孫への贈与に使える制度のメリットや注意点を紹介!年間110万円まで・教育費や生活費は非課税?
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目次

  1. 孫への贈与とは 
  2. 贈与税の計算方法
  3. 孫への贈与を非課税で行う方法
  4. 孫への贈与4つのメリット
  5. 孫への贈与での注意点 6つ
  6. 贈与を行うときは家族間のコミュニケーションを十分に行う
  7. 孫へ贈与する場合は贈与税の非課税制度が利用できる

「かわいい孫に財産を残したい」と考えることもあると思います。ずっと幸せな生活が続くように資金面でサポートしてあげたいですね。

おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなったとき、お孫さんは財産を法律上相続する権利がありません。しかし、あらかじめ準備ができる方法のひとつが贈与です。

この記事では、孫に贈与する方法やそのメリット、注意点を解説します。

孫への贈与とは 

贈与とは、自分の財産を無償で贈ることです。相手に「贈ります」という意思を伝えて、相手が「受け取ります」とそのことを承諾すること、受け取った側が自分で管理することによって成立するものです。

年間に110万円を超える贈与の場合は、贈与税の支払いが必要になります。贈与税は、贈与により財産を得た人に課せられる税金です。財産をタダでもらった人にかかる税金です。

贈与が行われた場合は贈与税が発生する可能性があることはご存じの方もいらっしゃると思いますが、祖父母から孫への贈与であっても贈与税の課税対象となります。

贈与税のことを考えることなく実行してしまうと、孫に贈与税を負担させてしまう可能性があります。

しかし、すべての贈与について贈与税が発生するわけではありません。孫への贈与に関する基本的事柄を確認しておきましょう。

贈与税の計算方法

1月1日から12月31日までの1年間に、110万円以下の贈与額なら贈与税がかからないという仕組みがあります。その仕組みを活用した贈与の方法を暦年贈与といいます。

では、いくら贈与するといくら贈与税がかかるのでしょうか。贈与税の基本的な計算方法はこちらになります。

贈与税額 =(贈与を受けた額-110万円)× 税率 - 控除額110万円

暦年課税による生前贈与では、「特例贈与財産用」(特例税率)と「一般贈与財産用」(一般税率)の2種類があり、誰が贈与者(贈る側)で誰が受贈者(受け取る側)かによって税率が異なります。

特例贈与財産用(特例税率)

贈与税の特例贈与財産用の速算表は、父母や祖父母など(直系尊属)から18歳以上の子や孫など(直系卑属)へ贈与が行われた場合に使われるものです。兄弟や第三者からの贈与の場合よりも税率は低くなっています。

基礎控除後の課税価格200万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下4,500万円以下4,500万円超
税率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額-10万円30万円90万円190万円265万円415万円640万円

例えば、贈与された財産が500万円の場合の贈与税額は(500万円-10万円)×15%=48.5万円となります。

一般贈与財産用(一般税率)

贈与税の一般贈与財産用の速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない間柄で贈与が行われた場合に使われるものです。

兄弟間の贈与や夫婦間の贈与、直系尊属以外の親族からの贈与、第三者からの贈与、直系尊属からであっても贈与を受けた年の1月1日現在に子や孫が未成年の場合に使われます。

基礎控除後の課税価格200万円以下300万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下3,000万円超
税率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額-10万円25万円65万円125万円175万円250万円400万円

贈与された財産が500万円の場合の贈与税額は、
(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円となります。

孫への贈与を非課税で行う方法

贈与は年間110万円まで非課税になります。ほかにも非課税の特例が設けられており、支払う税額は、特例を使わなかった場合と比べると大きく違ってきます。ぜひ上手に活用してください。

孫の教育費の贈与

祖父母が孫の教育費や生活費を支払う場合、必要に応じて都度支払われるものには贈与税は課されません。ただし、一度に多額の教育費を贈与する場合は、贈与税の課税対象になる可能性があります。

その場合には、「教育資金の一括贈与にかかる非課税の特例」という制度を使えば、課税されずに孫に教育資金を贈与できます。

30歳未満の子や孫に、一定の教育資金として認められている費用を支払うための贈与であれば、1,500万円まで贈与税は課されません。

ただし、30歳になったときに学生ではなく、贈与された財産を使いきれなかった場合は、残った金額には贈与税が課されますので気をつけましょう。期間の途中で贈与する側の祖父母が亡くなった場合は、残った金額に相続税が課されることもあります。この制度は、令和5年度税制改正によって令和8年3月31日まで延長されることになりました。

孫の住宅取得資金の贈与

孫が住宅を購入するときに、財産を贈与したいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。住宅の購入資金には、「住宅取得資金の非課税の特例」という制度を活用すると贈与税を非課税にできます。

子や孫が18歳以上で、贈与を受けた年の所得金額が2,000万円以下、購入等をした家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下なら対象になります。

一定の耐震性、省エネルギー性、バリアフリー性に適合した住宅は1,000万円まで、それ以外の住宅は500万円まで贈与税が課されません。

この制度は、令和6年度税制改正によって、令和8年12月31日まで延長されることになりました。

孫の結婚・子育て資金の贈与

孫が結婚や子育てで使う資金を贈与したい場合は、「結婚・子育て資金の一括贈与にかかる非課税の特例」という制度を使うと一括で1,000万円まで贈与税が課されません。

そのうち結婚資金の非課税額は300万円までです。18歳以上50歳未満で、孫の前年の所得が1,000万円を超えない場合に活用できます。

ただし、孫が50歳になったときに贈与された財産が残っている場合は、贈与税の課税対象になります。

贈与された財産を使いきる前に贈与者が亡くなったら、残額は相続税の課税対象になります。この制度は、令和5年度税制改正によって、令和7年3月31日まで延長されることになりました。

相続時精算課税制度による贈与

孫にまとまったお金を贈りたい、不動産を生前贈与したい、などとお考えの方は、「相続時精算課税制度」を使うと贈与税・相続税を節税しやすくなります。

60歳以上の祖父母から18歳以上の孫へ贈与をする際に、2,500万円までの財産には贈与税が課されません。

贈与された土地や建物が災害によって一定程度被災した場合は、被災した価格を控除して見直されます。

相続時精算課税制度を選択すると、暦年贈与に戻すことはできません。

この制度は、令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以降に贈与された財産に基礎控除額110万円が新たに加算されることになりました。

不動産小口化商品による贈与

不動産を生前贈与する場合には、贈与税の課税対象となる財産評価額が現金を贈与する場合と比べて下がる傾向にあります。

不動産の評価額は、原則として固定資産税評価額を用います。評価額は建物の場合は、建築費の5~6割ほど、土地は7割ほどが目安となります。

不動産を購入するには高額な資金が必要になりますが、不動産小口化商品なら購入しやすく、現物を購入した不動産と同じように扱われるので、財産の評価額を低くできる可能性があります。

長期運用が可能で、孫が複数人いる場合にも分割しやすいというメリットもあります。

孫への贈与4つのメリット

親の財産は子に贈与したり相続させたりすることが一般的です。孫に生前贈与する場合、子に贈与するよりメリットがあるのは以下のような点です。

1.孫への贈与には7年以内贈与財産の加算の適用がない

令和5年12月31日までは、暦年課税制度によって、相続が開始される日(亡くなる日)から3年以内に贈与された財産は、相続財産に加算されて相続税の課税対象になります。

令和6年1月1日以降に贈与される財産は、加算期間が7年に延長されます。延長された4年間に贈与された財産は、そのうちの100万円のみ相続財産に加算されません。

しかし、7年以内の加算は、相続人でない孫への贈与には適用がありません。孫へ贈与することで将来の相続財産を減らすことになりますので、相続税を節税できます。

2孫への贈与は相続税の節税対策になる

相続税の課税対象にならない基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)という計算式で算出されます。相続税は、基礎控除額を超えた部分の財産に課税されます。

親に上記の算出額以上の財産がある場合は、子が相続する場合に相続税を支払います。生前に孫への贈与を行っておくと、相続税を節税できます。

3.孫への贈与は相続税を一世代回避できる

親の財産を子が相続する場合に子は相続税を支払います。子が相続した財産はその子ども、つまり孫が相続税を支払うことになります。したがって、親の財産は、孫が相続するまでに相続税を2回課税されることになります。

その財産は子が亡くなったときの子から孫への相続の際に相続税の課税対象にならないので、相続税を一世代回避できて相続税を節税できます。

4.孫への贈与は計画的に贈与できる

孫の成長のためにはお金がかかります。そのお金を祖父母が援助したい場合、誰に・いつ頃・どのくらいの財産を贈るか、などということを計画的に決めることができます。一括で贈与することも、長期間にわたって贈与することも可能です。

孫への贈与での注意点 6つ

孫への贈与には数多くのメリットがあります。ただし、贈与を受けたら贈与税が非課税になる制度を活用していても、贈与税の申告は必要です。

申告は孫が行うことになりますので、制度の仕組みを話しておきましょう。また、以下の点には注意してください。

1.贈与契約書を作成する

暦年贈与の場合、毎年の贈与額が110万円以下なら贈与税の申告は必要ありません。しかし、贈与があったことを証明するために、贈与の都度、贈与契約書を作成しましょう。

贈与契約書を作成することで、贈与契約の内容を明らかにできます。

そのため、「言った」「言わない」など当事者間でのトラブルの予防、相続が開始されたときの遺産分割協議での親族間トラブルの予防、税務調査などが行われたときに贈与があったことが証明できる、などのメリットがあります。

2.通帳等は贈与を受けた側が管理する

祖父母から未成年の孫に生前贈与を行いたい場合もあるでしょう。孫が未成年の場合は、親が親権者として代わりに契約することになります。

未成年者への贈与では、税務署の調査などで問題になるケースがあります。孫が幼児など未成年の場合は、祖父母から受け取った財産を自分の意志で管理、使用することは難しくなります。

受け取った財産は、親権者である孫の親が管理することになります。

親権者がその財産を私的に使用している実態がある場合は、祖父母から子(孫の親)へ贈与したとみなされる可能性があります。

また、税務署の調査では、孫への贈与が行われたのではなく、祖父母が孫の名義で預金しているものという疑いを問われる可能性があります。

その通帳を孫が管理していれば問題はありませんが、祖父母が管理している場合は生前贈与とみなされません。

3.定期贈与とみなされないようにする

定期贈与とは、毎年一定額の贈与を行うことがあらかじめ決まっている贈与をいいます。

100万円を10年にわたって贈与した場合、基礎控除額以内の贈与を10回行ったのではなく、1,000万円という財産を毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与した定期贈与とみなされる可能性があります。

その場合は、1,000万円を贈与すると決めた年に全額贈与したとして、1,000万円に対して贈与税が課されます。

定期贈与とみなされないようにするには、贈与を行う都度、贈与契約書を作成することが有効です。また、贈与する金額、贈与する時期を毎年異なった金額、異なった時期にすると良いでしょう。

4.暦年課税による生前贈与の加算の対象になる場合がある

祖父母が孫と養子縁組をした場合、孫養子となり孫は子として取り扱われます。

そのため、令和6年1月1日以降の暦年課税による生前贈与の場合、相続開始前7年以内に贈与を受けた財産は、相続税の課税価格に加算されることになります。

祖父母の相続の前に孫の父母が亡くなって、孫が子の代襲相続人となっている場合も相続開始前7年以内に贈与を受けた財産は、相続税の課税価格に加算されます。

また、遺言書に孫が財産を受け取ることが記載されている場合や、祖父母が契約している生命保険の死亡保険金の受取人が孫になっている場合も同様の扱いになります。

5.孫の学費や生活費を支払う場合でも贈与税が課される可能性がある

祖父母が、孫の教育費や生活費を支払う場合、贈与税は課されません。

このときの「教育費」は、学費、教材費、文具費などが含まれます。「生活費」とは、日常生活にかかる費用で、治療費や子育てに関する費用なども含まれます。

世帯によって生活にかける費用は異なりますので、一概にいくらとは定められていません。社会通念上、日常の費用として合っているかどうかです。

しかし、生活費や教育費として受け取った財産であっても、それを預金したり金融商品などを購入したりする場合などは、贈与税の課税対象になります。

6.孫の学資保険は、受取人によって贈与税を課される可能性がある

孫の学費の準備として、祖父母が学資保険を契約し、契約者となることもあるでしょう。

孫の学資保険の契約をする際には、孫の親(親権者)の同意が求められます。また、受取人を誰にするかによって、課される税金が変わってきます。

受取人を孫や孫の親とした場合には贈与税が課される可能性があります。

契約者祖父母祖父母祖父母
被保険者
受取人祖父母孫の親(親権者)
税金の種類所得税贈与税贈与税

贈与を行うときは家族間のコミュニケーションを十分に行う

孫が複数人いる場合、孫同士で不平等感が生まれると、もめごとが発生する可能性があります。

同じように贈与しない場合は、「なぜそのようにしたのか」という祖父母の気持ちを明らかにして、贈与や相続に関わる人たち全員が把握できるようにしておきましょう。

また、被相続人の法定相続人である配偶者や子、親には、財産の一定割合を相続できる「遺留分」があります。

祖父母から本来財産を相続するはずだった法定相続人から遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。

遺留分の対象となる祖父母の財産には、生前贈与によってすでに渡された財産も含まれます。

遺留分を侵害しない範囲で贈与するという点にも注意し、あとで家族間の争いが起こらないように、誰もが納得できる内容にすることが大切です。

孫へ贈与する場合は贈与税の非課税制度が利用できる

孫への贈与について贈与税を課されずに贈与できる制度、孫への贈与のメリットや注意点などをご紹介しました。

「110万円以下の贈与額なら贈与税がかからない」という仕組みを活用した贈与の方法のことを暦年贈与といいます。

孫への暦年贈与は、孫が祖父母の法定相続人とならない場合は、将来おとずれる相続税対策に非常に効果があります。そのほかに孫への贈与を非課税で行う方法も内容をご確認ください。

しかし、孫への生前贈与について、非課税制度の適用を受けるためには一定の要件を満たさなければなりません。

税務署などへの手続きも必要となります。ご自身のケースでは、どの方法が適しているか迷ったときは、贈与や相続の税務に詳しい専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

(提供:ACNコラム