新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
これまでの事業変遷について
—— 創業からこれまでの事業変遷について、お聞かせいただけますでしょうか?
フォルシア株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者・屋代 浩子氏(以下、社名・氏名略) 2001年の創業時から、新しい検索エンジンを作ろうという思いで当社をスタートしました。当時はウェブが出てきて、インターネットが流行ってきているものの、自分の探したいものがなかなか探せない時代でした。そこで、とにかく探したいものにたどり着けるような検索エンジンを作ろうと考えました。
おおよそ皆さんが検索エンジンと言うと、Googleを思い浮かべると思います。例えば、Googleでトヨタという単語を検索すると、トヨタのホームページに誘導してくれます。Googleは検索ワードをもとにどこかのページには送ってはくれるものの、そのページで自分が本当に探していた商品を見つけられるかというと、なかなか難しいのが実情です。
私たちが目指したものは、そのGoogleでも実現できないような、本当に詳細なスペックでものを探せるような検索エンジンを作ろうということでした。ECサイトで、利用者が探している商品が最も検索しやすいようなエンジンを作ろうと考えました。
例えば、Amazonなら探しているものを検索できるのではないかと言われることがありますが、Amazonでも検索ができない領域というのがあります。それが旅行商品です。旅行商品は決まった規格があるわけではなく、交通手段や人数など、条件がものすごく多岐にわたり、かつホテルの空室まで調べなくてはいけません。そういった複数の条件が合わさった複雑な商品の検索は、実は非常に難しいロジックの上に成り立っています。
そうしたものまで、見つけられるような検索エンジンの開発・提供を祖業として、当社は現在成長してきています。その後、顧客の共通課題に対応する技術を要素技術として磨き上げ、さらに汎用サービスとして複数顧客の課題解決に資するSaaS型サービスに発展させ、旅行商品のオンライン販売の一連の流れをワンストップでできるところまで展開させています。
飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— これまで20年あまり事業を続けてきた中で、1番成長にヒットしたポイントやブレイクスルーになったポイントがあれば教えていただけますか?
屋代 当社の売上のうち、旅行・観光業界の企業様への検索システムの開発・提供の割合が最も多く、今でもビジネスの6、7割は旅行・観光業界の企業様とのお取引によるものです。実は、創業してから最初の数年はほぼ売上がない状態で、5年目にしてようやく、最初の大手旅行会社様にご導入いただきました。この時が最初のステップでしたね。この最初のお客様との契約というのは1つのブレイクスルーですね。
—— 昨年もJR東海様の「エクスプレス予約」「スマートEX」の新サービス 「EX旅先予約」「EX旅パック」へシステム提供を行ったようですが、この案件の獲得に至るまでの経緯だったり、そこからの流れを教えていただけますか?
屋代 これまでは旅行会社様に当社のサービスをご導入いただき、大手旅行会社様のうち約8割ぐらいの企業様に使っていただいている状況だったのですが、今回の案件では、国内の移動の要でもある新幹線を交通手段としホテル・現地観光を組み合わせた商品の販売システムとして、当社のサービスをご導入いただきました。 新幹線は日本人の移動に欠かせない交通手段であり、その運行品質においては高い基準が設定されています。そのような高い基準が求められるようなシステムとして、当社のサービスがフィットすることを認めていただき、非常に多くのEX会員の方々にご利用いただけるという側面では、大きな転換点でした。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営判断を行う上で重要視している点がございましたら、ご教示願えればと思います。
屋代 フォルシアでは、社員全員と共有しているコンセプトとして1番大事にしているのが「フェアネス」です。経営判断をするにあたって、そのビジネスがフェアかどうかを必ず考えます。フェアでないビジネスで、たとえ当社にどれだけ利益が出たとしても、最終的に誰かががっかりするような要素を持つプロジェクトであれば、フォルシアとしてはやりません。それを常に念頭に置いて、社員とも一緒に考えています。
—— Wantedlyで特徴的な評価制度があると拝見しましたが、組織に対する考え方やこれまでの制度作りについてお伺いしてもよろしいですか?
屋代 これもさっきの話と同じで、結局、組織の作り方もフェアであるべきだと考えています。評価制度にはフォルシアオリジナルの「3C制度」を運用しています。これは、「Contribution = 会社への収益の貢献度」、「Commitment = 業務に対する責任感、献身度」、「Consistency = 会社への安定的関与」の3つの「C」の観点から、全社員の賞与を他の社員が金額ベースで評価する制度で、上司だけでなく、一緒に働いている人みんなで判断していることの結果を賞与に反映させるというとてもフェアな制度だと思います。
実はこの評価の運用は大変時間がかかる作業なのですが、社員それぞれが自分だけでなく、周りがどういう仕事をしているかをしっかり見て、それをフェアな形でみんなに還元していくというコンセプトのもとに行っています。
—— やはり根底にあるのはフェアな取引ということですよね。
屋代 そうですね。フェアでないと、組織として永続していかないと思います。会社を劇的に発展させるためには、「フェア」という考え方が時には障害になることもありますが、長期的に見たら絶対に良い方向に行くと考えています。
事業拡大の未来構想
—— 今後の新規事業の拡大プランや既存事業の拡大についてお聞かせ願えますか?
屋代 現状、フォルシアのサービスは大手の旅行・観光事業者様を中心にご導入いただいておりますが、将来的には、もっと広くさまざまな方々が使えるようにしたいと考えています。例えば、一例として、興行主催者やテーマパーク運営会社が、自分のコンテンツ(興行チケット、テーマパークチケット)を売るために新幹線や宿をつけて、パッケージ販売をするといった場合、当社のプラットフォームを使うことですぐにパッケージでの販売ができるようになる、という世の中にしたいです。販売したいと思う企業ぞれぞれが自社でそのようなプラットフォームを開発するのは非常にコストがかさみますし、旅行商品の販売には旅行業の制約等もあります。そういった不自由さにビジネスチャンスはあるもので、いろんな人が手軽に旅行商品を販売できるような世界観を目指し、そのためのシステムを提供していきたいと思っています。
—— そのために、M&Aやファイナンス戦略的な要素もあると思いますが、会社の調達やM&Aの構想など、話せる範囲でお聞かせ願えますか?
屋代 今まで私たちは十分自分たちの手元資金でやってくることができて、倍々ゲームのような経営をしてきませんでした。しかし、今後はもっといろんな人に我々のサービスを使ってもらいたい、ビジネスを発展させたいと思っております。今後、ビジネスを発展させるための時間が足りなかったり、人員が足りなかったりする時に、フォルシアと相性のいい人たちと資本業務提携を組んだり、M&Aといった方法は常に考えてはいます。
—— これまでも取り組まれていたのでしょうか?
屋代 そうですね。フォルシアは過去に子会社を1つ持っており、色々情報収集はしてはいるのですが、M&Aは簡単なものではないので、あまり積極的にはやっていませんでした。しかし、今後はトレードオフで、第三者の人たちと一緒にビジネスを進めていくことには難しさもありますが、 その実入りがあり、もっと成長が早くなる、開発能力が高くなるといった、ビジネスの幅が広がる可能性があれば、積極的に取り組んでいきたいと思っています。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— ZUU onlineのユーザー様に一言メッセージをいただけますか?
屋代 私たちフォルシアでは、とても優秀な学生さんに来てもらっているケースが多く、そういった学生さんにいつも言うのは、皆さんは足元や今儲かることに目を向けがちですが、やはり長期的に物事を考える訓練を若い人もするべきだということです。特に今はウェブなどで成功ストーリーの記事が世の中に出回っているので、それを読んでいると感化されてしまうかもしれません。ただ、今成功している人はそのパターンかもしれないですが、来年成功する人はそのパターンじゃないかもしれません。そのため、自らさまざまな経験をして、もっと将来のことを考えられるようになることが大切だと思います。
- 氏名
- 屋代 浩子(やしろ ひろこ)
- 社名
- フォルシア株式会社
- 役職
- 代表取締役社長 最高経営責任者