関西経済連合会(関経連)の松本正義会長(住友電気工業会長)は3日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で、東北を除く七つの地方経済連合会が2023年9月にまとめた「コーポレートガバナンスに関する提言」について会見した。その中で行き過ぎた「株主第一主義」に警鐘を鳴らしつつも、「M&Aは別問題」と推進すべきとの姿勢を示している。M&A Onlineの質問に答えた。

株主第一主義とM&Aは全くの別物

「ハゲタカ」や「同意なきTOB」など、「株主第一主義」の象徴とも見られているM&Aだが、松本会長は「M&Aは(ガバナンスではなく)経営の問題。チャンスがあって、ステークホルダーや会社に対する利益があるとすれば積極的に取り組む必要がある」と、前向きな姿勢を示している。

松本会長は「私も(住友電気工業の)社長時代、自動車関係の事業強化のために国内外でM&Aを推進し、世界ナンバーワンになった」と振り返った。

さらに「利益が増え、世界でのマーケットシェアが上昇し、製品開発も進んでいくようなM&Aをストラテジーツールとして活用することは、私たちが提唱しているマルチステークホルダー資本主義とは何ら矛盾しない」(松本会長)としている。

「マルチステークホルダー資本主義」とは、米国で1970年代以降に広まった「株主第一主義」の行き過ぎで富の格差拡大や社会的価値観の分断につながったとの反省から提唱された概念。株主だけでなく、顧客や労働者、サプライヤー、地域社会といった、企業のあらゆるステークホルダー(利害関係者)を重視する。

「三方よし」のコーポレートガバナンスを追求

関経連では「企業は社会の公器」「三方よし」のコア・コンセプトの下、「多様なステークホルダーを重視した『三方よし』の経営」「『中長期的な』企業価値向上とそのための建設的な対話」「単なる『形式』の整備ではなく『実質』を伴ったガバナンスの追求」を基本的な考え方として提唱している。

一方、日本製鉄の米USスチール買収がUSスチール経営陣と株主には賛同されたものの、同社の労働組合や米国政府などのステークホルダーから反対されていることについては、「大統領選挙の直前であり、政治的な問題になった」と指摘。

「(買収実現には)まだ時間がかかるだろう。(問題は)大統領選挙の後に、どのような変化が起こるかだ」と、買収が政治の動向に左右されるのではないかとの見方を示した。

関西地区のM&Aは2024年1月から5月までに109件、取引総額は1兆4376億円。取引総額はすでに2023年1〜12月の5222億円を超えている。このペースだと2024年通年では261件、3兆4503億円と、2019年以降では件数、取引総額ともに最高となる計算だ。

文:M&A Online