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この記事は2025年1月30日に「テレ東BIZ」で公開された「「やってみれば」精神で復活 ドムドムハンバーガーの戦略とは…:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
目次
攻めの個性派バーガーで人気復活~日本最古のドムドムバーガー
日本で一番古いハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」。創業は1970年で、「マクドナルド」より1年、「モスバーガー」より2年早い。
生みの親はスーパー「ダイエー」の創業者、中内功氏。最盛期には全国に400店舗以上あったが、その後、業績が低迷し、一時は27店舗まで減少。「絶滅危惧種のハンバーガーチェーン」というレッテルを貼られたこともあった。
ところが現在、そんな「ドムドムハンバーガー」が若者を中心に人気回復。ジリ貧だった売り上げも2021年に上昇に転じ、以降4年連続で前年を上回っている。
その原動力が客を面白がらせる攻めの個性派バーガーだ。代表格は「丸ごと!!カニバーガー」(1,290円)。身はもちろん、みそや殻の風味などカニが丸ごと味わえる。見た目のインパクトと意外なおいしさが客の心をつかみ、瞬く間にSNSで大バズりした。
▽見た目のインパクトと意外なおいしさ「丸ごと!!カニバーガー」
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他にも「手作り厚焼きたまごバーガー」(450円)、「おさつサーモンバーガー」(690円)といった世間をあっと言わせるメニューへの挑戦が、ドムドムを黒字回復させたのだ。
運営するドムドムフードサービスの東京オフィスは東京・浅草にある。こじんまりとしたオフィスに常駐しているのはわずか6人だ。
黒字回復の立役者はドムドムフードサービス社長・藤﨑忍(58)。専業主婦だった藤﨑は39歳で初めて働きに出た。その職場が「渋谷109」。その後、51歳でドムドムハンバーガーに入社。わずか9カ月で社長にまで上り詰めたという異色の経歴の持ち主だ。
ドムドムは毎月必ず新作の個性派バーガーを発売している。藤﨑に開発の基準を聞くと「何しろ、まず食べておいしいことです。ハンバーガー業界とか飲食業界の常識から逸脱していても問題はない。そういうもののほうが良いかなと思ったりもします」と言う。
そして藤﨑は、必ず「やってみればいいじゃん」とつけ加える。「やってみればいいじゃん」は「ドムドムハンバーガー」再生のキーワードだ。
「やってみれば」の精神で個性派バーガーを次々開発
やってみればいいじゃん戦略1~自由な発想の商品開発
新商品の試食会は月に3回ほど。参加するのは社長の藤﨑と商品開発担当役員・浅田裕介。浅田はドムドムの商品開発の要だ。
「うちのチェーンの規模は他のバーガーチェーンより小さいので、それならではのことをやらないと他のチェーンと闘えない。(商品開発を)だいたいずっと考えています」(浅田)
この日の最初の試食は「春菊かき揚げバーガー」。1株分の春菊をかき揚げにしたこのバーガーの開発に、浅田は4カ月を要した。
▽2025年1月24日から販売が始まっている「春菊かき揚げバーガー」
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「分厚めの春菊のかき揚げ2枚で真ん中にビーフパテを挟んでいます。春菊の歯ごたえをザクザク味わって欲しくてあえて真ん中に。1つだけだと春菊をそこまで感じない。ちょっとほろ苦いようなサクサクとした食感を生かすためには2枚がマストかな、と」(浅田)
「これはもう商品化決定。以前、違う春菊バーガーを食べて、一発目でびっくりして、笑って、絶対いけると思って、ちょっと手直ししてもらって、これが最終形です」(藤﨑)
「春菊かき揚げバーガー」(790円)は2025年1月24日から販売が始まっている。(※一部店舗は販売休止)
続いて浅田はちくわの磯辺揚げで3種類のバーガーを提案。ちくわと明太子、ちくわとポテトサラダ、ちくわとカレー。
▽浅田さんはちくわの磯辺揚げで3種類のバーガーを提案、藤﨑さんの反応は「全然あり」だ
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藤﨑の反応は「全然あり」だ。
「どこかの店でやってみたらいいじゃない。期間限定で新しいことをやってみるというのもいいんじゃない?」(藤﨑)
藤﨑の「やってみればいいじゃん」の一言で世に出た個性派バーガーは50を超える。そのどれもが売り上げ目標をクリアしたヒット商品になっている。
やってみればいいじゃん戦略2~垣根を作らずどんな企業ともコラボ
この日は「雪国まいたけ」とコラボ商品の打合せだ。「雪国まいたけ」は国内の舞茸生産量の50%以上を占めるトップメーカー。商品は200グラムの舞茸をそのまま素揚げしてバンズに乗せ、てりやきソースをたっぷりとかけた「今夜はまいたけバーガー」(890円)だ。
「私どももマーケティング部で、たくさんメニュー提案していますけど、ハンバーガーっていうのはなかったです」)「雪国まいたけ」マーケティング部課長・菅野雅之さん)
一方、東京・銀座の洋食店「銀座スイス」は昭和22年創業、カツカレー発祥の店とも言われている。ひき肉をベースに多くの野菜をともに煮込んだ伝統のカレーソース。そのカツカレーは80年近く続く、銀座を代表する味の一つだ。
その名店と「ドムドムハンバーガー」銀座店がコラボしたのが「カツカレーバーガー」(1,590円)。カレーソースは「銀座スイス」のものを使っている。銀座店限定で、これ目当ての客も多いという。
やってみればいいじゃん戦略3~グッズでファン層を拡大
全国に29店舗と店舗数が少ない「ドムドムハンバーガー」は認知度も低い。
「若い方は『ドムドムハンバーガー』を知らないけれど、グッズから入ったという方もいらっしゃいます。(ロゴ入り)リュック背負っているけど、行ったことないという方も多くいらっしゃいます」(藤﨑)
メインキャラクターは「どむぞうくん」。キャラクターグッズで若い層の認知度を上げようという作戦だ。Tシャツやタオルなどさまざまなグッズを展開している。
▽メインキャラクター「どむぞうくん」Tシャツやタオルなどさまざまなグッズを展開している
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静岡・浜松市の「遠鉄百貨店」でドムドムグッズのイベントが開かれていた。
「ドムドムハンバーガー」はグッズ展開で認知度を上げようと、期間限定のポップアップショップを各地で開催している。店舗が少ない分、グッズでファンをつかむのが狙いだ。
グッズ展開を打ち出したのは藤﨑だが、「やってみればいいじゃん」の精神でスタッフが毎月のように新作を提案し、今やその数は1,000以上、会社の全売り上げの7%を超えるまでになった。グッズでファンの裾野を拡大し、そのファンが店に来ることでバーガーの売り上げも伸びる。
藤﨑の「やってみればいいじゃん戦略」が功を奏し、4年連続の売り上げ前年越え。見事、絶滅危惧種からの再起を果たしたのだ。
入社9カ月で社長に上り詰める~平成のシンデレラストーリー
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2024年12月、藤﨑の自宅にドムドムフードサービスの社員が集まっていた。みんな遠慮せず、料理と酒を楽しんでいる忘年会。料理を作っているのは藤﨑だ。ほとんど座らず動き回っている。藤﨑はドムドムに入る前、料理屋の女将だった。
短大卒業後、21歳で結婚。23歳で母となり、ずっと専業主婦だったが、39歳の時に夫が病に倒れる。家計を支えるため、藤﨑は初めて社会に出て働かなければならなくなった。
友人の紹介で就職した先は東京・渋谷の「SHIBUYA 109」渋谷店のアパレルショップ。ギャル全盛期の2005年、ギャルファッションのショップで店長として働き始めたのだ。
「違和感は間違いなく自身にもあったけど、周りからもあったと思います」(藤﨑)
▽「違和感は間違いなく自身にもあったけど、周りからもあったと思います」とか語る藤﨑さん
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当時の写真を見ると、周囲のほとんどのスタッフは10代のギャルだ。
「これまで生きてきた環境とは全く違う中で、彼女たちの生き様が私にはすごく刺激的で、全体的な価値観が違うということをすごく感じました。人は固定観念に伴って何かをやるけど、違う観点の人もいることを理解すると、自分自身がチャレンジできる」(藤﨑)
次に藤﨑が選んだチャレンジの場はサラリーマンが集う新橋だった。約300店が軒を連ねる「ニュー新橋ビル」にある家庭料理の店「そらき」。ギャルの店から一転、44歳で居酒屋をオープンし、女将になる。店は今も人気店で予約もなかなか取れないほど。現在の店長・新村法子さんは、「109」時代に一緒に働いていた仲間だ。
「19歳から一緒でした。すごく厳しかったです。厳しかったのですが、その中に優しさもありましたし、仕事のやり方とかも好きだった。ついていきたいと思った」(新村さん)
この店の人気メニュー「厚焼きたまご」は藤﨑が考案したもの。そのレシピは後に、ドムドムのヒット商品となる「手作り厚焼きたまごバーガー」に生かされている。
2017年5月、常連客で企業再生を手掛ける会社の役員が「『ドムドムハンバーガー』のメニュー開発をしてくれないか」と、声をかけてきた。
「初めは女将をやりながら、と思っていたので、社員になるのはお断りをしていた。だけどその後もお誘いいただいたので……」(藤﨑)
藤﨑は非常勤でドムドムフードサービスに入社する。するとその働きが評価され、すぐ正社員に。スーパーバイザーとして各地の店舗を飛び回り、やがて幹部社員となって経営会議にも出るようになった。
「経営会議に出て、『具体的な話をしたほうがいいな』と感じました。(親会社は)企業再生のために運営をしている会社ですから、再生しようという意気込みは会社全体にある。けれども、『会社はどこに向かっているのか』『ドムドムがどうなったらいいか』というようなことが見えなかった」(藤﨑)
藤﨑は親会社の役員に電話をかけ、「もっと意見を言える立場にしてほしい」と訴えた。当初は「役員にするのは無理」と言われたが、諦めずに訴え続けると、ある日、親会社から呼び出され、「代表取締役になってくれ」と言われた。
こうして入社して9カ月後に社長に就任。親会社は「ドムドムハンバーガー」の再建を藤﨑に託した。
レジャー施設の集客を後押し~ドムドムで地域を活性化!
10頭の象がいる千葉・市原市の「市原ぞうの国」。象がシンボルキャラクターの「ドムドムハンバーガー」が2021年に出店した。
2025年元日、お昼時に行列ができていた。みんなドムドムのトートバッグを持っている。バッグの正体はドムドムグッズが入った福袋(3,000円)だ。中身はまず、どむぞう印のマグカップ。さらに「ドムドムハンバーガー」で使える食事券が3,000円分入っている。
客がこぞって注文するのは「味噌ピーチキンバーガー」(600円)。千葉名産の味噌ピーナッツをたっぷり挟んだ、市原ぞうの国店でしか食べられないご当地限定バーガーだ。
園長の坂本小百合さんは、「ドムドムハンバーガー」ができて来園者が増えたことを実感しているという。
▽園長の坂本さんは「ドムドムハンバーガー」ができて来園者が増えたことを実感している
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「お客様もすごく喜んでらっしゃるし、ドムドムバーガーを買うためだけに入園料を払ってくださる方もいらっしゃる。本当に感謝感激です」(坂本さん)
ドムドムは、その地にちなんだご当地バーガーで地域を元気にしようと動き出している。
「『ドムドムハンバーガー』の力を借りたい」と手を挙げたのは、東京・稲城市に2025年3月オープン予定の「ジャイアンツタウンスタジアム」。2軍のホームグラウンドだが、ライブイベントなどの開催で、年間30万人の集客を見込んでいる。
野球場は話題の飲食店を呼び込むことが観客増に繋がると、各地の球団や施設は現在、テナント誘致に力を入れている。「ジャイアンツタウンスタジアム」ではテナントを2店舗置く予定で、その1つが「ドムドムハンバーガー」だった。
▽「ジャイアンツタウンスタジアム」テナントの1つが「ドムドムハンバーガー」だった
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「爆発的な企画力、挑戦する力が一番頼りたいところです。ドムドムさんにはそのスピリッツがある」(「よみうりランド」フードサービス部企画課・菅野和博さん)
その厨房を覗くと、カレーライスやラーメンを作れる設備も。テナントが2つしか入らないため、ハンバーガーだけでなくさまざまなメニューで客のニーズに応える考えだ。
目玉となるのが、ジャイアンツカラーの黒とオレンジでまとめた、「厚焼きたまごバーガー」。この球場でしか味わえないご当地限定バーガーだ。
▽ジャイアンツカラーの黒とオレンジでまとめた、「厚焼きたまごバーガー」
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「ドムドムハンバーガー」は地域の集客をバックアップする。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
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「わらしべ長者」に似ている。藁1本でアブを捕らえ、赤んぼうにあげると、母親がミカンをくれる、大長者になる。2005年、39歳で、夫が倒れ、渋谷109で働く。109でいっしょに働いた女性と、44歳で新橋に居酒屋を出す。
常連客が経営権を譲り受けた会社の専務「商品開発を手伝って欲しい」正式に入社してスーパーバイザーを務めたが、現場の声に耳を傾けず、コミュニケーションが不足した会社は危ない。親会社に直談判すると「社長に」現場の提案を「いいんじゃない」と全肯定して鼓舞する。わらしべ長者も、明るかった。