上場企業の買収は、TOB(株式公開買い付け)を通じて行われるのが一般的。TOBがすでに始まっているところに、別の買収者が割って入り、争奪戦に発展するケースが増えつつある。その極め付きといえそうなのが独立系システム開発大手、富士ソフトをめぐる一件だ。米国の2大投資ファンドが日本企業を標的に真っ向からぶつかり合う。

ライバル出現でTOB開始を前倒し

米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)は9月5日、富士ソフトへのTOBを開始した。当初は9月中旬に買い付けを始める予定だったが、日程を前倒ししたのだ。

富士ソフトは8月初めに、KKRのTOBを受け入れ、株式を非公開化する方針を発表した。KKRによる買収総額は約5580億円に上り、今年のTOBとして最大級。

富士ソフトは筆頭株主で物言う株主(アクティビスト)として知られるシンガポール投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズとの2年に及ぶ対立に終止符を打ち、KKRの下で将来の再上場を目指すことにしている。

ところが、これに待ったをかけたのが別の米投資ファンドのベインキャピタル。9月3日、富士ソフトに対して7月26日付で非公開化を提案している事実を明らかにしたのだ。買収金額はKKRの提案を5%程度上回る水準を想定している。

ベインキャピタルの提案を受け、KKRはTOBの開始を1週間から10日間程度早める形となった。KKRによる富士ソフト株の買付期間は10月21日までの30営業日。買付価格は1株あたり8800円。

ベイン、富士ソフトの賛同が条件

ベインキャピタルは今後の日程として、KKRによる買付期間中に法的拘束力を持つ非公開化提案を富士ソフトに提出する予定。そのうえで11月以降、富士ソフトの賛同を条件にTOBを開始する方針だ。

富士ソフトはベインキャピタルから法的拘束力を有する非公開化提案を受領した場合、「KKRからの提案との比較を含めて慎重に検討を行う」とのコメントを発表した。

KKRによるTOBの成立前に、ベインキャピタルがKKR側を上回る買付価格での提案が公表されれば、一般株主はKKRのTOBへの応募を控えるとみられる。このため、KKR側として対抗上、買付価格の引き上げが避けられない情勢だ。

買付価格の再考は必至か

実際のところ、KKRによるTOB成立は困難と言わざるを得ない。富士ソフトの9月6日の株価は9430円(終値)で、買付価格の8800円を7%以上上回るためだ。ベインキャピタルが想定するKKRを5%程度上回る水準をも超えており、ベイン自体も買付価格の再考を迫られそうだ。

富士ソフトが8月初めに非公開化を発表後、同社株は8800~8900円台の高値圏で推移していたが、ベインキャピタルの“参戦”表明で9000円を突破した。

米国を代表する有力ファンド同士による買収合戦の様相を帯びる中、富士ソフト株がさらに上伸し、買付価格引き上げを誘う展開が予想される。状況次第で最終的な決着が来年にずれ込むことも考えられる。