊が起こる可能性も高いことが予想されます。
地震保険は、火災保険とセットでの契約が必要です。地震保険は、被災者の生活の安定に寄与することを目的として、民間保険会社が負う地震保険責任の一定額以上の巨額な地震損害を政府が再保険することにより成り立っています。政府が関与することにより、契約者は低い保険料で地震保険に加入でき、万一のときの補償を受けることができるのです。ただ、官民一体の制度で行われる保険ならではの特徴もあります。
保険料は契約先の保険会社に関係なく一律
地震保険の保険料は、利潤や不足を生まない“ノーロス・ノープロフィット原則”で算出されています(地震保険法第5条)。民間の保険会社と政府が共同で行う公共性の高い保険であることから、保険料に保険会社の利潤は含まれず、どこの保険会社で契約をしても一律の保険料額となっています。
なお、地震保険の保険料は、文部科学省の機関である地震調査研究推進本部による地震発生データ(震源モデル)をもとに、将来支払う保険金をシミュレーションして算出しているため、地域によって保険料率が異なります。
保険の内容が法令で決められている
地震保険の保険料は、併せて加入する火災保険の保険金額の30~50%の範囲内、保険金の限度は建物が5,000万円、家財は1,000万円までと法令で定められています。支払われる保険金の額を決める損害の認定基準も、以下のように決まっています。
損害の程度 ※1 | 認定基準 ※2 | 保険金の額と限度 | |
建物 | 家財 | ||
全損 | 主要構造部の損害額が建物の時価額の50%以上 もしくは 焼失、流失した部分の床面積が建物の延床面積の70%以上 |
家財の損害額が家財の時価額の80%以上 | 地震保険金額の100% ただし時価額が限度 |
大半損 | 主要構造部の損害額が建物の時価額の40%以上50%未満 もしくは 焼失、流失した部分の床面積が建物の延床面積の50%以上70%未満 |
家財の損害額が家財の時価額の60%以上80%未満 | 地震保険金額の60% ただし時価額の60%が限度 |
小半損 | 主要構造部の損害額が建物の時価額の20%以上40%未満 もしくは 焼失、流失した部分の床面積が建物の延床面積の20%以上50%未満 |
家財の損害額が家財の時価額の30%以上60%未満 | 地震保険金額の30% ただし時価額の30%が限度 |
一部損 | 主要構造部の損害額が建物の時価額の3%以上20%未満 もしくは 全損、大半損、小半損に至らない場合 床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水 |
家財の損害額が家財の時価額の10%以上30%未満 | 地震保険金額の5% ただし時価額の5%が限度 |
※1 損害の程度が一部損に至らない場合、保険金は支払われない
※2 建物と家財はそれぞれ別に損害の程度が認定される
不動産投資でマンション1戸を所有する際にかける火災保険および地震保険は、所有する専有部分となります。建物の共用部分は、マンションの管理組合の判断によって地震保険に加入するかどうかが決まるため、所有者1人では決めることができません。
不動産投資における地震保険のメリット・デメリット
阪神・淡路大震災を上回る被害も予想されるマグニチュード7クラスの首都直下地震や、東日本大震災を上回るとも予測されるマグニチュード8から9クラスの南海トラフ巨大地震などが今後30年以内に起こる確率は70%ともいわれています。地震保険は加入に値すると感じる方も多いでしょう。
参照:地震災害 : 防災情報のページ - 内閣府
参照:南海トラフ巨大地震、首都直下地震の被害と対策に係る映像資料【首都直下地震編】 : 防災情報のページ - 内閣府
ただし、不動産投資用として所有するマンションの場合は、加入するべきか悩む方も少なくないようです。判断に迷ったときは、不動産投資用のマンションにおける地震保険のメリットとデメリットを理解したうえで検討するのが望ましいでしょう。
不動産投資における地震保険のメリット
不動産投資用のマンションをローンで購入し、返済し終わらないうちに地震が発生して被害に遭った場合、ローンの残債に加えてマンションの修復費用なども必要になります。
建物が万が一全損した場合はもちろんのこと、大半損・小半損となったときなどは貸し出すこともできなくなるため、収益すら見込めなくなってしまうでしょう。
地震保険は、被害を受けたモノを再購入・再築するという一般的な損害保険の考え方とは違い、被災後の生活再建のために保険金を使うという目的の保険です。元どおりにするまでの補償はなくとも、地震保険に加入していれば、修復費用やローンの返済に充てることができます。
また、地震保険は、確定申告の際に不動産投資事業の経費として計上できます。
不動産投資における地震保険のデメリット
保険料は高くなる傾向にあります。2017年に全国平均+5.1%、2019年に全国平均で+3.8%、2021年1月は全国平均で+5.1%の値上げとなりました。保険期間は最長で5年ですが、長期契約の割引率も下がります。
なお2022年10月の改正では、耐震性の高い住宅の普及などにより、全国平均で0.7%の引き下げとなりました。
地震保険の加入方法
前述のとおり、地震保険は単体で加入することができないので、地震保険に加入したいときは、まず火災保険に加入する必要があります。不動産投資ローンを利用して不動産を購入する場合には、火災保険への加入を条件にしている金融機関は多いです。
地震保険の保険金額は「火災保険の保険金額の30~50%」と決められており、保険金額によって受け取れる保険金の利率も変わってくるため、マンションの購入価格や投資における損益などから、総合的に判断する必要があります。
なお、地震保険は、火災保険の加入時ではなくとも、後から加入することが可能です。ただし、地震発生のリスクが高まっているときなどは、途中から加入できない場合もあるので、注意が必要です。
集合住宅であるマンションの場合、隣り合う部屋同士でも被害に差が出ることがあり、受け取れる保険料が異なる場合があります。また、同じ部屋でも建物と家財で認定が異なる場合もあります。
地震保険への加入を検討するときは、建物に対する保険か、家財への保険か、事前に確認しておくことをおすすめします。
まとめ
2011年に発生した東日本大震災を機に地震保険を検討する動きも高まりましたが、普及率はまだそれほど高くないのが現状のようです。とはいえ、地震はいつどこで起こるかわかりません。不動産投資用マンションを負の財産としないためにも、ほかの投資リスクと併せてじっくり検討する必要があるでしょう。
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