IPOではなくオープンイノベーションを選んでいれば…
ところが蓋(ふた)を開けてみるとSPACの99%が償還され、1億6000万ドル(約236億円)あった資金は160万ドル(2億3600万円)に目減り。そのためPONOは1株16ドル(約2360円)を予定していた初値を同1ドル(約147円)に値引きした。1ドル上場の結果、IPOで調達できたのは500万ドル(約7億3800万円)に留まった。
2月に合併後の初市場取引が始まるが、PONO側がIPO費用を捻出するために一時は15ドル(約2200円)を超えていた同社株を大量に売却した結果、市場取引が始まった翌週には1ドル台、3月以降は1ドルを割る。IPOによる資金調達が期待を大きく下回った結果、A.L.I.は深刻な資金難に陥った。同月には創業者の小松氏が解任されている。
A.L.I.は新たなスポンサー探しに奔走するが、1カ月に2億円近い資金を必要とする同社に手を差し伸べる会社は、ほとんどなかった。これにはナスダックでの株価低迷がブランドイメージを毀損(きそん)した影響もあった。すでにポストコロナの景気過熱で金利が上昇、これまで次世代テクノロジーベンチャーを支えてきた余剰資金も枯渇している。
そこで手を差し伸べたのがIPOを成功させた実績を持つ投資家のキーラン・シドゥー氏。シドゥー氏は巨額出資の引き換えにAERWINSの取締役ポストを要求。同5月にシドゥー氏ら3人が新取締役に名を連ねる。ところが取締役に就任したシドゥー氏らはAERWINS株の希薄化をたてに出資の約束を果たさず、ついにA.L.I.は資金面で行き詰まった。
A.L.I.はナスダック上場で「起死回生」を図ったが、むしろそれが「命取り」になった格好だ。すでに実用機のリリースを目前としていた同社がIPOではなくオープンイノベーションによるM&Aを選択していれば、結果は変わっていたかもしれない。
文:M&A Online