「貯蓄から投資へ」という流れは、個人の資産形成における言葉となって久しい。ビジネスにおいてもエクイティファイナンスという「融資から株式発行へ」という潮流があるのをご存じだろうか。本記事では、エクイティという言葉をはじめ、エクイティファイナンスの意味やメリット・デメリット、実施手順などについて解説する。

目次

  1. エクイティとは?
  2. エクイティファイナンスの意味
    1. エクイティファイナンスとデットファイナンスの違い
  3. 成長投資としてエクイティファイナンスの利用を検討する中小企業が増えている
  4. エクイティファイナンスのメリット
    1. 返済義務および利息が発生しない
    2. 財務面の強化につながる
  5. エクイティファイナンスのデメリット
    1. 株式価値が希薄化する
    2. 経営の自由度が低下する
    3. 配当政策の見直しが必要
    4. 煩雑な法的手続きが必要
  6. 出資者が期待することとは?
  7. エクイティファイナンスの進め方は?中小企業が実施する手順
    1. 【STEP1】出資者を探す
    2. 【STEP2】新株発行の方法を決める
    3. 【STEP3】株主総会の開催
    4. 【STEP4】新株発行の手続きを進める
  8. エクイティファイナンスを利用できないときの選択肢は?
  9. エクイティに関する知識を増やして経営の幅を広げよう

エクイティとは?

エクイティとは?エクイティファイナンスやブランド・エクイティのメリット・デメリットを解説
(画像=SecondSide/stock.adobe.com)

エクイティ(Equity)とは、「株式」や「株主資本」を意味する言葉金融用語だ。エクイティ(Equity)という英語を辞書で引くと「公平、公明正大」「衡平法」および「純資産の部」などという訳が出てくる。一方、株式という日本語を英語辞典で引くと「ストック(stock)」あるいは「シェア(share)」「国債、公債に対する株式」などという言葉も出てくる。

このように、エクイティにも株式にも複数の意味があるが、ビジネスとの関連においては「株式」や「株主資本」「企業価値」という意味合いで用いられることが多い。例えば株式会社におけるエクイティファイナンス(Equity finance)やエクイティガバナンス(Equity governance)、企業のブランドが持つ資産価値を意味するブランド・エクイティ(Brand Equity)などという言葉で用いられる。

近年は、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)として企業の採用・人事においてもエクイティという言葉を用いるなど、ビジネスのあらゆる面でエクイティという言葉を使うようになってきている。なお以後、本記事ではエクイティファイナンスについて解説を進める。

エクイティファイナンスの意味

エクイティファイナンスとは、株式発行で企業が資金調達することだ。株式発行となるため、株式会社に限定されるが、上場企業か非上場企業であるかは問われない。企業側からすると基本的に株式は返済期限がなく、調達資金はバランスシート上で株主資本(エクイティ)として計上される。そのため、このような資金調達方法を「エクイティファイナンス」と呼んでいる。

エクイティファイナンスによる資金調達(増資)の方法は、大別すると以下の4つだ。

・株主割当増資
既存株主に対して各株主の保有割合に応じて株式を発行、出資を募る方法だ。保有割合などが変わらないため、既存株主との調整が付きやすく増資をスムーズに進めやすい。

・第三者割当増資
既存株主かどうかに関わらず、出資者を特定して新規株式を発行、出資を募る方法だ。出資意欲の高い出資者を特定できるため、資金を集めやすい。

・公募増資
既存株主かどうかに関わらず、不特定多数の出資者に対して株式の引受け(投資)を勧誘し、出資を募る方法だ。多くの出資者に出資を募るため、多額の資金調達を募りたい際の方法として適する。

・転換社債型新株予約権付社債(CB)
一定条件で株式へ転換できる権利が付いた社債(CB)を発行することで出資者を募る方法だ。出資者にとっては、社債と株式それぞれのメリットが期待できるため、資金を集めやすい。

エクイティファイナンスとデットファイナンスの違い

エクイティファイナンスと対になる言葉としてデットファイナンスがある。デットファイナンスは、金融機関からの借入れや社債発行など負債という形で資金を調達する方法の総称だ。「借入」や「負債」を意味する「デット(debt)」からこのように呼ばれている。各資金調達方法の違いを簡単に紹介しておこう。

エクイティとは

株式発行によって調達した資金を「自己資金」、融資や社債発行によって調達した資金は「他人資本」という。バランスシート上では、前者が資本の部に計上されるが後者は負債の部に計上される。負債であるため、利息負担や返済(償還)義務も伴う。

また、エクイティファイナンスは実施時に投資家への影響を与えることになるが、資金調達後は企業が投資家から影響を受けるリスクがあることは否めない。融資をはじめとするデットファイナンスは運転資金や資金繰り安定などを目的に多くの企業が一般的に実施しているだろう。

しかしエクイティファイナンスは、事業拡大、事業転換など新しい取り組みを目的として利用する企業が多い傾向だ。

成長投資としてエクイティファイナンスの利用を検討する中小企業が増えている

2020年以降は、コロナ禍やウクライナ危機、物価高騰など社会経済環境の変化に伴い、新たな事業への転換・挑戦の検討を余儀なくされている経営者も多いだろう。経済産業省の資料(※)によると、事業化までに時間のかかるビジネス、中長期的な取り組み、事業転換を目的に、エクイティファイナンスの利活用を検討したいと考えている中小企業者は4割程度いるようだ。

株式発行による増資の検討は中小企業にも浸透してきているといえるだろう。

(※)経済産業省「エクイティ・ファイナンスに関する基礎知識 第一章 中小事業者のエクイティ・ファイナンス」

エクイティファイナンスのメリット

エクイティファイナンスを検討するにあたり、そのメリットを確認しておこう。

返済義務および利息が発生しない

エクイティファイナンスの最大のメリットは、原則として返済義務と利息が発生しない点だ。事業が成功すると株主に配当金を分配するが、調達した資金を返済する必要はない。

財務面の強化につながる

エクイティファイナンスによって調達した資金は、一般的に自己資本に加えられる。つまり、会社の自己資本比率が高まり、財務面が強化される。また財務体質が強化されることによって、以下のようなメリットも発生する。

  • 金融機関からの評価が高まる
  • 投資家や他企業から注目されやすくなる

財務面が強化される意味合いは予想以上に大きい。財務面に余裕があると、大きなビジネスに投資したり、キャッシュ不足のリスクを抑えたりできる。

エクイティファイナンスのデメリット

エクイティファイナンスには軽視できないデメリットも潜んでいる。エクイティファイナンスを検討する際には、しっかりと確認しておこう。

株式価値が希薄化する

代表的なデメリットとしては、株式の希薄化が挙げられるだろう。
新たに株式を発行すると、1株あたりの株価が必然的に下がるため、投資家に多大な影響を及ぼす恐れがある。場合によっては株主が大きな損害を被るので、エクイティファイナンスの実施前には既存株主への説明が必須だ。

経営の自由度が低下する

また、株式の譲渡先によっては、経営権が弱まってしまう点も留意しておきたい。例えば、新たに発行した株式を1人の投資家が独占すると、最終的には経営権を握られてしまう可能性がある。仮にそこまでいかなかったとしても、企業は株主の意向を無視できない。少なからず経営の自由度が下がることは避けられないだろう。

配当政策の見直しが必要

そのほか無視できないデメリットは、配当政策を見直す必要性が生じる点だ。もし配当政策を見直さずにエクイティファイナンスを実施すると、配当金の負担が大きくなりすぎて経営を圧迫しかねない。その水準によっては、デッドファイナンスによる利息支払いよりも大きなコストとなる可能性があることは理解しておこう。

煩雑な法的手続きが必要

株式新規発行をして増資をするためには、株主総会の開催、定款変更、法務局への登録申請など煩雑な法的手順を踏む必要がある。また、増資後にも投資契約の締結事項の遵守にあたりさまざまな手続きが必要になることは心得ておきたい。

出資者が期待することとは?

エクイティファイナンスで出資を募る企業は、あらかじめ出資者の期待を正しく理解し、その期待にまた応えるように努めなければならない。一般的には、以下の通り経済的なリターンを求めて出資する。

  • 企業価値(株価)の向上
  • 配当金

また、これらの実現に向けた企業努力や約束ごとの遵守などについても期待するものだ。もし期待に応えられなければ経営にマイナスとなる口出しをされるリスクがあると心得ておこう。なお非上場企業に対する出資者となり得るのは、主に次のような者(機関)である。

エクイティとは

企業としては、増資の目的、リターンを実現するまでには長期的な視点で評価してもらえるようにあらかじめ明確・丁寧に説明しておくことが大切だ。

エクイティファイナンスの進め方は?中小企業が実施する手順

前述したように、近年ではエクイティファイナンスの活用を検討する中小企業も増加傾向だ。これまで資金調達方法として借入に頼っていた企業も、状況次第ではエクイティファイナンスのほうが望ましい場合もあるため、エクイティファイナンスの実施手順についても合わせて確認しておこう。

【STEP1】出資者を探す

エクイティファイナンスを成功させるには、自社株式の購入者(出資者)を探さなくてはならない。特に非上場企業の場合は、一般投資家から資金を募ることが難しいため、あらかじめ資金調達の見通しを立てておくことが重要だ。

非上場企業の出資者としては、主に取引のある金融機関や富裕層、経営者の親族および友人・知人などがなり得るが、株主となってもらったあとの関係性も考慮しながら出資を依頼しよう。

これらのなかで出資者が見当たらない場合は、エクイティファイナンスの実施前に人脈を広げておく必要がある。無暗に新株を発行しても、買い手が現れなければ資金調達にはつながらないため、出資者の目星は早い段階でつけておきたい。

【STEP2】新株発行の方法を決める

中小企業が新株を発行する方法は、「株主割当増資」や「第三者割当増資」「公募増資」の3つに大きく分けられる。また「転換社債型新株予約権付社債」を発行する方法もある。

非上場の中小企業にとっては、基本的には「株主割当増資」または「第三者割当増資」が現実的だろう。また、すでに調達したい額が決まっている場合は、この段階で株式の発行量や金額を決めておくことも必要だ。

【STEP3】株主総会の開催

増資は経営者の独断で行えるものではないため、計画を立てたら株主総会を開くことになる。決議が必要になる事項としては、以下の4つが挙げられる。

  • 発行する株式の種類と数
  • 払込金額
  • 増資する金額
  • 払込期日や期間

また、持ち株比率が大きく変わるようなケースでは、株主に対する事前説明も必要になる。特に株式の希薄化が起こり得る場合は、既存株主からの反感を買う恐れがあるので、株主総会の前に説明する機会を設けておきたい。

【STEP4】新株発行の手続きを進める

株主総会の決議が終わったら、あとは事務的な手続きを進めていく。具体的な手続きとしては、取締役会における割当決議や出資金の払い込み、法務局への登記申請などが挙げられる。また、株主名簿や会社のホームページなど、対外的な資料の更新も忘れてはいけないポイントだ。なお、実際の手続きはケースによって異なる可能性があるため、実際に増資を行う場合は専門家(弁護士や司法書士など)の活用をすすめたい。

エクイティファイナンスを利用できないときの選択肢は?

非上場企業にあたる中小企業は、エクイティファイナンスによる資金調達が難しいこともある。中小企業にとって資金調達は死活問題になり得るため、エクイティファイナンスを利用できない場合の選択肢についても確認しておこう。

エクイティとは

日本政策金融公庫は多くの中小企業から利用されているが、申し込みから融資実行までに1~2ヶ月ほどかかることがある。資金繰りがひっ迫した状態で利用すると、資金調達が間に合わなくなる恐れがあるので、金利の低さだけで選ぶことは避けたい。

中小企業の資金調達では、金利の低さ(返済負担)以外にも「調達金額」や「融資までのスピード」に目を向ける必要がある。つまり、全体的なプランを意識した行動が重要になるため、資金調達の前には自社が直面している状況をしっかりと整理しておこう。

エクイティに関する知識を増やして経営の幅を広げよう

本記事では、エクイティの意味およびエクイティファイナンスについて解説した。エクイティファイナンスには、財務上のメリットも大きく新たな事業へのチャレンジができるなど経営上のメリットも大きい。エクイティファイナンスの活用を検討している中小企業も増えている。

メリット・デメリットをきちんと理解して、資金調達や経営戦略の幅を広げていきたい。

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