目次
最近、資産運用の投資先として注目を浴びているのが不動産小口化商品です。
不動産小口化商品には「不動産特定共同事業法」に基づくものや、不動産信託受益権を活用したものがありますが、今回は前者に焦点を当てて解説します。
不動産特定共同事業法により整備され、投資家にとってより安全な選択肢となった不動産小口化商品について、その仕組みや種類、メリット・デメリット、注意点などを分かりやすく説明します。
不動産特定共同事業法に基づく不動産小口化商品の仕組み
不動産小口化商品は、金融庁や国土交通大臣、都道府県知事の許可を受けた事業者によって提供され、「不動産特定共同事業法」に基づいて運営されています。
不動産小口化商品は特定の不動産を細かく分割し、その収益や売却益を投資家に口数に応じて分配する商品です。複数の人が不動産を共同で所有し、その利益を分け合う仕組みといえます。
一棟の不動産を単独で購入するには莫大な資金が必要です。都心の優良不動産なら、数十億〜数百億円の資金が必要です。
不動産を小口化することで1人当たりの投資額が抑えられるため、比較的手軽に不動産投資を始めることができます。
物件の運営は投資法人が行うため、投資家自身が不動産の維持・管理や入居者募集などを行う必要はありません。
不動産小口化商品の3つの種類
不動産小口化商品には、「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸型」があります。
契約形態によって効果が異なるので、運用目的に応じて選択することが大切です。それぞれの特徴について解説します。
1.匿名組合型:投資家が金銭を出資し事業者が不動産事業を展開
匿名組合型は投資家が金銭を出資し、事業者がその出資金を活用して不動産事業を展開して利益を投資家に分配する投資形態です。
この商品では、投資家と事業者の間で締結された匿名契約をもとに事業者が事業を運営します。
名称に「匿名」とあるとおり、不動産の所有権は事業者が持つため、投資家の名前が登記情報に載ることはありません。
この形態では、投資家と事業者の関係は主に金銭のやり取りに限定されます。投資家は少額から投資することができ、短期間での運用も可能です。
2.任意組合型:投資家と業者が契約を結び共同で不動産事業を展開
任意組合型は投資家と業者が契約を結び、共同で不動産事業を展開する仕組みです。
複数の投資家が、業者が選定した物件を共同で購入します。この形態では、得られた利益は不動産所得として扱われます。
最も注目すべき特徴は相続税対策が可能であることです。相続税評価額は現金よりも約3割低く設定されるというデータもあります。
任意組合型の出資方法には、現物出資と金銭出資があります。現物出資では投資家は共同所有者として登録され、業者の倒産時にも保護されるため安心です。
金銭出資では共同所有者になりませんが、相続税が不動産と同じ評価額で計算されるため、相続税負担を抑えられる可能性があります。
3.賃貸型:出資者が不動産の持ち分を出資形式で購入し売却益を享受する仕組み
賃貸型は任意組合型と同じく、出資者が不動産の持ち分を出資形式で購入します。
事業者と賃貸借契約を結び、家賃収入から得られる利益を出資者に分配し、不動産の売却時には売却益を享受する仕組みです。
そのため、相続税や贈与税などの税金対策が可能です。ただし、任意組合型と違い、投資家は共有部分に出資するのではなく、所有分を直接事業者に貸し出します。
通常、賃貸型は長期的な運用を前提としており、投資家が資産を維持し続けることが期待されます。
しかし、事業者が倒産した場合には、投資家にとって意思決定が難しくなるというリスクがあります。そのため、販売される商品はごく少数に限定されています。
最近は、事業者の破産による運営上のリスクを回避するため、賃貸型以外の商品が主流となっています。
賃貸型では投資家は不動産の所有者ですが、管理や運営は事業者が行います。
不動産小口化商品の利回りはいくつ?
利回りは、投資額に対してどれだけのリターンが得られるかを示す数値です。
不動産の小口化商品における利回りは商品や仕組みによって異なりますが、一般的な実質利回りは2~7%です。
利回りは、分配金の予定額が変動するリスクがある場合には高くなり、安定している場合には低くなる傾向があります。
ただし、すべての商品が上記に当てはまるわけではありません。
不動産小口化商品の平均利回りは比較的に低い
不動産小口化商品は、実際の不動産と比べて利回りが抑えられる傾向があります。
複数世帯を所有するアパートなどの実物不動産の平均利回りは5%前後ですが、不動産の小口化商品では2〜7%程度と、やや低めです。
ただし、利回りは投資対象によって異なります。
利回りが低い3つの理由
利回りが低いのは、なぜでしょうか。ここでは、その理由を3つ紹介します。
1.資産価値が高い物件が多い
まず、投資対象が都心や都内の一等地に位置する物件であることです。
例えば、東京都心3区として知られる千代田区、中央区、港区や、ターミナル駅から徒歩3分以内のエリアが挙げられます。
資産価値が安定しているエリアに立地する物件は安定した運用が可能であり、低リスク低リターンという特性があります。
利回りとリスクには相関関係があり、これは社債や国債などと同様です。
2.建物の管理やメンテナンスに力を入れている
物件の管理・運用を事業者に任せるため、管理費や税金、保険料などが差し引かれることも、利回りが低くなる理由の一つです。
管理には、入居者募集から入居者の退去までの手続きや、建物の日常的な管理業務が含まれます。
特に建物の管理は、物件の資産価値を保つために非常に重要です。清掃や点検を定期的に行い、長期的な修繕計画に基づいて築年数に応じたメンテナンスを行います。
修繕計画がしっかりと立てられている商品は修繕費用が高くなることから、利回りが上がりづらい傾向があります。
3.優先劣後構造の仕組み
優先劣後構造は匿名組合型で見られる仕組みで、不動産証券化商品の信用を補完する手法の一つです。
この構造では、小口化商品を購入した出資者に先に利益を分配し、残りを劣後出資者の事業者に配分します。
物件価値が上昇した場合のリターンは事業者が享受するため、利回りが上がりにくい傾向があります。
しかし、物件の価値が下落した場合には事業者が下落額を負担するため、元本や配当の安全性を高める効果があり、リスクが低く信頼性の高い構造といえるでしょう。
不動産小口化商品のメリット・デメリット
不動産小口化商品には、少額で始められることや手間がかからないなどのメリットがありますが、リスクやデメリットもあります。
ここではどんなメリットが期待でき、どんなデメリットに注意すべきかを解説します。
不動産小口化商品4つのメリット
不動産小口化商品の主なメリットは以下の4つです。
1.少額からスタートできる
不動産小口化商品の最大のメリットは、少額から投資できることです。
一般的な不動産投資では、数億円~数十億円の資金が必要です。ローンを組む場合は、返済できるだけの信用力がなければ融資を受けられません。
不動産小口化商品では、1口あたりの価格は商品により異なります。ACNの「Aシェア」なら都心の一等地の物件を1口100万円×5口から保有できます。
実物不動産よりも少額で購入できるため、不動産投資へのハードルが低いことが魅力です。
不動産小口化商品は、ローンを組むのに抵抗がある方や気軽に試してみたい方にとって、最適な不動産投資商品といえるでしょう。
2.プロが運用してくれるため手間がかからない
不動産小口化商品には、不動産投資の煩わしい管理作業が不要というメリットもあります。
一般的な不動産投資(実物不動産投資)では、物件の管理やメンテナンスは欠かせません。
入居者の募集や退去の管理、賃料の回収、定期的な清掃・メンテナンスなど、行わなければならない業務は多岐にわたり、多くの不動産投資家が苦労しています。
しかし、不動産小口化商品では専門の管理会社が物件管理を行うため、投資家はこれらの管理作業を一任することができます。
利回りは実物不動産より低いですが、自身で管理する手間がかからないことはメリットです。
3.プロ目線で物件を選定してもらえる
不動産投資において安定した収益や売却益が期待できるかどうかは、物件の選定にかかっています。しかし、良質な物件を選ぶのは、プロでも簡単ではありません。
不動産小口化商品では、一般市場には出回っていない、プロが厳選した物件を選ぶことができます。
商業施設や大型のマンションなど、個人が入手できないような物件もあり、これは実物不動産投資では得られない魅力です。
プロが選んだ物件の中には利回りが低い物件もあるかもしれませんが、立地条件や賃貸需要など、利回り以外の要因も考慮されています。
収益性の高い不動産に投資するために、物件情報を入念にチェックするだけでなく、サービス運営会社の実績や評判も調べておきましょう。
4.任意組合型は節税効果がある
相続時には、現金はその金額が相続税の対象となりますが、不動産小口化商品の場合は実際の不動産と同様に、15~80%程度が相続税の対象となるため、相続税の節税が期待できます。
子供が親から相続する場合を考えてみましょう。以下の2つのケースを比較します。
・ 現金2,000万円を相続する
・ 不動産小口化商品2,000万円を相続する
※この2,000万円は相続税の基礎控除額を控除した後の金額です。
不動産小口化商品は、仮に価格の80%が相続税評価額と見なされるとすれば1,600万円となり、現金の場合よりも相続税評価額を400万円抑えることができます。
相続税には「基礎控除」という制度があります。これは、相続する不動産の評価額を含む遺産総額が一定額以下であれば、相続税を支払わなくてもよいというものです。
相続税の基礎控除額は、次の計算式で決まります:
基礎控除額 = 3,000万円 + (法定相続人の数 × 600万円)
最終的に支払う相続税は、相続財産総額から基礎控除金額を差し引いた金額に相続税率を適用して計算します。税率は相続財産の額によって異なり、10%以上かかります。相続税率は、国税庁ホームページで確認できます。
この速算表で法定相続人ごとの税額を計算し、合計したものが相続税総額です。
なお、匿名組合型では投資家が所有権を持たないため、任意組合型のように相続税の節税はできません。
そのため、節税対策も含めて購入を検討しているのであれば、任意組合型もしくは賃貸型を選択する必要があります。
任意組合型と賃貸型では投資家が所有権を持つため、上記のように相続税額を減らせるというメリットが期待できます。
不動産小口化商品のデメリット
不動産小口化商品には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。リスクを最小限に抑えるために、主なデメリットを押さえておきましょう。
1.利回りが比較的低い
不動産小口化商品の利回りは、実際の不動産投資と比較すると低めです。
管理や運用にかかる手間が少ない代わりに、管理費や税金、保険料などの費用が差し引かれるからです。
一般的な実物不動産投資の平均利回りは5〜10%程度ですが、不動産小口化商品は2〜7%とやや低めです。
不動産小口化商品の利回りが低い主な理由は、主な投資対象都心や都内の一等地の物件だからです。
このようなエリアでは、資産価値が比較的安定しているため低リスクの運用が可能ですが、その代わりに利回りも低くなる傾向があります。
利回りとリスクには相関関係があり、これは一般的な金融商品の社債や国債と同じです。
また、不動産小口化商品の場合は専門業者に物件の管理や運用を委託するため、管理費や税金、保険料などの費用が差し引かれることも利回りを下げる要因になります。
実物不動産投資は利回りが高い反面、物件の管理が必要であり、退去時の原状回復費用や空室対策などの手続きに手間がかかります。
また、管理を業者に委託する場合も費用がかかり、業者とのやり取りなどで手間が生じることがあります。
不動産小口化商品では、これらの手間を最小限に抑えることができます。
2.商品数が少ないためなかなか買えない
不動産小口化商品は非常に人気があり、申込倍率が高いため、希望しても購入できない場合があります。これは、供給される商品数が需要に対して不足しているためです。
申込は一般的に先着順で行われますが、特に不動産クラウドファンディングの人気は高く、早期に募集金額に達して、期間終了前に募集が締め切られるケースもあります。
そのため、気になる商品を入手するためには定期的に情報をチェックし、募集開始予告段階から情報の内容を理解しておく必要があります。
3.融資を受けられないため自己資金が必要
不動産小口化商品は複数の人が共同で物件を所有していることから、融資を利用することができません。そのため、購入するためには全額を自己資金で用意する必要があります。
一方、一般的な不動産投資では物件を担保に入れて融資を受けられる場合があるため、少ない自己資金で高額物件を購入できます。
4.元本割れするリスクがある
通常の不動産投資や株式、投資信託などと同様に、不動産小口化商品には元本保証がありません。
そのため、社会情勢の変動によって物件の稼働率や価値が変動し、事業者の経営状況によっては分配金の利回りも変動するというリスクがあります。
投資初心者の方は、このリスクをしっかり認識しておきましょう。
元本の安全性が気になる場合は、希望する商品の運用実績や分配金の推移などを事業者に確認しておきましょう。
実績豊富な事業者であれば、比較的安心して投資を任せることができます。
5.運用会社が倒産するリスクがある
不動産小口化商品には、不動産特定共同事業者が倒産するというリスクがあります。
通常、投資家は不動産の管理・運営・運用を事業者に委託しますが、その事業者が倒産すると投資を継続することが難しくなるでしょう。
このような状況で考えられる方法は、投資用の不動産を売却し、資金を各投資家に分配して解散するか、他の事業者に事業を引き継いでもらうことです。
しかしながら、どちらの場合でも予期しない手間や費用が発生する可能性があり、投資家にとって望ましくない結果となることがあります。
利回りだけじゃない!不動産小口化商品を選ぶときの5つのポイント
利回りが高い物件は、年間収入の変動リスクが高くなる傾向があります。
しかしながら、利回りの高さだけでなく、収益の安定性も重要です。最後に、不動産小口化商品を選ぶ際に考慮すべき5つのポイントを見ていきましょう。
1.商品の運用期間:長期になる商品を選ぶ際には注意が必要
不動産小口化商品の運用期間は、匿名組合型では10年以内の商品が多く、任意組合型の場合は10年、20年、30年といった長期の商品もあります。
クラウドファンディングでは、数ヵ月から数年の商品もあります。投資目的や商品の特性を考慮して、運用期間を選択することが大切です。
短期的に資金を運用し、利益を得たい場合は匿名組合型が適しています。
相続対策を考えている場合は、任意組合型の商品を選択するのがおすすめです。なぜなら、相続発生前に運用期間が終わる可能性のある短期の商品より、中長期で運用が可能な商品のほうが有利だからです。
運用期間が長期になると、金融市場の変動や不動産価格の影響を受ける可能性が高くなります。
また、急な資金調達の必要性やリスクヘッジの観点から、中途での売却(解約)が可能かどうかも確認しておきましょう。
運用期間は元本を預ける期間であり、基本的にこの期間中は償還されません。途中で売却できない商品もあるので、運用期間が長い商品を選ぶ際には注意が必要です。
運用期間が長い場合でも、必要なときに商品を売却(解約)できれば問題ありません。基本的には余剰資金を使って投資し、できれば中途解約できる商品を選ぶとよいでしょう。
2.優先劣後方式:優先出資者と劣後出資者の比率を確認する
不動産投資にはリスクがありますが、不動産小口化商品ではリスクを最小限に抑え、安全性を高めるために優先劣後システムが用いられます。このシステムは、元本割れによる配当減少リスクを軽減するための仕組みです。
不動産小口化商品の購入者は、一般投資家(優先)と不動産事業者(劣後)に分かれます。優先出資者は配当を優先的に受け取る権利を持ち、リスクを最小限に抑えながら安定した配当を得ることができます。
劣後出資者は、元本割れが生じた際には優先出資者よりも先に配当が減少しますが、収益が予想以上になれば高いリターンを期待できます。
一般的に、割合は優先出資者が7割前後、劣後出資者が3割前後です。劣後出資者の割合が大きいほど、リスクを抑えつつ投資を行うことができます。
したがって、不動産小口化商品を購入する際は、優先出資者と劣後出資者の比率を確認することが大切です。
3.分配金の支払回数:目的に応じて支払回数が適切な商品を選択する
分配金の支払回数は年1回や年2回の商品が多いですが、中には年6回や毎月分配する商品もあります。
分配金を使いたい方にとっては、支払回数が多いほうが魅力的かもしれません。しかし、支払回数が多い商品の選択肢は限られます。
中長期での運用を考える場合は、商品の選択肢が広がります。運用目的に応じて、分配金支払回数が適切な商品を選択しましょう。
4.稼働率:安定した稼働率を有する物件を優先する
不動産小口化商品を選ぶ際には、安定した稼働率を有する物件を優先することをおすすめします。
例えば、都心の駅周辺などは稼働率が安定しやすい場所です。稼働率は、その物件の資産価値や需要の高さを示します。高い稼働率は高い利回りをもたらし、資産価値は収益に直結します。
稼働率が高い物件や、将来需要が高まりそうな物件(リニューアルが予定されているなど)を見極めることも、重要なポイントといえるでしょう。
5.運用会社:運営会社の実績を確認して信頼性の高いサービスを選ぶ
不動産小口化商品を選ぶ際には、運営会社の実績を確認して信頼性の高いサービスを選ぶことが大切です。
不動産小口化商品の運営会社の実績は、さまざまです。過去に元本割れや支払遅延があった場合、その運営会社の信頼性は低いと考えられます。
運営会社が上場しているか、資本金が充実しているかなども判断基準になります。
運営会社の募集実績や償還実績、元本割れの有無などを確認し、信頼できるサービスを選びましょう。
まとめ
不動産小口化商品は、実際の不動産投資と比べて利回りが低くなる傾向があります。
管理や運用にかかる手間が少ない代わりに、管理費や税金、保険料などのコストが差し引かれるからです。
投資対象に高額の物件が多いことも、利回りに影響しています。
一方で、不動産小口化商品は少額から始められる上に手間が少ないというメリットがあり、節税効果なども期待できます。
ただし、商品数が限られていることや申込倍率が高いこと、元本割れのリスクがあることなどに注意が必要です。
不動産小口化商品を検討する際には、自身の投資目的に合致するかどうかを総合的に判断し、適切な商品を選んでください。
(提供:ACNコラム)