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兄弟姉妹の間で、財産の生前贈与を検討することもあるでしょう。
相続発生時の贈与財産の取り扱いは、どのようになるのでしょうか。この記事では、兄弟姉妹間で贈与を行った時の贈与税の計算方法や、親族間のトラブルを回避するための注意点を解説します。
兄弟姉妹の間で贈与があった時に贈与税がかからない財産
贈与では、贈与税がかかない財産がいくつかあります。その一つが「扶養義務者から生活費や教育費を支払うために受け取った財産」です。
扶養義務者とは、自分の収入や資産だけでは生活が成り立たない親族がいる場合に、経済的な援助を行う義務のある人のことです。
扶養義務者は「直系血族(父母、祖父母など)や兄弟姉妹、三親等内の親族で生計を共にしている人、家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族」と相続税法で定められています。
兄弟姉妹も扶養義務者となりうる
法律では父母や祖父母と同じように、兄弟姉妹も扶養義務者となり得るとされています。
したがって、贈与を行う時点で兄弟姉妹が扶養義務者である場合、兄弟姉妹からの経済的援助で通常必要な金額として認められるものには贈与税がかかりません。
生活費の援助は、生活費の仕送り、介護費用や通院費用の仕送り、結婚や出産の準備のための仕送りなどが含まれます。
教育費の援助は、学費、教材費、塾の授業料などの援助です。支払っている生活費や教育費が該当するかどうかは、「国税庁 税についての相談窓口」で確認することができます。
兄弟姉妹の間で贈与があった時に贈与税がかかる場合
生活費や教育費などに該当しない財産を贈与する場合は、贈与税の課税対象になります。贈与における贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。
暦年課税制度と相続時精算課税制度は、令和5年度の税制改正により一部が改正され、令和6年1月1日に施行されています。
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母や祖父などから、18歳以上の子や孫などに対して、生前贈与を行う時に選択できる贈与税の制度です。
そのため、兄弟姉妹間ではこの制度は選択できないので、課税方法は暦年課税になります。
暦年課税制度による贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与財産から、基礎控除額110万円を差し引き、残った金額に対して課税されます。
1年間に受け取った贈与財産が110万円以下なら贈与税は課税されず、申告も不要です。
この制度を活用して毎年110万円以下の財産を贈与し続けた場合、令和6年1月1日以降に贈与された財産で、贈与者が亡くなって相続が発生する前7年以内に贈与を受けたものは、相続税の課税価格に加算されることになりました。
なお、4年前から7年前までの贈与財産は、その合計額から100万円を控除することができます。
また、扶養義務者から生活費や教育費として受け取っていたとしても、そのお金を貯金したり、株式や不動産を購入したりした場合には、贈与税が課税されます。
贈与税の計算方法
贈与税の計算に便利な速算表はこちらです。
贈与税の速算表 一般贈与財産用
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | − |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与税の速算表 特例贈与財産用
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | − |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
贈与税の計算に使う速算表は、一般贈与財産用と特例贈与財産用の2種類があります。
特例贈与財産用は、財産の贈与を受けた年の1月1日に18歳以上となる受贈者が、父母や祖父母などから贈与を受けた場合の贈与税額を計算するときに使います。
一般贈与財産用は、特例贈与財産用に該当しない贈与財産の贈与税額を計算する場合に使います。
したがって、兄弟姉妹間の贈与には一般贈与財産用の速算表を使います。他には夫婦間の贈与、父母や祖父母から未成年の子や孫への贈与の場合などにも使われます。
贈与税の計算は、まず1年間に贈与によって受け取った財産の総額を計算します。次に、その額から基礎控除額110万円を差し引きます。そうして求めた金額を速算表に当てはめ、税率をかけて控除額を差し引きます。
例えば、1年間に500万円の贈与を受けたとします。その場合は以下のように計算します。
(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円
兄弟姉妹間で1年間に500万円の贈与が行われた時の贈与税額は53万円となります。
兄弟姉妹の間で不動産を贈与するときにかかる税金
「家を建てたいので姉が親から相続した土地の一部を贈与してもらいたい」「自分は住宅を購入したので、親から相続した実家は弟に贈与しようかと考えている」など、兄弟姉妹の間で不動産の贈与を検討している方もいるでしょう。
兄弟姉妹の間柄でも、贈与を行うとなると税金を支払わなければなりません。
兄弟姉妹間で不動産を贈与する場合は、前述の贈与税以外に不動産取得税、登録免許税、印紙税、固定資産税、都市計画税が贈与を受けた方に課税されます。
以下で詳しく解説します。
1.贈与を受ける際の贈与税
贈与税は他の税金の税率と比較すると高く、贈与税の速算表(一般贈与財産用)のとおり、基礎控除後の不動産評価額が3,000万円超の場合は55%です。不動産評価額に伴って、贈与税額は高くなります。
2.贈与を受ける際の不動産取得税
不動産取得税は、土地や家屋など不動産の購入・贈与、家屋の建築などを行った時に、不動産を取得した方に対して課税される税金です。
不動産の取得とは対価の支払いの有無にかかわらず、「不動産所有権を得た」ことを指します。不動産取得税は、相続による取得の場合には課税されません。
不動産贈与を受けた時の不動産取得税は、以下のように計算されます。
不動産取得税額=不動産評価額×3%
不動産評価額は、原則として固定資産税の計算に使用する課税標準額と同じです。
固定資産評価額(不動産評価額)の目安は、住宅なら建築費の50~60%程度、土地は時価の70%程度です。
不動産取得税の本来の税率は4%ですが、令和6年度税制改正により3%、宅地評価の土地は評価額が2分の1になります。
3.贈与を受ける際の登録免許税
贈与によって土地の所有権移転登記をした場合に、不動産評価額に対して2%の税率で課税されます。
登録免許税=不動産評価額×2%
不動産評価額(固定資産税評価額)が4,000万円の土地の贈与なら、80万円を納めることになります。登記申請を司法書士へ依頼した場合は、司法書士報酬も併せて支払います。
4.贈与を受ける際の印紙税
不動産の贈与契約書を作成する際は、不動産評価額に関わらず200円の印紙が必要です。印紙には消印として、贈与契約書と印紙にまたがるように押印や署名を行います。
5.贈与を受けた翌年から課税される固定資産税と都市計画税
不動産の贈与を受けると、受贈者が所有者となります。したがって、贈与が行われた翌年からは、受贈者に固定資産税と都市計画税が課税されます。
固定資産税は贈与を受けた不動産の評価額の1.4%(標準税率)、都市計画税は0.3%(制限税率)です。
兄弟姉妹の間で不動産の贈与するときの贈与税の注意点3つ
兄弟姉妹の間で不動産の生前贈与をする場合は、贈与税額が大きくなることが予想されます。以下のことに注意しましょう。
1.兄弟姉妹間の贈与には相続時精算課税制度は使えない
相続時精算課税制度を選択すると、受贈者は早い時期にまとまった財産の贈与を受けることができます。
しかし、対象者が限られており、原則として60歳以上の父母や祖父などから18歳以上の子や孫などに対して贈与を行う時に選択できる制度です。兄弟姉妹の間の贈与に使うことはできません。
2.基礎控除の範囲内で毎年持分贈与を行う場合は手間や手数料がかかる
不動産を贈与するために、暦年課税制度を活用して基礎控除110万円以下の評価額で毎年持分贈与を行ったり、贈与税額を抑えながら数回に分けて持分贈与を行ったりすることも検討できます。
そのようにすると、贈与税自体は一度に贈与を行う場合よりも少なくなります。しかし、贈与を行うごとに不動産の評価や所有権移転登記に時間を取られることになります。
また、不動産の評価を税理士に、登記申請を司法書士になど専門家に依頼することになり、その都度報酬の支払いが発生します。
3.贈与税の申告が必要
贈与税の申告が必要な場合、慣れている方は自分で申告できるでしょう。税理士に依頼する場合は、やはり報酬の支払いが発生します。
また、「値段はいくらでも構わない」と思い、例えば3,000万円の不動産を100万円で、など極端に安い価格で兄弟姉妹に売却したとします。
そうすると、実質的に贈与を行った場合と同じ利益を与えたことになり、みなし贈与に該当するとみなされると、差額の2,900万円に対して、前述の暦年課税制度の一般贈与財産用の速算表から求められる贈与税額が課税されることになります。
贈与以外の方法も検討してみる
兄弟姉妹間で不動産の生前贈与を考えている場合は、贈与以外の方法も検討してみましょう。遺贈や売買などの方法があります。
贈与者に配偶者と子がいる場合、兄弟姉妹は相続人になれません。遺贈とは故人が遺言を残し、遺産の一部を譲ることで、相続人でなくても財産を受け取ることができます。急いで贈与をする必要がないのであれば、遺贈もよいと思います。
妻と子が贈与に納得していない場合は、適正価格で売買するという方法がよいこともあります。
兄弟姉妹間の生前贈与によるトラブルを防ぐには
兄弟姉妹間で生前贈与を行い、トラブルに発展するケースもあります。以下のポイントに注意して、適切に対応できるようにしておきましょう。
1.生前贈与を行う前に法定相続人や他の兄弟姉妹の同意を得る
思わぬトラブルを招くことのないように、生前贈与を行う前に法定相続人や他の兄弟姉妹から同意を得ておきましょう。
贈与者が亡くなって相続が発生した時に、遺言がないことも想定できます。法定相続人とは、受け取る人が指定されていない遺産を相続する権利のある人のことです。
法定相続人は、被相続人の配偶者と血のつながった人です。配偶者以外の人は、相続人になる順番が決まっています。
被相続人に近い人から先の順位となり、先になる順位の人がいる場合は、下位の人が相続する権利はありません。配偶者は必ず相続人となります。
第1順位は子、第2順位は親、第三順位は兄弟姉妹です。自分が知らない贈与財産があると、不公平感が生じやすくなります。
2.贈与税や相続税のルールを理解し把握する
生前贈与には相続税を軽減できる、自分で確実に財産を渡すことができるなどのメリットがあります。
しかし、贈与税や相続税のルールを理解していないと、思っていた効果を得られないことがあります。税金の支払いで損をしないように、相続時のことも考えて対策を講じましょう。
例えば兄弟姉妹に生前贈与を行い、兄弟姉妹が多額の預金を持っていた場合は、口座名義人が異なっていても相続時に被相続人の財産によるものだとみなされることがあります。
相続税の対象となる財産は、その名義だけで判断されるわけではありません。預金だけでなく不動産や株式なども、本来の持ち主は被相続人であると判断された場合は、相続税の課税対象に含めることになります。
相続時の税務署の調査によって何らかの不備を指摘された場合は、過少申告加算税や無申告加算税、延滞税などが課税されます。
現金の贈与を行う際には、できるだけ贈与契約書を作成し、兄弟姉妹に通帳や印鑑を渡して兄弟姉妹が管理できる状態にしておきましょう。
3.兄弟姉妹間であっても公正な取引を行う
兄弟姉妹間で不動産を売買する場合には、取引の条件を当事者間で柔軟に決められ、売買価格を相場より低くする、住宅ローンを利用しない、といったことも可能です。
また、長年住んできた家を他人に渡したくない、という理由で売却をなかなか決められないという場合もあります。気持ちの面でも、兄弟姉妹なら安心感があり、決心しやすいでしょう。
しかし、みなし贈与を疑われる、同一生計であるなどの一定の場合には本来なら受けられる税制の特例を受けられない、などのデメリットが生じることがあります。
兄弟姉妹の間での不動産売買は、基本的には一般的な不動産売買と同じですが、数多くの手続きを自分たちで行わなければなりません。そのため、取引に不備などがないように気をつけましょう。
場合によっては、不動産業者を通して取引をしたほうがよいケースもあります。
4.贈与契約書を作成する
贈与契約は口約束でも成立しますが、贈与契約書を作成しておくと、さまざまなメリットがあります。贈与契約の内容をいつでも確認することができるので、「言った」「言わない」といったトラブルを回避できます。
贈与者が亡くなって相続が発生した時に遺言がなければ、相続人が全員で「遺産分割会議」を行います。遺産分割会議は誰が、どの遺産を、どれくらい受け取るのか決めるために行うものです。
贈与契約書があれば、生前贈与があったことやその理由・金額を明らかにできますので、公平な遺産分割が可能になります。
また、税務署の調査で何か指摘された場合でも、贈与であることを証明することができます。
生前贈与を行う前に専門家に相談する
兄弟姉妹に贈与を行う時にかかる贈与税や課税方法、親族間のトラブル回避方法について解説しました。扶養義務者から受け取った一定の財産は、贈与でないと定められています。
節税には、法律の専門知識が必要です。さまざまな規則がありますので、自分だけで判断すると間違った方法を選択してしまうおそれがあります。
また、贈与や相続は税制改正があり、最近の制度を把握しておかないと、効果的な節税対策はできません。「生前贈与を行ったら、考えていた以上に税金が課税されてしまった」ということになりかねません。
贈与と相続は、トータルで考える必要があります。実行する前に、専門家に相談することをおすすめします。
(提供:ACNコラム)