iDeCoで月1万円を積みたてると、どれくらいのリターンや節税効果を期待できるでしょうか。

本記事でシミュレーションをした結果、30年間で期待できるリターンは約412万円、拠出時・運用時を合わせた節税効果は約155万円になりました。本シミュレーションは年収500万円の会社員が、日経平均株価と連動する投資信託で積みたてるケースを想定したものです。

便宜上、本記事では過去の平均パフォーマンスが継続する前提ですが、実際の投資にあたっては、日経平均株価と連動する投資信託のパフォーマンスがどうなるかはわからない点にはご注意ください。

あくまでシミュレーション上の結果ですが、iDeCoで月1万円を積みたてる方法は意味がないとはいえません。具体的にどのような効果が期待できるのか、シミュレーション結果と合わせてご紹介します。

iDeCoで月1万円の積立投資が意味のある状況2選

老後資金対策に! iDeCoのたった月1万円の積立が未来を変える
(画像=shiro/stock.adobe.com)

iDeCoで月1万円の積立投資は、どのような人にも意味がないわけではありません。以下のケースに該当する場合は、長期の資産形成に役立つ可能性があります。

(1)同じ金融商品の長期保有なら特定口座や新NISAよりも有利な可能性がある

特定口座や新NISAと同じ金融商品を長期保有する場合は、iDeCoが有利になる可能性があります。iDeCoでは運用益が非課税になるのに加えて、拠出時や給付時にも所得控除を受けられるためです。

特定口座で金融商品を取引すると、運用益に対して20.315%の税金(所得税や住民税など)がかかります。仮に年間100万円の運用益を得た場合、その年の税額は20万3,150円になる計算です。

また、新NISAは非課税投資枠の範囲内で運用益が非課税になる制度ですが、節税効果があるのはリターンが発生した場合のみです。NISA口座で入出金した資産に対して、所得控除などが適用されることはありません。

その点、iDeCoでは掛金を拠出するときと、運用した資産を受けとるときに所得控除が適用されます。

<iDeCoの節税効果>
・拠出時:毎月拠出した掛金の全額に、小規模企業共済等掛金控除が適用される
・運用時:金融商品から生じた運用益が全て非課税になる
・給付時:一時金には退職所得控除、年金には公的年金等控除が適用される

ただし、iDeCoには掛金の限度額(iDeCoの拠出限度額は、職業や勤務先の年金制度によって異なる)があり、最大でも月6万8,000円(年81万6,000円)までしか拠出できません。一方で、新NISAでは成長投資枠とつみたて投資枠を併用すると、最大で年360万円までの非課税投資枠を活用できます。

(2)老後のために毎月貯金をしている状況

普通預金や定期預金とは違い、iDeCoでは運用期間に応じた手数料がかかるため、月1万円の積立投資は意味がないと感じるかもしれません。しかし、拠出時・運用時・給付時の節税効果を踏まえると、iDeCoのほうが有利になる場合もあります。

仮に年収を500万円として、iDeCoの拠出だけでどれくらいの節税効果があるのかを簡単に計算してみましょう。

※適用される控除は基礎控除と給与所得控除のみ、住民税は課税所得金額の10%として計算。

<iDeCoを利用しない場合(貯蓄する場合)>
まずは、所得税と住民税のベースとなる課税所得金額から計算します。

年収-適用される控除=課税所得金額
500万円-(48万円+144万円)=308万円

したがって、所得税と住民税の大まかな金額は以下の通りです。

(課税所得金額×税率)-控除額=所得税
(308万円×10%)-9万7,500円=21万500円

課税所得金額×10%=住民税
308万円×10%=30万8,000円

所得税と住民税を合わせると、1年間の税額は51万8,500円になりました。

<iDeCoで月1万円を拠出する場合>
iDeCoで月1万円を拠出すると、小規模企業共済等掛金控除によって課税所得金額は年12万円減ります。したがって、所得税と住民税の大まかな金額は以下の通りです。

(296万円×10%)-9万7,500円=19万8,500円(所得税)
296万円×10%=29万6,000円(住民税)

所得税と住民税を合わせた税額は49万4,500円となるため、1年間では2万4,000円の節税になります。金融機関にもよりますが、iDeCoの手数料は毎月200円以下なので(加入時には2,829円の手数料がかかる)、手数料以上の節税効果を期待できることがわかりました。

ただし、金融商品が大きく値下がりをした場合など、iDeCoには資産が減るリスクもあります。

iDeCoで月1万円の積立投資に意味がないといえる状況2選

iDeCoは節税効果を期待できる一方で、月1万円の積立投資に意味がない状況もあります。以下では、実際にどのようなケースが該当するのかをご紹介します。

(1)余剰資金がない状況

余剰資金とは、手持ちの資産から生活に必要なお金を差し引いた資金です。余剰資金がない状況でiDeCoを始めると、日々の生活を切り詰めることになるため、月1万円を無理に拠出する意味はないと考えられます。

余剰資金には様々な考え方がありますが、以下では簡単な計算式をご紹介します。

手持ちの資産-(生活防衛資金+準備資金)=余剰資金

・生活防衛資金:3ヵ月~6ヵ月分の生活費
・準備資金:近い将来に使う予定があるお金

仮に毎月の生活費を30万円、生活防衛資金を6ヵ月分、自動車の買い替え(200万円)を控えているケースを想定して、手持ちの資産が350万円だった場合の余剰資金を計算してみます。

350万円-(30万円×6ヵ月分+200万円)=-30万円

計算結果がマイナスとなったため、このケースでは投資に回す余剰資金はないと判断できます。家計状況から「何ヵ月分の生活防衛資金が必要になるか」を考えて、ご自身の余剰資金を計算してみましょう。

(2)老後に向けた資産運用ではない状況

iDeCoで運用する資産は、掛金も含めて原則60歳までは引きだせません。そのため、老後に向けた資産運用ではない場合、iDeCoで月1万円を積みたてる意味はない可能性があります。

例としては、以下のようなケースが挙げられるでしょう。

・50歳でのマイホーム購入を目標にしている場合
・子どもの進学費用を貯める目的で、20代から資産運用をする場合
・生じたリターンを日々の生活費に充てたい場合

もし上記に該当する人がiDeCoに加入すると、資産運用の目標が遠のくかもしれません。マイホームの購入資金や進学費用などは、iDeCoで積みたてた資産とは別に用意する必要があるためです。

中途解約の仕組みはありますが、脱退一時金を受けとるには以下の条件を全て満たす必要があります。

<iDeCoを中途解約できる条件>
・企業型DCの加入者ではない
・日本国籍を有する海外居住者ではない
・iDeCoの加入条件を満たしていない
・障害給付金(iDeCo)の受給資格がない
・通算の拠出期間が5年以下である(※管理資産が25万円以下でも可)
・確定拠出年金の最後の資格喪失日から2年以内である

iDeCoはあくまで年金制度の一種であり、老後資金の形成を想定した制度設計になっているので注意してください。

iDeCoで月1万円投資のシミュレーション結果

iDeCoで月1万円を拠出して、日経平均株価に連動する投資信託を積みたてると、どれくらいのリターンを期待できるでしょうか。以下の表は、運用期間10年~30年のリターンと節税額をまとめたものです。

運用期間期待できるリターン節税額
10年48万8,400円拠出時:24万円
運用時:9万9,218円
合計:33万9,218円
20年186万4,800円拠出時:48万円
運用時:37万8,834円
合計:85万8,834円
30年412万9,200円拠出時:72万円
運用時:83万8,847円
合計:155万8,847円

給付時に適用される控除は退職金や老齢基礎年金の影響を受けるため、本シミュレーションでは考慮しません。上記の節税額は、拠出時と運用時のみを想定したものになります。

シミュレーションの前提条件については、以下の通りです。

<シミュレーションの前提条件>

年収:500万円
職業:会社員
適用される控除:基礎控除、給与所得控除
所得税の税率:10%(控除額は9万7,500円)
住民税の税率:10%
リターンの再投資:なし
期待できる利回り:1年間で投資資金の7.4%(※)
(※)期待できる利回りは、2014年~2024年における日経平均株価の年平均成長率。株価については、いずれも1月時点での始値を基準として計算。

<期待できるリターンの計算方法>
各年の投資総額に対して、7.4%を乗じる簡易的な方法で計算を行います。例として、以下では1年目~3年目のリターンをまとめました。

投資総額×7.4%=期待できるリターン
1年目:12万円×7.4%=8,880円
2年目:24万円×7.4%=1万7,660円
3年目:36万円×7.4%=2万6,640円

なお、相場状況によっては損失がでることもあるので、上記の金額はあくまで参考程度に留めてください。

節税効果の計算式

iDeCoを利用した場合の節税効果については、拠出時と運用時に分けてシミュレーションを行いました。

<拠出時の節税効果>

毎年の課税所得金額を基準として、iDeCoを利用する場合と利用しない場合の差額を計算します(※先述と同様)。計算の過程は次の通りです。

【1】iDeCoを利用する場合の課税所得金額を計算する
【2】iDeCoを利用しない場合の課税所得金額を計算する
【3】上記【1】と【2】の所得税と住民税を計算して比較する

例として、iDeCoを利用した場合の税金を計算してみましょう。

年収-(基礎控除分+給与所得控除分)-年間の拠出額=課税所得金額
500万円-(48万円+144万円)-12万円=296万円(iDeCoを利用しない場合)

(296万円×10%)-9万7,500円=19万8,500円(所得税)
296万円×10%=29万6,000円(住民税)

したがって、iDeCoを利用した場合の税金は49万4,500円です。同じ流れでiDeCoを利用しない場合のシミュレーションをすると、1年間の税金は51万8,500円となるため、拠出時の節税効果は年間2万4,000円になります。

<運用時の節税効果>
iDeCoでは金融商品の運用益が全て非課税になるため、1年間の節税効果は以下の式で計算できます。

1年間のリターン×20.315%=1年間の節税効果

本シミュレーションでは運用年数に合わせて、毎年の節税額を合計します(※小数点以下は切り捨てて計算)。

10年後、iDeCoで月1万円を投資した際のリターンと節税額

iDeCoで月1万円を積立投資すると、10年後にはどれくらいのリターンや節税額を期待できるでしょうか。先述の前提条件でシミュレーションした結果をご紹介します。

10年後のリターン

10年後に期待できるリターンは、総額で48万8,400円になります。積みたてた掛金と合計すると、iDeCoの資産額は168万8,400円(48万8,400円+120万円)です。

10年間の節税額合計

拠出時の節税額は24万円、運用時の節税額は9万9,218円です。したがって、10年間の節税額合計は以下の通りです。

拠出時の節税額+運用時の節税額=節税額合計
24万円+9万9,218円=33万9,218円

20年後、iDeCoで月1万円を投資した際のリターンと節税額

次に、運用年数が20年になった場合のリターンと節税額をご紹介します。

20年後のリターン

20年後に期待できるリターンは、総額で186万4,800円になります。積みたてた掛金と合計すると、iDeCoの資産額は426万4,800円(186万4,800円+240万円)です。

20年間の節税額合計

拠出時の節税額は48万円、運用時の節税額は37万8,834円です。したがって、10年間の節税額合計は以下の通りです。

48万円+37万8,834円=85万8,834円

30年後、iDeCoで月1万円を投資した際のリターンと節税額

運用年数が30年になると、期待できるリターンと節税額はどれくらい増えるでしょうか。同じ流れでシミュレーションした結果をご紹介します。

30年後のリターン

30年後に期待できるリターンは、総額で412万9,200円になります。積みたてた掛金と合計すると、iDeCoの資産額は772万4,800円(412万9,200円+360万円)です。

30年間の節税額合計

拠出時の節税額は72万円、運用時の節税額は83万8,847円です。したがって、10年間の節税額合計は以下の通りです。

72万円+83万8,847円=155万8,847円

iDeCoは月1万円でもリターンと節税効果を期待できる

iDeCoで月1万円を拠出して、日経平均株価と連動する銘柄に投資すると、30年間では過去の日経平均のパフォーマンスが続くと仮定すると400万円以上のリターンや約155万円の節税効果が見込めます。10年間のリターンや節税効果を見ても、iDeCoの活用に意味がないとはいえません。

ただし、本記事のシミュレーションは執筆時点でのデータを参照したものです。冒頭にも述べたように日経平均株価と連動する投資信託のパフォーマンスがどうなるかはわからない点にはご注意ください。

金融商品や相場状況によって結果は変わるため、実際の投資では情報収集をきちんと行いましょう。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は投資信託に関わる基礎知識を解説することを目的としており、特定ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。
※過去の実績は将来の運用成果等を保証するものではありません。
※本記事は、2024年7月3日現在のものです。今後制度が変更になる場合もあります。

(提供:Wealth Road