ステーブルコインから派生した「シンセティック・ドル(Synthetic Dollar)」への注目が再燃しています。本記事では、そのポテンシャルと課題に迫ります。
シンセティック・ドルとは
シンセティック・ドルはブロックチェーン技術を基盤とする、ステーブルコインの一種です。
法定通貨や暗号資産を担保とする担保型ステーブルコインとは異なり、シンセティック・ドルはアルゴリズムを活用して需要と供給を調節することにより、価格の安定を維持するよう設計されています。
具体的には、需要が増加すると新しいトークン(代替通貨)を発行して供給量を増やし、需要が減少するとトークンをバーン(※)して供給量を減らす仕組みです。そのため、アルゴリズム型ステーブルコインと呼ばれることもあります。
(※)市場に流通しているトークンを削除すること。
通常、シンセティック・ドルは分散型ガバナンスを採用しており、コミュニティーの参加者がコンセンサス・メカニズム(※)を通して意思決定を行います。これにより、取引の透明性が高まり、担保への依存リスクや中央集権的リスクを回避できる点がメリットです。さらにコスト効率やスケーラビリティの向上が期待されます。
(※)ブロックチェーンの利用者間で合意形成を行う仕組み。
テラ崩壊で浮上した重要課題
代表的なアルゴリズム型ステーブルコインとして、「テラ(Terra)」が挙げられます。法定通貨と連動するステーブルコインであるテラは、アルゴリズム型ステーブルコインである「ルナ(Luna)」に裏付けられていました。
2022年初旬には時価総額400億ドル(約6兆4,000億円)を記録しましたが、同年5月に担保不足による懸念から一夜にして価格が崩壊。2024年6月に運営元であるテラ・フォーラム・ラボが、テラ・ブロックチェーンの管理をコミュニティーに託す意向を明らかにしました。
この出来事を機に、市場においては「アルゴリズム型ステーブルコインは市場の急激な変化に十分に対応できない場合、担保がなくリスクが極めて高い」という警戒心が強まりました。
その一方で、シンセティック・ドルにはほかの暗号資産にはない様々なメリットがあることから、市場の透明性と信頼を高め、テラ崩壊の引き金となったようなリスク要因をいかにして排除できるのかが重要課題となっています。
次世代シンセティック・ドルの開発に挑む
暗号資産市場においてはこのような課題の背景を踏まえ、次世代シンセティック・ドルの開発に挑む動きが見られます。以下、2つの最新事例を見てみましょう。
(1)裁定取引の仕組みを活用して価値を維持「エテナ(USDe)」
ポルトガルの都市リスボンで開発されたステーブルコインであるUSDeは、裁定取引(※1)の仕組みを活用して価値を維持するように設計されたシンセティック・ドルです。具体的には裁定取引の仕組みをプロトコル(※2)に組み込み、ショートポジション(売りから入る売買方法)とロングポジション(買いから入る売買方法)を同時にとることで価値の上昇・下落を相殺し、USDeと呼ばれる独自のステーブルコインの価値を1ドルに維持することを目指しています。
ユーザーはUSDeをステーキング(※3)することにより、リターンを得ることができます。USDe はステーキングによる高い利回りを実現しており、2024年2月のローンチからわずか4カ月間という記録的な速度で、時価総額が30億ドル(約4,800億円)に達しました。
(※1)同じ価値の商品間の一時的な価格差を利用して、利益を得る取引のこと。
(※2)コンピュータ間でデータをやりとりするルール。
(※3)一定量の暗号資産を所定の期間、預け入れることで報酬が得られる仕組みのこと。
(2)完全オンチェーン型で安全性・分散性・拡張性を強化「アシメトリー(afUSD)」
イギリスの都市ロンドンのアシメトリー・ファイナンス(Asymmetry Finance)が開発したafUSDは、暗号資産アンプルフォース(AMPL)のトークンの供給量を調整するメカニズムを採用することにより、市場状況に応じてトークンの供給量を調節できるよう設計されています。
同社によると、全ての取引を完全にオンチェーン(※)で実行することで、他のシンセティック・ドルより安全で分散化され、かつ拡張性の高いシステムを提供しています。
(※)全ての取引がブロックチェーン上にリアルタイムで記録されること。
暗号資産市場にもたらす新たなポテンシャルに期待
シンセティック・ドルがステーブルコインの課題を克服することにより、暗号資産の新たなポテンシャルへの期待感が高まっています。Wealth Roadではシンセティック・ドルの今後の成長を含め、引き続き暗号資産及びブロックチェーン市場に関する動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=160円
※本記事は暗号資産に関わる基礎知識を解説することを目的としており、暗号資産への投資を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)