特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

株式会社豆蔵デジタルホールディングス
(画像=株式会社豆蔵デジタルホールディングス)
中原 徹也 ―― 株式会社豆蔵デジタルホールディングス 代表取締役社長

1990年4月 エヌ・ティ・ティ・データ通信株式会社(現 株式会社NTTデータ)入社
1996年10月 日本オラクル株式会社入社
2002年4月 ウルシステムズ株式会社入社
2004年9月 株式会社豆蔵(※1)入社
2014年4月 株式会社豆蔵(※2)代表取締役社長(現任)
2017年3月 株式会社エヌティ・ソリューションズ代表取締役社長(現任)
2020年3月 株式会社コーワメックス取締役(現任)
2020年11月 当社代表取締役社長(現任)
※1:2021年4月1日JSEEホールディングス株式会社に商号変更、2023年9月1日解散
※2:現当社連結子会社
当社は、AIソフトウェア工学とロボット工学の分野で高度な技術力を誇るテクノロジーカンパニーであり、内製化促進など日本特有の課題を解決し、知識・経験、スキルを結集して独自性と競争優位性を持つデジタルビジネスの創出に貢献します。お客様に対する貢献したいという強い熱意、そして諦めない強い意志が強みであり、更に、継続的な技術革新を追求し、飛躍的な成長を目指します。

目次

  1. これまでの経歴について
  2. 上場を目指された背景や思い
  3. 今後の事業戦略や展望
  4. 今後のファイナンス計画や重要テーマ
  5. ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

これまでの経歴について

—— これまでのご経歴についてご紹介いただけますでしょうか?

中原 私自身はNTTデータや日本オラクル、ベンチャー企業などの経験を経て2002年に豆蔵に入社し、金融業界及び製造業界でオブジェクト指向技術を産業に普及すべく営業をしておりました。

10年前に豆蔵の社長に就任した当時、旧豆蔵ホールディングスには計10社が連結されていました。これらは、SIer(システムインテグレーター)、コンサルティング、派遣、半導体製造装置メンティ保守、IoTデバイス製造販売など複数のカテゴリにまたがっており、マーケットからは「コングロマリットディスカウント」の評価を受けて、時価総額の伸び悩みが見られました。

そこで、事業をより明確にするため、SIerとコンサルティングのカテゴリを分け、コンサルティングを中心とした3つの事業会社を連結させ、「豆蔵デジタルホールディングス」という新会社としてスピンアウト(会社の一部門を切り離して独立)し、新規上場に挑戦することにしました。

上場を目指された背景や思い

—— 上場を目指された背景についてお話しいただければと思います。

中原上場の必要性を感じた理由は大きく二つあります。

まず、デジタルビジネスが急速に拡大する中、製造業のお客様におかれましては、お客様のコア技術にロボティクス技術を組み合わせることにより新規事業を創出しようと考えられています。 この場合、こうした事業には高い信頼性が必要で、お客様からの期待もあり、再度上場を目指すことにしました。

もう一つは採用面です。当社グループには、800名の社員のうち約20名が博士課程修了、修士課程も含めて100名以上の大学院卒業という非常に優秀な人材がいます。上場することで、さらに優秀な人材を採用しやすくなると考えています。

今後の事業戦略や展望

—— それでは、現在の事業戦略や今後の展望についてお話しいただけますか?

中原 当社は「豆蔵Way」という独自のビジネスモデルを持っています。非常に高い個々の能力と競争優位性を持った人材が集まっていますが、その分個性が強いため、事業のスケールを拡大するには属人的な部分をできる限り排除する必要があります。

そこで、技術ナレッジを集約した「豆蔵Way」を活用し、プロジェクトの実践的ノウハウやソフトウェア工学、ロボット工学などの知見を蓄積しています。これにより、若手社員を即戦力として育成することに成功しています。

—— 続いて、具体的な事業展開について教えてください。

中原 当社は「内製化促進」を重要なキーワードとして注力しています。 欧米と比較して、日本では内製化が遅れており、これが日本産業の大きな課題となっています。デジタル化が進む中、多くの企業は外部委託に頼るのではなく、自社内で技術開発や運用を行う「内製化」を進めています。これは、ITサービスや製品の迅速な開発、コスト削減、競争優位性の確保につながるためです。この内製化を支援するコンサルティングや人材育成は、特に今後の成長が期待される分野です。 当社は「豆蔵Way」を活用し、お客様がデジタルビジネスの内製化プロジェクトを効果的かつ効率的に推進できるよう支援しています。

また、当社の売上の約6割は製造業、特に輸送産業や自動車業界が大きな割合を占めています。これらの業界では、基幹システムの老朽化が足かせとなっており、さらに内製化が進まず、人材育成の問題も多く抱えています。私たちは、4つのセグメントでサービスを提供しています。まず、デジタル化の準備として、内製化のサポート、ソフトウェアのモダナイゼーション、クラウドネイティブアーキテクチャの策定やクラウドERP導入などを行います。次に、デジタル化の壁を乗り越えたお客様には、AIコンサルティング、AIロボティクス・エンジニアリング、モビリティオートメーションなどのサービスを提供しています。

—— 今後の展望についてはどのようなことを考えていますか?

中原 今後は、独自のビジネスモデル「豆蔵Way」を活用しつつ、労働集約型から知識集約型へと転換していくことと、既存事業と生成AIを掛け合わせて、より強い収益構造を構築していくことを進めて参ります。

当社の大きな特徴の一つは、AIとロボティクスにおける優位性です。11年前に海外のお客様から引き合いを頂き、産業ロボットを5年掛けて開発し、市場に出荷することが出来ています。 AIの進化とロボティクスの普及は、今後の産業革命の中心に位置しており、当社の事業はまさにこのトレンドの最前線にあります。自動化が進むことで、人手不足や労働コストの上昇に対するソリューションとして、ロボティクスの需要はさらに高まると予想されます。投資家にとっては、AIとロボティクスという今後の成長分野に関わる企業への投資は、長期的なリターンが期待できるものとなります。

—— 生成AIという技術についてはどのような取り組みをしていますか?

中原 今年の3月にグループ横断的なタスクフォースを結成し、全セグメントにおいて生成AIを適用することをチャレンジしています。既にERP事業においては、生成AIを活用したERP導入サービスとして、「AutoConv-Navi」を発表しており、生成AIを活用してERP導入の効率化を実現し、最大55%の工数削減を可能にします。内製化トレンドが広がる中、当社はMicrosoftとのパートナーシップを活かし、ERP導入プロジェクトのリスクを軽減しつつ、企業が自ら導入を進められる支援を提供しています。今後、期待頂きたいと考えています。

今後のファイナンス計画や重要テーマ

—— 今後のファイナンス計画や重要なテーマについて、お話しいただければと思います。

中原 今回グロース市場への上場を果たしたことで、投資家の皆様から成長に向けた投資に対する関心が高まっていると感じています。当グループの大きな競争力の源泉は、高度な人材が多く集まっている点にあり、グループ全体の離職率も約7.3%と非常に低い水準です。

私は、技術者が成長できる環境やプロジェクトを提供することが最も重要だと考えています。業績自体は直接コントロールできませんが、常に少し高めの目標を掲げたプロジェクトを提供し続けることで、技術者が成長を実感し、その積み重ねが結果的に業績に繋がると信じています。そのため、売上規模を追求して無理にプロポーザルや入札をすることは一切行っていません。

大規模な成長投資は必要としていませんが、人的資本への投資は着実に行い、AIロボティクスなどのハードウェア関連への投資も計画的に進めていく方針です。

—— 今後、他社との協業や資本業務提携などは選択肢の一つとして考えていますか。

中原 私たちは知識集約型の事業を目指しており、社員を増やすためのM&Aは考えていません。ただし、高度な技術を補完していくベンチャー企業や魅力的な会社であれば、ぜひグループの一員になっていただき、この産業に貢献していきたいと思っています。

実際MBOをした後に、それまで収益性の低かった会社2社と豆蔵とでシナジーを組んで収益性を上げることにも成功しました。今後もそういったスタンスで取り組んでいきたいと思っています。

ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

—— 最後に、ZUU onlineのユーザーに向けて一言お願いできますか?

中原 上場に合わせて中期計画を開示したのは、私たちが強固な顧客基盤と事業基盤を持っていることを示すためです。発表した数値は保守的な見積もりであり、持続可能かつ中期的に取り組める内容ですが、私自身はさらに高い目標に向けて挑戦したいと考えています。

当社はROA(総資産利益率)が高く、事業の継続性も非常に高いです。また、フリーキャッシュフローのコンバージョン率も高いため、資本を効率的に蓄積できる事業モデルを有しています。

私たちは、事業の成長だけでなく、配当額にも力を入れ、これらを両輪として投資家の皆様から評価される企業を目指しています。もちろん、成長が最優先ですが、今後もこの方針で取り組んでいく考えです。

—— 本日はありがとうございました。今後の御社のご活躍に期待しております。

氏名
中原 徹也
社名
株式会社豆蔵デジタルホールディングス
役職
代表取締役社長

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■取材対象者 中原 徹也 代表取締役社長