2023年は高級スーパー事業を手放す
東北新社がスーパーマーケット事業を売却したのは2023年9月のことだ。子会社のナシヨナル物産(東京都港区)が「ナショナル」ブランドで東京都内に3店舗展開する高級スーパーを、中島董商店(東京都渋谷区)に引き継いだ。中島董商店はキユーピー・アヲハタグループの源流企業で、長年取引関係にあった。
東北新社がナシヨナル物産を傘下に収めたのは1972年。ナシヨナル物産が営むスーパーはチーズなど乳製品の輸入品の品ぞろえで知られた。
スーパー業態とは異色の取り合わせに見えるが、東北新社が扱う海外テレビドラマの食卓シーンに頻繁に登場する乳製品は当時の日本でまだ馴染みがなく、こうした珍しい食品を紹介する狙いが込められていたという。
だが、事業の集中と選択に迫られ、半世紀に及ぶスーパー経営にピリオドを打ったのだ。
新5カ年計画で売上高700億円目指す
東北新社は2月初め、「企業価値向上に向けた事業再構築」を副題とする中期経営計画(2024年4月~29年3月)を策定した。最終年度に売上高700億円、営業利益65億円を掲げる。PBR(株価純資産倍率)については上場企業の最低ラインとされる1倍以上(4月24日時点0.71倍)を目指す。
中計策定に先駆け、今年1~2月には人員体制の最適化を目的に希望退職者の募集を実施した。勤続10年以上・50歳以上の正社員(マネジャー職を除く)を対象に20~30人を募ったが、応募は11人にとどまった。
既存事業についてはBS・CS関連を中心に、事業ポートフォリオの見直しを進めてきた。4月にスタートした新中計では新たな収益基盤の確保にどう道筋をつけるかが最大のテーマとなる。
5カ年の期間中、構造改革や成長投資、株主還元で合わせて500億円を充てる方針だ。個別の配分額は示していないが、成長投資ではM&Aをテコに周辺領域への展開を最重点としており、従来のメディアの枠にとらわれず、「あらゆる生活シーンにビジネスフィールドを拡大する」としている。
既存事業では売上高の4割以上を占める広告・コンテンツプロダクション事業を中心に一層の収益力強化が求められる。
M&Aについていえば、これまで売却が3件連続した。買収は2021年12月に広報・ブランディング支援のENJIN(東京都世田谷区)を子会社化したのを最後に遠ざかっている。
局面転回に向け、攻めのM&Aののろしがいつ上がるのか、要ウオッチとなりそうだ。
◎東北新社の沿革
年 | 主な出来事 |
1961 | 東北新社を設立。テレビ映画の日本語版制作に着手 |
1964 | 新日本映画製作所を子会社化し、CM制作事業を開始 |
1972 | ナショナル物産を子会社化し、物販事業を開始 |
1984 | CM制作の二番工房を子会社化 |
1986 | 映画専門チャンネル「スター・チャンネル」を合弁で設立 |
1987 | 広告制作の日本天然色映画(現ソーダコミュニケーションズ)を子会社化 |
1995 | 秋田県湯沢市の木村酒造を子会社化 |
2001 | 歴史専門「ヒストリーチャンネル」を合弁で設立 |
2002 | ジャスダックに上場(2022年東証スタンダードに移行) |
2005 | 映画専門チャンネル「ザ・シネマ」を合弁で設立 |
2009 | 「囲碁・将棋チャンネル」の運営会社をを子会社化 |
2012 | 子会社が運営するクラシック音楽チャンネル「クラシカ・ジャパン」の放送終了 |
2015 | スター・チャンネルを子会社化 |
2021 | ブランディング支援のENJINを子会社化 |
2022 | ザ・シネマをノジマに売却 |
2023 | ナショナル物産のスーパーマーケット事業を中島董商店に譲渡 |
2024 | 6月、スター・チャンネルをジャパネットブロードキャスティングに譲渡 |
文:M&A Online