相続は人生の大きな出来事ですが、同時に税金に関する手続きも発生します。
不動産を相続したとき、「年末調整」や「確定申告」についてどのように対応すれば良いのかと頭を悩ませている方もいるかもしれません。
本記事では、相続した不動産がある場合に年末調整や確定申告の手続きは必要なのか不要なのかを解説します。
また、必要になるのはどんなケースでどのように変わるのかなどについても、わかりやすく解説します。
- 不動産を相続した場合、年末調整や確定申告は基本的には不要
- 不動産の相続で確定申告が必要なケースが3つある
- 自己判断せず、税理士や相続に詳しい専門家に相談することをおすすめ
不動産を相続しても年末調整・確定申告は基本的に不要な理由
不動産を相続した場合、基本的には年末調整や確定申告は不要になります。
ここでは、不動産の相続に関して年末調整や確定申告が不要な理由について解説します。
1.年末調整や確定申告は所得税の手続き
年末調整や確定申告は、1年間の「所得」に対して税金を計算し、納付するための手続きです。
年末調整は給与所得、確定申告では事業所得や雑所得などの各所得が対象になります。
所得税とは、この「所得」にかかる税金をいいます。
【所得とは】
「収入」と「所得」という言葉は同じ意味のように使われることがありますが、税法上、収入から必要経費を差し引いたもの、つまり「もうけ」のことを「所得」と呼んでいます。
所得税法では、所得の種類を利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得および雑所得の10種類に分類して、それぞれの所得の内容と計算方法を定めています。
【所得税とは】
所得税は、個人の所得に対してかかる税金で、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し税額を計算します。
2.年末調整・確定申告とは
それでは、年末調整や確定申告は、そもそもどのようなものなのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
・年末調整とは
年末調整とは、会社員などの給与所得者が1年間の所得を会社で精算し、過不足の税金を調整する手続きです。
会社が従業員の代わりに税金を計算し、源泉徴収した税金と、実際に納めるべき税額との差額を精算します。
所得税は、本来「実際の所得に対してかかる税金」です。
ところが、会社から給与をもらっている人は、給与から事前に「仮の金額の所得税」を会社に納めています。
これを「源泉徴収」といいます。
あくまでも「仮の」金額なので、実際に払うべき所得税よりも払いすぎている可能性があります。
この「会社などが給与所得者から先に徴収してあった所得税(仮)」と「実際にその給与所得者が得た給与総額から扶養控除や配偶者控除」「その他生命保険料控除などの控除(=所得税がかからない部分)額を差し引いて計算した所得税(正)」の差額を計算し、確定する作業が年末調整です。
なお、年末調整できるのは「給与所得」のみです。
それ以外の所得がある場合は確定申告をおこないます。
・確定申告とは
確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間の「所得」を自分で計算し、翌年2月半ばから3月半ばまでの決められた期間に税務署に申告する手続きをいいます。
たとえば、個人事業主など、企業勤めではなく年末調整をおこなってもらえない人は、確定申告をおこなわなければなりません。
会社員であっても、副業での収入がある場合や不動産の売却をおこなった場合など、年末調整だけでは対応できない所得があると確定申告が必要になります。
・年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告を比較すると以下のとおりです。
項目 | 年末調整 | 確定申告 |
---|---|---|
対象者 | 給与所得者(主に会社員) | 会社員以外の人、会社員でも副業収入などがある人など、多岐にわたる |
手続きをおこなう主体 | 給与を支払っている会社など | 個人 |
期限とやること | 年末までに会社が期限を設けて対象者に通知(主に10月末~12月初旬)、対象者は必要な控除などを会社に連絡する | 翌年の2月半ば~3月半ばに自分で税務署に申告する(詳細な期日は毎年公表)※ |
3.相続財産は所得に含まれない
相続によって得た不動産などの財産は、所得とはみなされません。
所得ではないので基本的に所得税はかかりません。
よって年末調整や確定申告で、相続した不動産について手続きをおこなう必要はありません。
所得とは、何かしらの活動によって得られる経済的な利益(もうけ)を指すのに対し、相続は単に財産が移転するものであり、経済的な活動による利益を得たとはいえないからです。
不動産を相続すると、金銭的に大きな金額が入ってくることになるため「年末調整はどうなるのか」「確定申告が必要なのでは」と不安になるかもしれません。
しかし、不動産に限らず、故人の財産を相続してもそれは「所得」ではありません。
なお、「基本的に」と前置きしましたが、相続した不動産の種類や、相続した後にどう扱うかによっては所得税がかかるケースがあります。
どのようなときに所得税が発生するのかについては、後ほど詳しく解説します。
4.相続した財産にかかるのは相続税
相続によって得た財産に対しては、相続税がかかります。
相続税は、亡くなった方の財産が相続人に移転する際に課される税金で、所得税とは別の税金です。
【相続税とは】
相続税は、亡くなられた親などから、お金や土地などの財産を受け継いだ(相続した)場合に、その受け取った財産にかかります。
相続税と年末調整・確定申告に関する注意点
ここでは、相続税と年末調整・確定申告に関連した注意すべきポイントについて解説します。
1.相続税の修正は年末調整や確定申告ではおこなえない
相続税の修正を、所得税の申告に関連する年末調整や確定申告でおこなうことはできません。
相続税は、相続税の申告書を作成し、被相続人(亡くなった人)の住所地を所轄する税務署に申告します(被相続人の死亡の時の住所が日本国内の場合)。
年末調整や確定申告とは基本的に関係しないことは前述のとおりです。
もしも申告した相続税にミスが見つかって修正する場合は、あらためて「相続税の修正申告」をおこなうことになります。
【相続税の申告の期限】
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内におこなうことになっています。
たとえば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。
2.相続税は所得税の控除対象にならない
相続税を支払ったからといって、相続税の金額が所得税から控除されることはありません。
相続税は前述したとおり、所得税とは別の税制における税金だからです。
また、不動産を相続で得たからといって、その不動産が所得税の計算において控除の対象になることもありません。
3.不動産を相続しただけで扶養からは外れないが売却すると外れる可能性がある
家族の扶養に入っている人が不動産を相続しても、原則として扶養から外れることはありません。
扶養の要件は、その人の収入や生計を同一にしているなど、さまざまな要素・条件によって判断されますが、不動産の相続はこれらの要件に直接影響を与えるものではないためです。
【扶養控除とは】
第八十四条 居住者が控除対象扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その控除対象扶養親族一人につき三十八万円(その者が特定扶養親族である場合には六十三万円とし、その者が老人扶養親族である場合には四十八万円とする。)を控除する。
しかし、相続した不動産を売却して利益(譲渡所得)を得た場合は異なります。
扶養には「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」があります。
税法上の不要の場合、扶養対象者の条件として、年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)という項目があり、その金額よりも譲渡所得が多かった場合は、扶養から外れる可能性があります。
扶養から外れると、所得税と住民税が課税され、扶養していた人への課税額が大きくなります。
なお、社会保険(厚生年金、健康保険)は、不動産売却のような一時的な収入増加では一般的に控除から外れる要因にはならないようです。
現在は被扶養者(扶養親族)になっていて、相続した不動産の売却を考えている場合は、扶養が外れた場合に支払わなければならない税金について注意が必要です。
4.相続した不動産には基本的に不動産取得税はかからない
相続した不動産に不動産取得税は通常、かかりません。
ただし特定遺贈、死因贈与の場合はかかります。
一方、固定資産税や登録免許税は通常の不動産と同様にかかります。
登録免許税は、その不動産を相続した人が相続人(民法で定められた相続人)か、相続人以外(本来は相続人ではないが遺書などで相続人として指定された人)かによって、税率が異なり、相続人以外のほうが高くなります。
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不動産の相続で確定申告が必要な3つのケース
ここまで、相続した不動産に対しては「基本的に」確定申告は不要とお伝えしてきました。
しかし例外的に、確定申告が必要になるケース、つまり相続した不動産で確定申告が必要な「所得」が発生するケースがあります。
ここでは不動産の相続に関連して確定申告が必要になるケースについて解説します。
【ケース1】相続した不動産を売却した場合
相続した不動産を売却した場合、売却額によっては利益が発生します。
利益が出た場合は「譲渡所得」といい、譲渡所得税を支払う必要があります。
【譲渡所得とは】
譲渡所得とは、一般的に、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得をいいます。
譲渡所得は、不動産などを売却して得た金額から、その不動産を取得または売却するためにかかった費用を差し引いて求められる差額です。
譲渡所得に対しては、譲渡所得税がかかり、確定申告で所得計上する必要が出てきます。
ただし、譲渡所得がある場合でも、必ず確定申告が必要というわけではありません。
特例控除などに該当し、確定申告は不要な場合があります。
・譲渡所得税と所得税は税率が異なる|確定申告での処理に注意
譲渡所得税は名前のとおり所得税の一種ですが、一般的な所得とは別に計算されます。
譲渡所得税の税率は、譲渡した資産の種類や保有期間によって異なります。
また特別控除が適用される場合もあります。
・長期譲渡所得と短期譲渡所得
不動産を所有していた期間が5年を超えていれば「長期譲渡所得」、5年以下であれば「短期譲渡所得」となります。
それぞれの税率が異なり以下になります。
短期譲渡所得の税率:39.63%(所得税 30.63%/住民税 9%)
長期譲渡所得の税率:20.315%(所得税 15.315%/住民税 5%)
・特別控除
住宅の売却など、特定のケースでは特別控除が適用されることがあります。
・相続財産を譲渡(売却)した場合の取得費の特例とは
相続で取得した不動産を売却する場合、取得費の計算に特例が適用されることがあります。
一般的には、相続開始時の時価が取得費となりますが、相続税の申告額を証明できれば、その金額を取得費とすることができる場合があります。
【ケース2】投資用不動産を相続し事業も承継した場合
相続した不動産が、賃貸アパートやテナントが入居するビルなどのいわゆる「投資用不動産」だった場合、確定申告が必要になる可能性があります。
・投資用不動産を承継したら事業と見なされ確定申告が必要になる
賃貸アパートや賃貸マンション、テナントが入居するビルなどは、第三者に貸して家賃収入を得る不動産で、事業用物件などと呼ばれます。
このような不動産を相続した場合、2つの方法が考えられます。
1つ目は、売却する方法です。これは【ケース1】で見たとおり、譲渡所得税が発生する可能性が高いです。
2つ目は、故人がおこなっていた賃貸経営事業をそのまま承継する(=引き継ぐ)方法です。事業ですから、当然新たな収入が増えることになります。
この事業で得られる収入は、【所得とは】の引用で出てきた不動産所得になります。
いずれの場合も、所得が発生するため、確定申告が必要になります。
・不動産投資事業は青色申告のため事前申請が必要
確定申告の方法には「白色申告」と「青色申告」があります。
青色申告のほうが、税制上のメリットが大きくなっています(最大65万円の特別控除の適用など)。
不動産投資事業は、物件の規模によっては大きな所得が発生します。
当然、控除額が大きい青色申告のほうが課税所得額を減らすことができるため、有利です。
この青色申告は、「青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始したり、不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日(非居住者の場合には事業を国内において開始した日)から2月以内)」に税務署に申請する必要があります。
相続により事業を承継した場合も事業開始とみなされるため、青色申告を希望する場合は速やかに申請手続きをおこなう必要があります。
もし故人が青色申告者で申請していたとしても、それは故人にのみ有効で相続できないため、改めて相続した人が申請しましょう。
【ケース3】亡くなった人の所得を準確定申告する場合
・準確定申告とは
亡くなった人に所得があり、本来ならば確定申告の必要があった場合、相続人などが代理で確定申告することを準確定申告といいます。
確定申告は、前の年の収入についての納税額を申告します。
準確定申告も、被相続人が亡くなった年の1月1日から、亡くなった日までに発生した被相続人本人の所得について申告することになります。
・準確定申告の期限
準確定申告の期限は、通常の確定申告とは異なり、相続開始を知った日の翌日から4カ月以内となっています。
まとめ
本記事では、不動産を相続した場合に年末調整や確定申告は必要なのか、必要なのはどのようなケースなのかについて解説しました。
不動産を相続した場合、年末調整については、相続によって必要になることはありません。
確定申告が必要かどうかは、ケースによって異なります。
原則として、不動産を相続しただけでは確定申告の必要はありません。
これは、確定申告は所得税の申告であり、相続によって得た財産は「所得」とはみなされないためです。
しかし、以下のケースでは確定申告が必要になる場合があります。
・相続した不動産を売却して譲渡所得が発生した場合
・相続した不動産が投資用物件で、不動産投資所得があり、その事業を承継した場合
・準確定申告をおこなう場合
相続に関する税金は非常に複雑なため、自己判断せず、税理士や相続に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
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(提供:ACNコラム)