都市スマートモビリティで重要な役割を果たすと期待されている「eVTOL (電動垂直離着陸機)」。日本においても2025年の運航開始が予定されているなど、市場が本格化の兆しを見せています。本記事では、海外の最新動向や課題にをレポートします。
Evtolとは
「空飛ぶ車」とも呼ばれるeVTOL (Electric Vertical Take-off and Landing)は滑走路を必要とせず、プロペラやローターを駆使して離着陸を行い、ホバリング(※)や水平飛行ができる電気モーター式の短距離用小型航空機です。
(※)空中で停止した飛行状態のこと。
主に人口密度の高い都市部上空で乗客や貨物を移動させることを目的に開発が進められており、空飛ぶタクシーからドローン宅配、緊急搬送に至るまで多種多様な用途への応用が期待されています。
現時点で開発されている設計モデルは、以下の3タイプです。
【タイプ1】チルト・スラスト:位置変更可能なプロペラを使用して航空機を空中に浮かせ、上昇後は固定翼が揚力を発生させる。
【タイプ2】リフト・アンド・クルーズ:プロペラで揚力を得て固定モーターで前進する。
【タイプ3】マルチコプター:複数の固定ローラーを使用して上昇揚力と前進推力を得る。
世界の最新開発・導入動向
一部の国はeVTOLの実用化へと大きく前進しています。ここでは3つの最新事例を紹介します。
UAE:米英eVTOL関連企業3社が市場参入
米eVTOLメーカー、アーチャー・アビエーション とジョビー・アビエーション、英eVTOLインフラ企業スカイポーツ・インフラストラクチャーが、それぞれアブダビとドバイでeVTOLタクシー事業を設立する契約をアラブ首長国連邦(UAE)当局と締結しました。早ければ2025~26年に初期運航を予定しており、UAEが世界のeVTOLタクシー市場をリードする存在となる可能性が急速に強まっています。
中国:国内外で存在を増すイーハン
中国においては、旅客ドローンメーカーのイーハンが中国民用航空局(CAAC)から型式証明を取得しました。同社のEH216-Sモデルは16個のプロペラを装備したeVTOLで、乗客2人乗りの際の最高時速は130キロ、最大航続距離は30キロ。広範囲な信頼性・安全性テストをクリアし、耐ハッキングセキュリティソフトも搭載しているほか、必要に応じて遠隔操作を行うことも可能です。
ドイツ:リリアムが設計・開発から量産へ前進
eVTOLジェット機を開発するドイツのリリアムは欧州航空安全機関(EASA)から設計組織承認(DOA)を取得し、独自に開発中の7人乗りeVTOLジェット機「リリアムジェット」の生産を開始しました。これは、同社のプロジェクトが設計・開発フェーズから量産フェーズへステップアップする分岐点に達したことを意味します。
政府・民間の両方で投資が拡大
すでに欧米やUAE、シンガポール、日本、インドネシア、オーストラリアなどの国の政府が、航空分野の脱炭素化に向けた取り組みの一環として、eVTOLを含む先進的な航空機動性(AAM)の開発を支援しています。しかし、実用化にはさらなるインフラや技術への投資が不可欠となることから、政府・民間の両方で投資拡大することが予想されます。
市場調査企業マーケッツ・アンド・マーケッツの予想によると、このような投資拡大が追い風となり、eVTOL市場は2023~30年の期間にCAGR(年平均成長率)52%で成長し、234億ドル(約3兆5,100億円)規模に達する見込みです。
今後の課題は?
一方で、2024年のパリ・オリンピックを機に計画されていたeVTOLの試験商用化が、環境汚染や騒音を理由にパリ市議会で却下され、英eVTOL大手バーティカル・エアロスペースの5人乗りeVTOLの試作機が墜落事故を起こすなど、実用化に向けた課題が浮き彫りになっています。今後は安全性や運航基準などを含め、規制整備が重要課題となるでしょう。
また、化石燃料ベースの移動手段より環境負担が少ないとされている一方で、実用後に運航数が増加した場合の影響も懸念されています。現時点における対策として、バーティポート(※)に太陽光パネルを設置するなど、再生可能エネルギ―の利用が促進されています。
(※)eVTOL用の離着陸所。
空の移動手段が大きく変わる
最新の開発動向を見る限り、日本を含む多数の国において実用化が目前に迫っているようです。旅客から貨物まで、空の移動手段が大きく変わることが予想される現在、投資の観点からも引き続き注目したい領域です。Wealth Roadでは、今後もeVTOL市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=150円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買及び投資を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)