〔要旨〕

グローバルに地域差が広がる中で、投資機会はどこにあるか?
(画像=Wealth Road)
  • 金利:カナダ銀行とECBが6月会合で政策金利の引き下げを決定したのに対し、FRBは据え置きを決定した
  • 政治情勢:EUが政治的不確実性に苛まれる一方、英国は7月4日の総選挙に向けて政治的確実性は大幅に高まっているようだ
  • 驚きの選挙結果:ここ数週間、メキシコ、南アフリカ、インドで驚きの選挙結果となった

米国は金利をより長期に、より高く維持しても構わないとのシグナルを発している

地域差が加速する中で欧州は利下げを実施

英国では選挙が近づくにつれ、政治的確実性が増しているように見える

日本と中国は政策金利を据え置き

新興国における地域差

今週の注目材料

注目の日程

先週私たちは、2024年後期のグローバル市場見通しを発表しましたが、その包括的なテーマは「地域差が広がる中での投資機会」というものでした。欧米先進国は、同じ方向-総じてインフレが低下しつつあり、利下げを開始するかそれに近いところにある―に向かっていますが、そのスピードはそれぞれ異なっています。こうした差異の多くは、各主要国がパンデミックにどう対応したか(中でも米国は景気刺激策において主導してきました)、またその結果生じたインフレに対して、どれだけ迅速に対応してきたかに帰せられます。こうしたことは、各国の中央銀行が利下げを開始する時期に大きな差異を生じさせるのに十分な背景となっています。

米国は金利をより長期に、より高く維持しても構わないとのシグナルを発している

先週、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利の据え置きを決定し、インフレの再燃がないと確信できるまで金利を高く維持しても構わないと考えていることを示唆しました。先週発表された「ドットプロット」(FOMCメンバーによる金利予測分布図)は、FRBの思考プロセスについて多くのことを物語っています―年内の予想利下げ回数の中央値は1回に引き下げられました。同様に興味深いのは、コア個人消費支出(PCE)価格指数の予想値が上方修正されたことで、今年末の予想の中央値は2.6%から2.8%に引き上げられました(2023年12月ドットプロットでは2.4%)。

パウエルFRB議長は今回の会合後の記者会見で、米国経済について、「…全体像としては、労働市場は力強く、徐々に冷え込み、徐々にリバランスしつつある」と述べました。言い換えれば、米国は利下げ計画の進みが遅い方の国にあたります。

地域差が加速する中で欧州は利下げを実施

これとは対照的に、カナダ銀行(中央銀行)と欧州中央銀行(ECB)はディスインフレの進展に満足したようで、この2週間のうちに利下げの開始を決定しました。ただしECBは、利下げのペースが遅くなること、また追加利下げのタイミングはデータに大きく左右されることを示唆しました。

現在、欧州市場ではかなりの地域差が生じつつあります。例えば、フランスの10年物国債とドイツの10年物国債の利回りスプレッドは最近大幅に拡大し、6月14日には ―過去10年以上で最大となる― 0.8%まで上昇しました1
また6月に入ってから、MSCIフランス指数はMSCI欧州指数を大幅にアンダーパフォームしています2

この差異は主にフランスの政治的不確実性の結果であり、フランスの財政赤字への懸念からS&Pが最近フランス国債を格下げしたことで悪化しました。

マクロン大統領は、欧州議会選挙で極右政党が大躍進した直後に総選挙に踏み切りました。マクロン大統領は、国民議会(下院)の解散・総選挙の決定の理由を、「ナショナリストとデマゴーグの台頭は、わが国とヨーロッパにとって危険である。この日を経て、何事もなかったかのように振る舞うことはできない」と説明しました3

マクロンの中道政党がいかに不人気かを考えると、深刻な政治的不安定性のリスクがあります。極右政党「国民連合」のルペン党首は、同党が勝利してもマクロン大統領の辞任は求めないと述べ、懸念を和らげようとしました4 。これは、もし彼女の政党が政権を取っても、首相に選出された際は不安視されたものの、中道右派政権を樹立して前向きなサプライズを与えたイタリアのメローニ首相と似たような状況になるかもしれない、との希望を生むでしょう。

しかし現在の政治的不確実性は、資本市場統合などの欧州連合(EU)改革を達成しにくくするリスクをはらんでいます。また財政支出の拡大計画は、EU憲章に掲げられた「これまで以上に深い統合」へのナショナリストによる反対と相まって、EUの財政統合の実現を阻む可能性があります。これらは全て、EU単一市場を弱体化させることによって、イノベーション、競争、生産性、規模、成長を抑制する可能性があります。とはいえ、市場がこうしたリスクを織り込めば、欧州株の魅力的な買いの機会が生まれる可能性があります(私たちには、英国株の方が現在より魅力的に映っていますが)。

英国では選挙が近づくにつれ、政治的確実性が増しているように見える

英国は、EUとは大きく異なる状況にあります。EUが政治的不確実性の渦中にあるのに対し、英国は、7月4日の総選挙に向けた世論調査で労働党が大差をつけてリードしており、政治的確実性はかなり高いように見えます。同党党首のキア・スターマー氏が次期首相となり、英国が中道左派政権に移行する展開が確実視されているようです。私たちは、欧州株と同様、英国株のバリュエーションは魅力的だと考えており、短期の政治的不安定性のリスクもないと考えています。

日本と中国は政策金利を据え置き

日銀は、6月会合で政策金利の据え置きを決定しました―ただし、間もなく国債購入の減額開始が予定されています。日本経済の正常化を支えた構造改革により、金融政策も正常化を開始できる見込みです。

隣国の中国の状況は、やや異なる様相を呈しています。内需の回復が続いており、中国では5月で4か月連続の消費インフレとなりました。直近の小売売上高は好調で、鉱工業生産も堅調でした。しかし、不動産セクターが引き続き懸念材料となっています。中国人民銀行は6月会合で、政策金利を現行水準に据え置くことを決定しましたが、これは現時点で利下げのメリットよりもデメリットの方が上回ると考えられたためでしょう。

新興国における地域差

新興国の選挙にも地域差が見られます。ここ数週間で、メキシコ、南アフリカ、インドの選挙でサプライズがありました。南アフリカとインドでは現行政権への支持が低下しましたが、メキシコでは上昇しました。

南アフリカでは、支持を大幅に失ったシリル・ラマポーザ氏率いる現行のアフリカ民族会議(ANC)政権が、同氏の再任を含む中道的な連立政権の形成に成功したようです。これは、扱いにくい統一や経済自由の戦士党を含む左派連合よりも、市場にとっては魅力的に映るようです。この結果は、投資家にとって明らかに重要である安定性を意味します。

インドでは、ナレンドラ・モディ首相の人気と議席数獲得への期待に反して、議席数減となったサプライズに対し、市場は当初否定的な反応を示しました。その後モディ首相は連立政権を樹立し、政権維持が可能となりました。彼は4つの主要省(財務、外務、内務、国防)の大臣を再任し、連立パートナーを含めるべく内閣を72名に拡大しました。私は、これは市場に好意的に受け止められ、今後もそう捉えられるべき前向きな結果だと考えています。

市場が最も否定的な反応を示したのは、メキシコの選挙結果でした。選挙で躍進したことで、クラウディア・シェインバウム政権が国を左傾化させるお墨付きを得たと考えるのではないかと懸念されています。しかし、そのような事態は限定的となりそうです。尊敬を集める堅実な人物で知られるロヘリオ・ラミレス・デラオ財務公債相が引き続き任にあたるとみられますが、これは投資家にとってマクロ的安定性を示唆するものです。

私たちは、株式のバリュエーションが高くなっていることから、インドでは債券の方が株式よりも魅力的だと考えていますが、上記の3つの国の中ではインド市場が最も魅力的に見えます。南アフリカのリリーフ・ラリーはまだ続く可能性があります。投資家がメキシコの資産により大きな信頼感を持つためには、左翼的と捉えられ過ぎないような政策が確認されることが必要でしょう。

今週の注目材料

米国消費の力強さについて様々な見方があることから(消費者センチメントに関する先週のデータは低調でした)、今週は、米国小売売上高に注目したいと思います。また、ユーロ圏と英国のインフレデータ及び購買担当者景気指数(PMI)も発表されます。また今週は、中央銀行の動向にも地域差が見られる可能性があります。イングランド銀行とオーストラリア準備銀行会合で金利が据え置かれる可能性が高い一方で、スイス国立銀行は今週の会合で利下げを決定するだろうと幅広く予想されています。

注目の日程

公表日

指標等

内容

6月17日

ECBラガルド総裁講演

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

6月17日

カナダ住宅着工件数

住宅市場の健全性を示す

6月17日

ニューヨーク連銀製造業
景気指数

ニューヨーク連銀がニューヨーク州の
製造業を調査

6月18日

オーストラリア準備銀行
金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

6月18日

ドイツZEW景況感

今後6カ月間のドイツの景況感を測定

6月18日

ユーロ圏CPI

インフレの動向を示す

6月18日

米国小売売上高

小売セクターの健全性を示す

6月18日

米国鉱工業生産

鉱工業セクターの健全性を示す

6月18日

日銀金融政策決定会合
議事要旨

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

6月19日

英国CPI

インフレの動向を示す

6月19日

英国PPI(生産者物価指数)

インフレの動向を示す

6月19日

ブラジル中央銀行
金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

6月20日

スイス国立銀行
金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

6月20日

イングランド銀行
金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

6月20日

ECB経済ブレティン

政策決定の基礎となる経済・金融情報を
提供

6月20日

ユーロ圏消費者信頼感指数

ユーロ圏の消費者センチメントを測定

6月20日

日本購買担当者景気指数

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

6月20日

日本CPI

インフレの動向を示す

6月21日

英国小売売上高

小売セクターの健全性を示す

6月21日

ユーロ圏購買担当者景気指数

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

6月21日

英国購買担当者景気指数

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

6月21日

カナダ小売売上高

小売セクターの健全性を示す

6月21日

米国購買担当者景気指数

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

6月21日

米国景気先行指数

景気循環の重要な転換点と短期の経済の
方向性を先行して示す

  • 1.出所:ブルームバーグ、2024年6月14日
  • 2.出所:MSCI、2024年6月1日から2024年6月14日までのMSCIフランス指数のリターンは-7.53%となった一方、MSCIヨーロッパ指数のリターンは-2.69%
  • 3.出所:ニューヨーク・タイムズ、“Macron calls new French legislative elections”、2024年6月9日
  • 4.出所:ポリティコ、"France's Le Pen says she won't seek Macron's resignation if far right wins snap election"、2024年6月16日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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MC2024-080

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